豚に真珠

サンバのリズムに乗せられて、いつの間にかそのオレンジ色に魅了される。それが清水エスパルスというチームなんだ

エスパルスのポゼッション問題とポジショナルプレー/デュークのゴーストが囁く

再開後3連勝 YES!! その後は2連敗 YES!!

ということで、目下好調といってもいいのではないかの噂のエスパルス。その最大の要因が守備の安定。以前、ブログ内で紹介したゾーンディフェンスが徐々に浸透しており、

 

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まだまだ未完成ではありますが、現時点ではJリーグ屈指の硬さを持つディフェンスを身に着けているのではないでしょうか。

 

 

???「み、未完成?? それはいささか厳しすぎではぁ~?」

 

 

僕の見立てでは、まだまだ未完成です。守備に関してもあとちょっとなところはありますが、僕がここで一番言いたいのは「今やっているゾーンディフェンスの終着点はどこ?」というところです。

 

 

ゾーンディフェンスにより重要視されるポジティブトランジション

ワールドカップ前に書いた記事なんですが、

 

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 このとき、なぜ僕はポジティブトランジションを書いたのか。トランジションについて書くなら「攻→守」のネガティブトランジションも一緒に書けばよかったじゃ~ン、なんて思った人もいるのではないでしょうか。

 

現在のヤン・ヨンソン率いるエスパルスは、振り返れば開幕したての頃は昨シーズンのスタイルを引き継ぎし徐々にヨンソン色を出していき、4月あたりからヨンソン色に染まりつつありました。4月はなかなか勝てませんでしたが、まぁあの15連戦により戦術の見直しができなかった。十分なオフも取れずに中断期間までひとっ飛びだったので、ゾーンディフェンス取得という今シーズンのテーマに支障が出てしまいました。

 

話を元に戻しましょう。今シーズンのテーマは「ゾーンディフェンス取得」という、今後のヨンソンサッカーの台座にあたる部分を構築しているのです。守備から作るチームがゲームに勝つために大事なのは、相手より先手を打つために重要なのはポジティブトランジションなのです。ボールを奪ったその瞬間から攻撃に切り替わる。これで相手より先手が打てれば一気にゴール前まで行けます。今季はカウンターによるゴールが多いのもその証拠ですね。

重要なポジティブトランジションをよりスムーズに行うには、切り替えるときにポジションの動き直しをしなくても済むということです。守備時のポジショニングが攻撃でも効果を発揮する。「守→攻」がシームレスで行われれば一切の無駄がなく攻めることができます。

 

 

ポジショナルプレーとは?

なんか今年はサッカー用語解説みたいになってる......。それだけサッカー用語が増えてるってことだね。うんうん。

 

ポジショナルプレーという言葉。これはまだ抽象的で、完璧な定義があるかというとないです。人によって違ってくるもんだと思います。それゆえ美しいものです。

 

まず大前提として言っておきたいのは、ポジショナルプレーは、サッカーというゲームに対する1つの解釈であり、それを行う上での1つの方法論だということです。ある特定の哲学に基づくゲームモデルを実現するための枠組みだといってもいい。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 71項より引用 

 ポゼッションだとか、カウンターといったあくまで勝つための手段の1つとしてポジショナルプレーという概念が存在します。選手のポジショニングにより相手より優位に立とうという考え方です。

ポジショナルプレーの最も根本的な原則は、優位性の追求です。この優位性には、数的優位、位置的優位、質的優位という3つがあります。ではこれらの優位性は何のために使われるか。それは、敵プレッシャーラインの背後にフリーの味方を作り出すためです。最終的には、敵最終ラインの背後でそれを実現し、フリーでシュートを打つ状況を作り出すことが目的になります。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 73項より引用

 相手の最終ラインの裏にフリーとなる状況を作る。では、そんなシーンを見てみましょう。明治安田生命J1リーグ第16節セレッソ大阪戦から

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サイドで河井陽介がボールを保持。中央で白崎凌兵がボールを要求。

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次はミッチェル・デューク。白崎に渡るところで裏へ抜け出す。

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白崎はダイレクトでスルーパス。裏のスペースを突く。

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デュークがクロスを上げて北川航也へ。

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で追加点と。完璧な崩し。

 

