ティーラシン・デーンダー。タイからやって来た超ハイブリッド型ストライカー
2020年、清水エスパルスの世界へようこそ。
今回の主人公は、2年ぶりにJリーグに帰ってきた“タイの英雄”ティーラシン・デーンダーを紹介。
ポジショナルプレーにおけるセンターフォワードは、ポイントゲッターだけでなく様々な能力を求められる。ポストプレー、裏へ抜ける動きだし、ファルソ9......。
ティーラシンのプレーをしっかり見たのは開幕戦が初めてだったとはいえ、一目で“何でもできるFW”だということが分かった。
ティーラシンのプレーで象徴的なのが、スペースメイクの動きの質。それは、味方を活かすだけでなく、自分自身も活かすスペースの作り方が逸脱だ。
まずはティーラシンの得点シーンから振り返る。Jリーグ公式、戦術カメラから
左サイド、西澤健太からパスが出るシーン。ティーラシンの背後には森重真人がひかえている。
森重がインターセプトを狙いに前へ出る。ここで出たティーラシンのプレーヤーとしての賢さが、あえて立ち止まり、森重と入れ替わるというところ。
相手が動くことによって、自分の周囲360°にスペースができる。
普通のFWは、インターセプトさせまいと、CBより前に出て先にボールに触ろうとする。実際、このシーンの数秒前にも同様のシーンがあった。ディエゴ・オリヴェイラへのパスを立田悠悟が背後からきてインターセプトしている。
相手との駆け引きによる自らへのスペースメイク。1つの良さが出たシーンだった。
スペースを作る
続いて、味方へのスペースメイクについて。
最前線に張っているティーラシン。ボールを持つは、ボランチの西村。
西村が奥井とのワンツーを挟み前へ。ここでティーラシンの動きが止まる。
ティーラシンがバックステップによってポジションを下げる。そのティーラシンの背後には、トップ下の後藤優介は飛び出している。
ティーラシンがポジションを落とすことで、西村から背後の後藤へのパスコースができる。
後藤がボールを受ける。さらなる背後に、いわゆる左サイド大外には西澤がフリーでボールを受けられる体制が整っている。
「ポジショナルプレーの狙いは、大外の選手をフリーにすることだ」
ファン・マヌエル・リージョ
グアルディオラは、相手のポジションを崩し、そしてフィニッシュに結び付ける最大の鍵は、1対1でDFを抜き去ることだと考えています。私たちと話をしたときも 「ビルドアップの目的は、ウイングが1対1で突破を仕掛ける状況を作り出すことだ」とはっきり言ってました。ポゼッションで相手を片側に寄せておいて、逆サイドで意図的に孤立しているウイングにサイドチェンジして、そこから1対1突破を仕掛ける。そこでDFを抜き去れば。その後はそのままシュートを狙うなり、マイナスのクロスを中央に送り込むなり、最終ラインの裏にスルーパスを通すなり、状況に応じたフィニッシュの形を創り出せる。グアルディオラは「そうやって敵を殺すんだ」という言い方をしていました。
モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー
著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 17項より引用
西澤はその後、自ら切り込みフィニッシュでプレーを終えている。ポジショナルプレーの狙いが見事にハマった瞬間だといえるだろう。
ポジショナルプレーにおいて、CFがどのポジショニングでどんなプレーをするかは重要なカギとなる。そういった戦術の中では、ティーラシンはCFとしてははまり役だ。以前属していたサンフレッチェ広島では、前線にはフィジカルが求められ、思うようなプレーができなかっただろう。
ティーラシンはポジショナルプレーに求められる戦術理解度を完備しており、オンザボール、オフザボールの質を問わない。またプレーエリアも広いので、ポジショナルプレーにおけるCFのモデルケースに成り得る存在だ。味方も自らも活かせられる、超ハイブリッドなストライカーである