豚に真珠

サンバのリズムに乗せられて、いつの間にかそのオレンジ色に魅了される。それが清水エスパルスというチームなんだ

ピーター・クラモフスキ―のポジショナルプレー/優位を生み出すビルドアップ

「目的は、相手を動かすことでありボールを動かすことではない」

 

 

ポジショナルプレーの先駆者、ペップ・グアルディオラの言葉である。

正しいポジショニングの下、位置的優位性を獲得しながら相手を動かしスペースを生み出す。ピーター・クラモフスキ―率いる新生エスパルスが目指すプレー原則はどのようなスタイルか。今回は3月28日に行われたジュビロ磐田との練習試合をケーススタディとしてみていく。

 

 

 

■生み出されるダイヤモンドと無数のトライアングル

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システムは3-4-3。しかし中盤の形はフラットではなくダイヤモンド。サイドのタスクはウイングに任される。

 

ビルドアップ時の配置は以下の通り

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3バックは横いっぱいに広がり、ハーフスペースには六平と奥井が入る。この配置によって生み出されるはダイヤモンド。クラモフスキ―が中盤をダイヤモンド型にした理由と、ダイヤモンドこそがポジショナルプレーの肝であるわけとは何か。

 

生み出されしダイヤモンドはこちら。

 

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ダイヤモンドを作ることでさらに、無数のトライアングルを作る。これがダイヤモンドの狙い。ダイヤモンドの点と点を結べば、少なくとも1つのダイヤモンドの中に4つはトライアングルができる。ポジショナルプレーの創始者ヨハン・クライフは常にダイヤモンドを生み出すために、システムまで3-4-3を好んだほどである。

 

クラモフスキ―のポジショナルプレーにおいて重要になるダイヤモンドの形成。誰が、どこでどの位置にいることで生み出されるのかを見ていこう。

 

 

 

■サイドでの数的優位作り

3バックの両脇、ソッコと福森は大外に広がる。ボールサイドに配置するストッパーは大外に広がる。この際にバックスは4バックにシステムチェンジ。

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逆サイドのインサイドハーフである六平が落ちて、横にスライド。4バックを作る。相手のプレスを往なすうえで選手がどこにポジションを取るかが重要。

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ソッコにプレスがかかると、ハーフスペースの奥井へ。金子が下がってダイヤモンドを作る。

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大外に金子、中央に竹内、ハーフスペースに奥井とソッコが配置してダイヤモンド形成。ダイヤモンドを作ることで生まれる効果として、「複数のパスコースが生まれる」「相手を引きつけることができる」がある。優位性として位置的優位、数的優位を生み出すことができるのが大きなポイント。だが、最大の狙いとする『誰をどこでフリーにするか』を明確にしない限り、ポジショナルプレーは成立しない。実際のプレーで検証してみよう。

 

 

 

■プレスを無効化にするセットオフェンス

 ジュビロ戦の35分のシーンから振り返ってみる。ここで見ていきたいのは、従来のシステムである3-4-3とセットされたシステムから、どんなボールの動かし方をするのかとどんなポジショニングをするか。それはスペースの掴み方と生み出し方、ポジションチェンジから成る状況変化のことである。


※以下の画像  西澤→後藤

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福森がボール保持。左サイドから始まるビルドアップ。ボールサイドには当然のように人数を掛けている。ココからどうビルドアップを開始していくか。

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福森からサイドに張っていた六平へ。サイドにボールが出たと同時に、後藤と慶太がボールを追い越すように縦に移動。相手DFも引き連れる。

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2人が動いたことによって生まれた中央のスペースに竹内が入り込む。これに相手FWが「ハッ!」と気づき、竹内へのパスコースを封鎖に動き出す。

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六平の選択は更に後方の岡崎へ。これで逆サイドへの展開が可能に。右サイドのターンに移る。奥井がハーフスペースへ、ソッコが大外に張る。位置的には優位な状況だ。

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岡崎から奥井へ。広がる右サイドのオープンスペースでの展開と相手プレッシングがスタート。

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奥井から岡崎経由で降りてきた竹内へ。逆サイドへの展開という、福森から始まった左サイドからのビルドアップワークは一段階終了。

 

左サイドに人数を掛けてスペースを生み出し、生まれたオープンスペースを利用して逆サイドへ展開。展開後に関しては設計不足な点が多いものの、右サイドにはオーバーロード(守備側より攻撃側の方が人数が多いエリアのこと)が生まれていた。

 

 

 

■竹内の“疑似4バック”からのビルドアップ

続いて38分のシーン。GKヴォルピから始まるビルドアップ

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ヴォルピからの展開が始まる。

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竹内がポジションを落とす。相手DFが付いてくる。

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竹内からソッコへ。最終ラインの形は4バック。福森とソッコが実質のSBで、サイドで幅を取るは奥井と後藤。中盤は慶太と六平で、金子がハーフスペースでダイヤモンドを作る。

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竹内→ヴォルピと展開して左サイドの福森へ。

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中央の六平が外へ。相手も引き連れて中央にスペースを作る。そこに慶太が入る。

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福森から中央の慶太へダイアゴナルパス。その慶太の前に、最終ラインから竹内がダイアゴナルランでダイヤモンドを作る。福森・慶太・六平・竹内の4人からなるダイヤモンドを作ることで、各々の選択肢を増やし展開していく。この時の慶太はターンして逆サイドへ展開しようとしたが、相手DFにファールで止められプレーはストップした。

 

 

 

 

前々回のティーラシンの記事でも書いたが、ファンマ・リージョの言葉を借りると

 

「ポジショナルプレーの基本的な思想は、狭いスペースでパスを回すことで大外の選手をフリーにすることにある」

 

これがポジショナルプレーの一番の狙いだ。片方のサイド“ボールサイド”に人数を掛けて、オープンスペースを作り出し、そこに人とボールが入り込む。この繰り返しを行いオーバーロードを作り出す。相手DFがオープンスペースに入る選手をマークするために本来の位置を離れれば、そのエリアは次のオープンスペースとして生まれ変わる。これによって相手DFはゾーンで守っているはずがいつの間にかマンツーマンのようになってしまうのだ。

 

 

 

今回は最終ラインからのビルドアップを中心に見てきたが、次回は最前線にボールが入ったあとのプレーをやっていこう