このシーン、数的優位かというとそうではないです。局面では、ハーフスペースは白崎デュークで相手は2枚と数的同数。不利というわけではなかった。

位置的優位ではどうか。

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これ見ると、セレッソの守備はマンツーマン。人に付いています。スペースを埋めてないので、エスパルスの選手がいないハーフスペースの、相手最終ラインに当たる部分にはスペースが

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位置的優位というのは、敵のプレッシャーラインに対して、その背後にパスコースを作り出す形でマークを外しフリーになった見方がいる状況を指します。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア  75項より引用

 このことはデュークを指しています。白崎に渡るというより、河井からパスが出た瞬間にもうハーフスペースに生まれた裏のスペースに走りこんでいます。ハーフスペースには数字上数的同数です。しかし、白崎が河井からフリーの状態でボールを受ける、デュークがマークを外して動き出す、という時点でセレッソDF陣を2人出し抜いています。つまり実質ハーフスペースは2対0の状況で圧倒的数的優位だったわけです。デュークはハーフスペースに対する嗅覚が敏感で、走りこむだけでなく、このエリアで的となることで相手を引きつけて中央及びサイドにスペースを作るということができます。

 

デューク「ただの脳筋だと思うなYO」

 

エスパルス、ポゼッションの問題

現在のエスパルス基本フォーメーションは4-4-2です。守備時はそれぞれ横一線に並び3ラインを形成します。

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これが攻撃時には

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金子デュークがハーフスペースに入り4-2-2-2のボックス型になります。流動的なのが2トップとSB。外に出るのか内側に絞るのかは中盤によって変わるというのが現状。なので今のところは攻撃の決まり事というのは割と少なく、自由にさせているところがあるといえます。なので、エスパルスにおけるポゼッションの問題は至って簡単。誰がサイドで誰が内側に入るかが曖昧。アレ?これってやばくね?

 

現状のエスパルスビルドアップは2CBと2ボランチの4人。ただこの4人にポジショニングの特徴があるかというと特になし。まだディフェンスに時間を費やしている段階であってポゼッションに力を入れてるわけではないので受け手となる前4人+SBのポジショニングが重要になります。

 

縦の5つのレーン

これは両サイドと中央、そしてそれぞれの間に存在するハーフスペースの5つです。攻め時は中盤がボックス型になるので基本ハーフスペースには金子デュークが入ります。となると2トップとSBのポジショニングは不明確です。この4人の誰が両サイドと中央の残り3つを埋めるのか。

例えば第19節サガン鳥栖戦のドウグラスPK獲得につながるシーン。

 

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立田が奪い白崎へからのカウンターシーンです。この時の右サイドのポジショニングは

 

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金子がサイドにいるので、守備陣形の状態です。ここからカウンターが発動するわけですが、ポジティブトランジションでポジショニングにどう変化が起きるのか

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白崎からサイドに流れたボールに走りこんだのはドウグラス。サイドにいた金子はドウグラスが流れたことで生まれたスペースに走りこむ。

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金子がハーフスペースに走りこむことで、攻撃時のボックス型中盤が生まれるわけですが、その攻撃の起点として右サイドにFWが流れてくるというのがここ最近の形です。ガンバ戦のドウグラスのゴールにつながるシーンもそうでした。

 

カウンター発動のシーンでは、ボランチからサイドにボールが流れるシーンが多いです。右はFWが流れてくる。金子がハーフスペースに入り、あとSBが立田なのでサイドにはFWが流れた方がいい。では逆の左はというと、コチラは松原にデュークとサイズあり攻撃性能ありの選手がいます。

 

例えば先日の第21節川崎フロンターレ戦のドウグラスの先制ゴールは

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河井がカットしてからショートカウンターが始まります。この局面、河井北川デュークでトライアングルができ、前向きでプレーできるのは河井とデュークと2人います。

基本となるのは、トライアングル、ロンボという、ボールを安全かつスムーズに移動させることができる配置です。安全というのは、相手にインターセプトされる可能性が低いということです。具体的には横方向ではなく縦あるいは斜め方向にパスを出す。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 75項より引用 

 

