ポジティブトランジションを見ていこう
とらんじしょんってなに~?
前回のゾーンディフェンスに引き続き、また新たなサッカー用語です。
まず「トランジション」という言葉。サッカーに限らず様々な業界で使われる言葉ですが、意味として共通するのが『切り替えと切り替えの間』。スイッチングとかそんな感じですね。今回取り上げるのは「ポジティブトランジション」ですが、ポジティブがあればネガティブもあるわけで、最初はそこから勉強していきましょう。
サッカーにおける切り替えというのは、ボールを奪った時とボールを奪われた時に起こります。まずネガティブトランジション。これはボールを奪われた時です。攻→守に切り替えることを言います。対してポジティブトランジションはこの逆で、守→攻でボールを奪った時を表します。
トランジションが重要視されてるわけ
10年前にペップバルサが爆誕して以降、時間を掛けずに1秒でも早くボールを奪うことが守備戦術においてトレンドとなりました。早くボールを奪いに行くことで相手の攻撃時間を削りシュートまで持ち込ませない→点を取られることはない、ということになります。そして、その進化系としてゲーゲンプレスが生まれ、またゴール前にバスを置かなくともしっかりブロックを築くことができるようになりました。ここまではネガティブトランジションの話です。ポジティブトランジションが重要視されるわけとして、ネガティブトランジションを重視しているのは相手も同じです。相手が早く奪いに来るならそれに対する攻撃へのスピードを上げなくてはならない。奪われる前に攻める。または相手をかわして攻撃を組み立てていく。現代サッカーが早いといわれる所以は、攻守両面でのトランジションが勝負を分けるからであり、1秒でも遅れた瞬間、敗北を意味します。
ゾーンディフェンスとポジティブトランジション
前回ゾーンディフェンスについてやりました。おさらいです。人にマークを付くのがマンツーマンディフェンスであればスペースにマークを付くのがゾーンディフェンスです。
ゾーンディフェンスは奪うためだけにあるのか
ゾーンディフェンスはポジショニングが重要であり、特にネガティブトランジションで後手を取るようでは成り立ちません。各々が適切なポジショニングを取っているとき、ボールを奪いましたとさ。さてポジティブトランジションで攻撃に移り変わるとき、ゾーンディフェンスにて取ったポジショニングは攻撃においても最適なポジショニングであれば、わざわざ動き直すこともなく攻撃に移ることができます。ゾーンディフェンスは何も守備だけではありません。同じポジショニングで攻撃にも役立つなら一石二鳥。果たしてゾーンディフェンスに挑戦中のエスパルスがポジティブトランジションではどうなっているのか見てみましょう。
第14節 vs湘南ベルマーレ 4分
相手最終ラインから楔が入るところです。中盤は竹内河井石毛で中を固めています。
楔入りました。金子が戻ってきます。
竹内河井で挟み込んで相手がトラップをグダりました。戻った金子がボールをカット。
カットしたボールは竹内へ。左サイドにはスペースがあり、速攻チャンスです。
竹内はダイレクトで石毛へ。松原はすでに走り出しているので、前線の2トップも含めれば、カウンター発動時にパスコースが3つあることになります。
DAZNの見逃し配信を観てもらえたらわかると思いますが、金子がカットしてから石毛にボールが渡るまでのスムーズさ。誰1人としてポジショニングを変えたり動きなおしたりすることもなく、竹内がダイレクトで石毛に出したことによる一切無駄のないトランジション。ことがスムーズに進んだことで、最終的にゴール前までボールを運ぶことができました。
同じく vs湘南ベルマーレ 20分
後にクリスランのクロスからのハンド疑惑に繋がるシーンです。
全体が左サイドへスライドしていきます。
ボランチに入れてきました。2トップがプレス。この時に竹内が身近にいた湘南の選手チェック。
「やっぱり来た!」ということでインターセプトし、局面が「守→攻」になります。
竹内のインターセプトをクリスランが拾い竹内へつなぐ。逆サイドの北川金子がカウンターチャンスと捉えスタートを切ります。
竹内が粘ってサイドのクリスランへ。最後は相手の腕に当たってコーナーキックになりましたが、このクロスの時にはエリア内に竹内北川金子と3人が入っていたことを考えれば、1つ2つ先を予測して、各々の役割が明確で(クリスランがサイドに流れてクロス、北川金子がゴール前に入る)スムーズに事が進み、見事なショートカウンターが決まりました。
第15節 vs川崎フロンターレ 53分
ここまではショートカウンターのシーンなので、ここは奪ってから相手のプレスをかわすシーンを見ていこうと思います。
局面はこんなシーン。フロンターレが右サイドでボールキープ。エスパルス守備陣も左サイドに人数を掛けていく。
サイドにキターーーー!ところで二見がカット。ここからフロンターレの素早いネガティブトランジションによってプレスが来ます。エスパルスはこのプレスに対応できるのか。
二見が運び1対1の状況に。斜め後ろで竹内がスタンバイ。さらに石毛とフレイレもいるのでサポート環境はできています。そして河井がスペースある逆サイドへの展開に備えて中央へフリーラン。中盤は切り替えられています。
二見から竹内、そして石毛へ。フロンターレのプレスが襲い掛かってくる中、
石毛からフレイレを経由して逆サイドのソッコへ。こちらには河井と右SBの立田がすでにスタンバイ。ソッコにボールが渡る時点でフロンターレのプレスが弱まり撤退していきました。
相手のネガトラに対応するためには、まずはセーフティファーストとしてバックパスを含めた少ないタッチでのパスワークで広いスペースあるところまでボールを導いていく。この時の注意点として、よほど相手のプレスがきつくない限りはロングボールは蹴らない。早いネガトラの狙いは高い位置でボールを奪いたいのはやまやまですが、ロングボールを蹴らせてボールを回収するというもの。蹴るということは相手の術中に嵌ることなので、なるべくショートパスでかわしていきましょう、あくまで無暗に縦パスを入れずに、まずはボールをキープし落ち着くことを最優先に。
ここまでポジティブトランジションを見てきましたが、ここまでのエスパルスはアップテンポな展開ではわりかしいいポジティブトランジションで素早い展開ができています。ベルマーレ戦やレイソル戦といった勝ちゲームはそんな感じです。しかし、サンフレッチェ戦や鳥栖戦みたいなローテンポで進むゲームでは、逆にポジトラまで相手に合わせる形で遅くなる。展開できない状況に陥ります。これが「持たされている」状況ですね。こうならないために、予め守備位置がそのまま攻撃位置にもなるというポジショニングを取ることが重要になるわけです。そして今のゾーンディフェンスというのはその攻撃についても設計できる仕組みになっています。
以上が今回のテーマであったポジティブトランジションでした。ゾーンディフェンスが完成していくにつれて、攻撃も良くなっていくと思うの心はこんな意味です。またトランジションは現代サッカーにおいてとても重要なキーワードなので、しっかり押さえておきましょう。
次回予告
開幕からの総括をしようか、ワールドカップが始まるのでそちら方面の企画をやるかで絶賛迷い中。