豚に真珠

サンバのリズムに乗せられて、いつの間にかそのオレンジ色に魅了される。それが清水エスパルスというチームなんだ

ゼ・リカルドのモダンサッカーとビルドアップの手引き書

ポケモン」、ガチでやったことあります?

 

ストーリー中心にやってると分からない、バトルガチ勢っているじゃないですか。全クリしてからが本番だ!みたいな。ストーリーでは絶対使わない技ってありますけど、はいそうです補助技ってやつです。ガチ勢だと補助技をどう使うかがポイントなんですね。有名な言葉として「マンダは初手竜舞や!!」ですけど。

 

その補助技の中に「ビルドアップ」って技があります。もともとビルドアップって言葉はボディビルの言葉で、筋肉を鍛えて肥大化するということらしいです。ポケモンの技では「攻撃と防御を一段階ずつ上げる」という効果があります。ポケモンって裏設定がかなり仕込まれていまして、技も一緒。ビルドアップがこのような効果を発揮するのは、筋肉増強されたということでパワーと打たれ強くなるという意味でしょうけど。

 

 

 

■ゼ・リカルドのモダンサッカー

ゼ・リカルドのサッカーを紐解くのに重要となるキーワードは3つ。

 

・中盤の空洞化

・ファジーゾーン

・サイ

 

この3つの言葉です。

 

ゼ・リカルドのサッカーにおいて最も重要なのが”ビルドアップ”。

なんですが、ビルドアップをする狙いにおいて自分と相手をどうしたいのか。ビルドアップはあくまで手段なので、なぜそれをやる必要があるのかという目的がないといけないんですね。そこでまず1つ目のキーワード「中盤の空洞化」です。

 

 

 

■中盤を空洞化させる狙いとは

昨年の基本フォーメーションは4-4-2ですが、ビルドアップ時は可変して前線が5トップになります。

この基本フォメから↓

 

中盤を空洞化させるメリットとしては、まず相手を前後分断することができる。

中盤を空洞化させてここからどうするかは各々のチーム戦術にもよるんですけど、ウチの場合は、空いたこの中盤に出入りしてボールを引き出す。

 

アゴサンタナがリカルド体制になってハイパフォーマンスになった1つの理由は、中盤が空洞化したことによって下りてこれるスペースがあるということと、下りても5人のFW陣形なので深さを獲っているため、ボールを持って前を向くことができるということ。万能性が引き出されたということですね。相手を前後分断したことによって生まれたスペースは自由に使えよと。

 

アゴが中盤に下りて見事に崩せたシーンがこちらです。


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■ファジーゾーンにおける攻撃の起点

続いてのキーワードが”ファジーゾーン”。SBとSHの中間のポジションです。ここでウイングがボールを持って相手SBと正対する。相手SBをコントロールすることで、局地的に優位性を生む。これに関して詳しくはfootballistaにて記事を書かせていただいたんですけど、

www.footballista.jp

ウイングがこのファジーゾーンでボールを受けるということは、ゼ・リカルドサッカーの大きな特徴の1つです。ブラジル時代でもここに関しては同じくファジーをビルドアップの出口としていました。


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バスコ・ダ・ガマでの戦術解説動画なんですが、主にプレスとビルドアップについてです。

 

ファジーを起点にして下から追い越す。ファジーで受けることが大切なので、低くていいんです。相手SBの裏とかハーフスペースに生まれたスペースを上手く使って一気に攻め込む。

イメージはこれ。前線が5トップ化してるので人は揃っています。なので、どこにポジション獲りすればいいのかが大切。5レーンを活用したトライアングルを作れたらなお最高。超理想的シーンが下の動画。


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中盤空洞化でまずは中盤を空にする。そしてファジーゾーンを起点とすることで相手SBをコントロール、細かなスペースを突いていく。

 

この2つのキーワードの狙いは相手の動きとポジショニングをカオスにする。空洞となったスペースはカオスとなります。ゼ・リカルドのスタイルはポゼッションでじっくり攻めていく遅攻というより、スペースを生み出して素早くそこを突いていく。1度カオスになってしまえば、それを元通りに統制するのは大変なことです。つまり、ボールを奪われたとしても相手はカオス状態、ポジショニングがグチャグチャなのでネガトラの強度が高ければ、簡単に回収できます。ゼ・リカルド体制初期の頃は最終ラインを高く配置して、CBが比較的前で潰していたのは、相手が正常に戻るのを阻止するため早めに潰す必要があるからです。その象徴的シーンが下の動画です。


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回収し終わった後も、相手は頭までカオス状態。ポジショニング統制ができていなかったことも相まってショートカウンターでフィニッシュまで結びつけられました。

 

 

 

■相手のカオスに歯車を掛ける”サイ”

もう1つのキーワードですが、コチラ”サイ”は、サッカーの戦術用語では聞きなれない言葉です。これはサッカーの戦術用語ではなくフットサルの戦術用語です。

 

サッカーの戦術進化には他競技も影響されています。ポジショナルプレーはチェスが元となっている戦術用語ですし、例えばバスケや水球の動き方や局地的なエリアでの打破方法においては様々な戦術家が参考にしています。ラグビー日本代表元HCのエディー・ジョーンズはサッカーのゲーゲンプレスをラグビーに取り入れているとも言いますし。

 

元々フットサル出身のゼ・リカルドが取り入れたサイですが、どういう戦術かというと、簡単に言えば「瞬間的なポジションチェンジ」です。実際のフットサルだとピヴォ(サッカーで言うFW)とアラ(サイドプレイヤー)が入れ替えるのですが、サッカー、というかウチでは5トップがレーンを入れ替えながらスペースを生み出して突いていく。

 

先に動画をお見せしますが、最終節の白崎のゴールはまんまサイです。デコイ役として走った白崎へコロリ→カルリーニョスと繋いでなぜかフリーになってる白崎がフィニッシュする。


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フットサルはフィールドプレイヤーの人数がそもそも少ないので、デコイ役がそのままフィニッシャーに変貌するなんてことはあります。今回は最後の局面だけ切り抜くと、動き方はまんまサイです。

白崎からコロリへ。そのまま白崎はデコイ役

即興でやったとしても出来過ぎな連携です。その他にもコーナーフラッグ目掛けてダイアゴナルに動く”エル”という動きなど、狭いフィールドだからこそできるフットサルのダイナミックな動きを局地的に採用しているのも特徴です。フリーダムと思わしくても、崩しの面でもしっかり動きを仕込んでいます。

 

 

 

■ビルドアップ=攻守の安定=局地的カオス

 

イタリア発のモダンサッカーは、ポジショナルプレーの典型的なプレーモデルではあります。ゼ・リカルドのサッカーの場合は、ビルドアップが全ての肝。これで攻守の安定を図りますが、なぜ攻守が安定するのかというと、スペースを生み出しながら突いていくので局地的に相手にとってはカオスになります。相手はポジションバランスを乱すことになるので奪われたとしても体制を整える間にプレスを仕掛ける。これが大切です。昨シーズンは、ゼ・リカルドのサッカーのすべてが披露できたとは言えませんでした。今季はチーム作りのキャンプの段階からやれるので、どんなチームに仕上がるのか。様子を見守っていきましょう。