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デュークが左のハーフスペースを攻略するために、デュークが前向きでボールを受けたい。そのために、

縦への志向の強さは、ボールを奪還してから平均何本のパスでフィニッシュしているかというデータからもある程度読み取れます。分析において重要なのは、ボール奪取後にパスを送る基準点となるプレーヤーは誰か、そのプレーヤーはどのような動きでパスを引き出そうとするかといったポイントです。縦への速い展開を狙う場合、基準点となるのはCFかウイングであることが多い。その動き方にも、CFがすぐに裏のスペースをアタックする、手前に引く、サイドに流れる、あるいは逆サイドに張ったウイングが裏のスペースをアタックするなどいくつかのパターンがあります。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 104項より引用 

 

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縦に入れて北川で起点を作り

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ハーフスペースにデュークが突撃。ハーフスペースをクッションに使うことでドウグラスにスペースを与えられる。

 

左の攻撃というのはこんな形が多くて、だいたいデュークがハーフスペースで、松原が大外のレーンでボールを受ける形で始まります。

 

そこでエスパルスの抱える攻撃の問題なんですが、ハーフスペース攻略は金子デュークでできます。攻略の糸口としての入り口にあたる部分も河井白崎から配給されます。ココに関してはいいんです。問題はハーフスペースを攻略後にスペースがない場合、鹿島戦みたいにハーフスペースにカギを閉められたときにどう攻略するのか。

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ハーフスペースをレオシルバによって封鎖されたらあらゆるエリアで数的不利を強いられみんな「ヒィヒィ」と言いながらカウンターに対応していました。現状、ハーフスペースの攻略法がワンパターンしかないのが課題です。デュークの場合は力業でなんとかしてくれる時があるんですが、だいたいフィニッシュまでは持ち込めない。行けてシュートは撃たされるような形。崩せているわけではないので相手のプラン通りに進められているわけです。

 

 

オフェンス完成への道はまだ険し

今の攻め筋はハーフスペースを利用したカウンターのみです。ヨンソンさんはポゼッションサッカー大好き監督なんで最終的にはポゼッションを上げるスタイルを構築していくんだろうと思います。ゾーンディフェンスの完成がそのままオフェンスへの形に繋がると思っています。だからまだまだです。今は速攻パターンを増やしていくことがオフェンス面でのやるべきことではないでしょうか。

 

 

デュークのゴーストが囁く

????「点が取れねぇシュートは下手だ、がなんだ!!あんなにハーフスペースで起点を作れ自ら攻略できれば守備もするしサイズもあって競り合いに勝てる。そんな選手他にいるか!?いるなら言ってみ!少なくとも日本人にはいないぞ!それだけで助っ人としての役目は十分に果たしているぞ!今いなくなってみろ。攻撃グダグダになるからな!!」

 

デューク「わ、枠をなんとかしてくれ......」

 

クリスラン「お、俺はどうなるんだ......」

ロシアを下したクロアチアはW杯を制することができるのか

■2つの心臓

クロアチアの攻撃はいつでもルカ・モドリッチとイバン・ラキティッチの2人から始まる。

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クロアチアのビルドアップは、この2人が最終ラインに組み込むことで中盤を空洞化にし、サイドチェンジを交えながら攻めていく。

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サイドを幅広く使い、前線のマンジュキッチ、クラマリッチペリシッチがフィニッシュするのが攻撃の形だ。

 

 

クロアチアに立ちはだかるロシアの壁

ロシアは、モドリッチラキティッチを抑えるために4‐4‐1‐1で、前2人にモドリッチラキティッチ両方にマークを付けてきた。

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2人に対して執拗にプレスをしたロシアは、ロブレンとヴィダの2人にボールが回るよう誘導。ここから出るボールを狙い、ブロック内で引っ掛けボールを回収する。

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前半のクロアチアの誤算は、出し手2枚にボールが届かず、ロシアの誘導通りにボールを動かしてしまったこと。ロブレンとヴィダからのボールに対するレシーバーを準備できなかったことだ。

 

 

クロアチアの修正

後半にクロアチアがやってきた修正は、中盤にレシーバーを配置すること。その役目になったのがモドリッチ

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ロブレンとヴィダからのパスの供給先になりながら自らも出し手として前線にボールを配給することでクロアチアはゴール前までボールを運ぶことができた。

 

高い位置に上がったモドリッチを抑えるべく、ロシアは中盤を1枚上げモドリッチ番に、そして中央に圧縮する。

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中盤が実質3枚となり、カバーが効かなくなったところで、そのギャップにマンジュキッチが受け手として中盤に降り、ペリシッチとクラマリッチでフィニッシュを担う。

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後半に、この形からペリシッチがポストにシュートを当てたシーンがあったように、クロアチアはロシアの守備を崩していったが、ロシアの集中した守備の前に得点を決められず、しかし最終的にPK戦の末にセミファイナルに進んだとさ。

 

 

クロアチアは優勝できるのか

クロアチア最大の武器は、冒頭で述べたようにモドリッチラキティッチの2人のゲームメーカー。この2人は出し手だけでなく受け手としても優秀であり、前に飛び出してゴールを決めたり、守備にも献身的で自らボールを奪いきってしまったりとハイパーなSランク級のミッドフィルダークロアチアにとって攻撃の修正はこの2人の高い能力によって2人のポジショニングをちょこッといじるだけで解消できたりする。そして残りの選手は彼らの傭兵であり続け、献身的に走り、犠牲になることを嫌わない。チーム力はフランス、ベルギー、イングランドに引けを取らないどころかそれ以上でもあり、ひょっとしたらマジで初優勝ありえるんじゃないかと、個人的には本気で思っていたり、そこまででもなかったり......。

ブラジルに玉砕したコスタリカが得たものは何か

今回はコスタリカ目線です。

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コスタリカの守備

5バックは横いっぱいに、その前に4人が中に絞って中央を施錠。ガブリエル・ジェズスとコウチーニョからなる中央起点を消す。よってブラジルの起点は、サイド高い位置でネイマールとウィリアンが張り、そこに集める。

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ブラジルの崩しは、右はウィリアンがドリブルでカットイン。左はネイマールが縦へのドリブルorマルセロが中央に入ってインナーラップしボールを受けていく。

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ハーフスペースに進入を試みるブラジルに対するコスタリカは、中盤のブライアンルイスがウィリアンに、マルセロにはベネガスがしっかり付いていって、中央からの攻略は阻止。5-4のブロックという、中央とサイドとハーフスペースすべてをカバーする鬼畜守備陣形を形成しました。

 

コスタリカの攻撃

コスタリカがブラジルに勝てるスコアは1-0。後方に人数を掛けているため、大量得点は難しく、そうなると最少得点での勝利だけがコスタリカの現実的プラン。数少ない攻撃チャンスを確実に仕留めるためには、ブラジルのウィークポイントを狙い続けること。

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コスタリカがターゲットとしたのはマルセロ。ここに183㎝の長身ホアン・ベネガスをぶつけ、右サイドを起点。因みに前半のコスタリカゴールキックは全てここを狙っていました。

マルセロの辺りで起点を作れると、マルセロの裏のスペースにウレーニャを走らせ、ブラジルはそのケアとしてカゼミーロが左へ。

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次第にベネガスの空中戦はカゼミーロが担当する。そして、カゼミーロがいなくなった中央に左のブライアン・ルイスが中央に入り込みゴールを狙う。

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攻撃では横にスライドすることでスピードのあるわけではないブラジル守備陣を攻略にかかる。

 

コスタリカを崩したいブラジル

後半からレフティーのドグラス・コスタを投入し勝負に出たブラジル。これにより、ドグラス・コスタはハーフスペースに陣取り、右SBのファグネルが高い位置を取る回数が増えます。

ブラジルがコスタリカ崩しの狙いとしたのが、リベロとストッパーの間のスペース。

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ブラジルは攻撃の起点をハーフスペースに位置取るドグラス・コスタとマルセロにし、コウチーニョとジェズス、そしてパウリーニョにも狙わせ徐々にコスタリカを崩していく。

後半23分にパウリーニョに替えフィルミーノを投入。システムを4-1-4-1に変更し、リベロ脇にフィルミーノとジェズスを配置。

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ほとんど崩せているものの、最後の砦、ケイラー・ナバスを崩せず。しかし我慢強く攻め続けた結果ロスタイムに入りコウチーニョが先制点GET。さらにネイマールが追加点GETで2-0。ブラジルが苦しみながら勝ち点3を取ったとさ。

 

敗者が得たものとは

コスタリカはブラジル崩しに最善を尽くして、そして勝負に敗れました。同時にグループリーグも敗退が決まりましたが、カウンターの精度やアイデアは前回大会を上回るものであり、前回のベスト8は決してフロックではなかったと証明できたことでしょう。王国ブラジル相手に1歩も引くことなく挑み続けた勇者が得たものは、強さと勇敢を証明したという事実でしょう。

『砕かれたハリルホジッチ・プラン』から読み解く、日本がワールドカップで勝つ方法とは?

日本に『デュエル』は合わないのか?

2014年で、「自分たちのサッカー」というポゼッションサッカーを目指したが、全く機能せず世界相手に玉砕する結果に終わった。その後、世界で勝つためにハビエル・アギーレ、そしてヴァヒッド・ハリルホジッチを監督として招聘。特にハリルホジッチは『デュエル』というキーワードを用いて、世界に太刀打ちできる能力を身に着けようとした。

 

フランス語で「決闘」という意味を持つデュエル。それは個人だけではなく、組織として「戦術的デュエル」もハリルホジッチは求めていた。

 ドイツ代表の攻撃スクエアを潰しに行くSH・SB・DHは、ドイツの攻撃陣に自由を与えないデュエルが要求されています。それができてはじめて、人数的、状況的に受け手の準備が不十分なまま、ハーフスペースにボールを出してしまうというという事態へと、ドイツを追いやることができます。

(中略)

本当に、このような「正面衝突」が必要だったのか? アルジェリアにとって、個の力において自らを上回るドイツ代表のスター選手たちとの直接対決を避ける戦略の模索、採用という選択肢はなかったのでしょうか。

そのような選択肢はないのです。あったとしても二義的なものだったでしょう。なぜなら、ドイツ代表の戦術、やり方、その骨格を直接叩くことが勝利への最短・最善の方法だからです。なぜ、それが最短・最善なのか。骨格を叩くことができれば、コチラの手筋に対して相手が取り得る応手の選択肢を狭めることができます。強いチームであればあるほど強固な戦略・戦術的な骨格を備えており、だからこそそれを容易に別の骨格に置き換えることができないからです。

 

砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか? 著者五百藏容 発行星海社 53-56項より引用

それまで守備においては奪いどころを明確に定めず、前からのハイプレスを行ってはかわされるの連続であった日本にとって、戦術的デュエルは世界と対等に渡り合うためのキーワードであった。

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例えば、2010年の岡田武史体制では、中澤佑二田中マルクス闘莉王という屈強なCBを控え、ディフェンシブゾーンに引いて守り、足のあるウイングと本田圭佑のキープ力を生かした攻撃を繰り出した。前回大会は中盤をコンパクトにし、ミドルゾーンにプレスを集中していった。しかしハリルホジッチ体制では、相手によってプレスをするゾーンを変えており、アジア最終予選でのオーストラリア戦ではアウェーではディフェンシブゾーンだったが、ホームでは敵陣のミドルゾーンでプレッシングを行っている。

 

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 最終予選の対オーストラリア代表戦2試合の内容をそれぞれ分析すると、単にホームであるかアウェーであるかという条件以上に、おそらくW杯出場が決定するタイミングになるであろう二度目の対戦で確実にオーストラリア代表を叩き勝ち点3を奪う、そのために彼らの戦略・戦術の骨格に直接打撃を与える戦い方を温存しておく、といった、最終予選全体の流れを見据えたエリア戦略でもあったのではないかと思えます。本当にそうかどうかはハリルホジッチのみぞ知る、というところではありますが、もしそういった深謀遠慮の上での「異なったエリア戦略の駆使」であるならば、まさしく岡田~ザッケローニ以後に臨んだ、「多様なエリアを占領可能な戦略」と「状況に応じエリア戦略を変更できる柔軟性」を日本代表は獲得しつつあったといえるでしょう。

 

砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか? 著者五百藏容 発行星海社 87項より引用

 

西野朗の日本代表

初陣となったガーナ戦では、長谷部誠リベロに使った3バックを採用も攻守において機能していたかというと微妙な結果に終わり、ラインを下げて守ったスイス戦ではまるで歯が立たず、パラグアイ戦では一転、前からのハイプレスサッカーで香川真司乾貴士が躍動。西野体制下における「日本人にあったサッカー」にとって、中澤と闘莉王がいないチームにおいては今の日本チームに合ったスタイルといえる。

コミュニケーションの欠如という、これ以上解任理由に説得力ある言葉で西野朗にバトンタッチされたわけだが、ここ3試合で4年前の楽しい自分たちのサッカーが炸裂したというわけでもない。4年前のサッカーをやるにはいろんなところが劣化しており、4年前にそのスタイルで玉砕されたことを辛うじて覚えていたことだろう。西野朗に、ハリルホジッチのように完璧なプランニングができるとは思えないので、守備におけるプレッシングの位置は相手に合わせてというより、選手の特徴に合わせた形になるだろう。となるとパラグアイ戦で見せた敵陣でのプレッシングを中心としたショートカウンターが中心と予想。ハリルホジッチは相手を丸裸にすることで相手を機能不全としたが、どうやら自分たち主導での守備を敷くのではないか。

日本サッカー、その裾野でプレーする選手にとっての最高到達点である日本代表。ですが、ハリルホジッチの指摘する「デュエル」をはじめとして主に守備のプレー面で多くの問題を抱えてきました。それには次のような理由が考えられます。

  • キャリアのはじめからマンマークか、基準がバラバラで曖昧なゾーンとマンマークのミックスでプレーし続けている選手が多い。精密なゾーンマークの経験や、ゾーンマーク基盤のDFを行うために不可欠なカバーリングを組織的に行う経験に乏しい。
  • そのため、代表クラスでもゾーンDFの理解度が低く、人に強く行った見方が空けたスペースを組織的にカバーし、閉じるといったプレーを持続的に行えない。
  • 高い水準でプレーできる純粋なDHが不足している。
  • アンカーが必要となるシステムでプレーするチームが少なく、アンカーの適役が不足している。

既に既設した通り、現代サッカーでは、「ゾーンDFの精緻ま理解に基づいた、人とスペース双方に強く当たる守備」は高いレベルでプレーするには不可欠のものになっています。そういった守備を実践するためには、めまぐるしく変化する状況の中で周囲と連動しながらスペースを確実に消していくゾーンDFの習熟も、高いレベルのDHも必要ですし、高い戦術理解力で周囲を動かしながら守備をできるアンカープレイヤーもまた必要になります。そのすべてが日本サッカーには不足しています。

 

砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか? 著者五百藏容 発行星海社 162-163項より引用 

 育成面での問題もさることながら、現代表にもその人材のいない日本代表に、横綱相撲の守備をする、いや、でなければ守備が成り立たないチームにおいて、世界に勝つチャンスは果たしてあるのだろうか。

 

ジャイアントキリングを起こす秘策はあるか

初戦のコロンビア戦で1番気を付けなくてはならないのはハメス・ロドリゲス。さらに前回大会は負傷欠場したラダメル・ファルカオハリルホジッチなら、例えばアジア最終予選アウェーUAE戦で絶対的エース、オマル・アブドゥルラフマン完璧に消したときのような策を授けると思われるが、西野ジャパンではそれはさすがに無理で、ハメスにボールを渡せなければいいという考えで臨むだろう。

パラグアイ戦での日本の戦いは、香川、乾、岡崎慎司武藤嘉紀が最前線からプレスし、サイドにボールが来たところでウイングとSBがボールをカットする展開が多かった。

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 パラグアイの組み立ての精度はお世辞にも高いとは言えず、サイドでうまくカットできたが、ゾーンディフェンスやアンカー不在という問題を抱えている以上、奪いきれなかった事まで想定すると、その先にハメス、ファルカオ、ファン・ギジュルモ・クアドラードが控えていると考えると分は悪い。また引いて守るにしろ、フィジカルで世界に通じるのは吉田麻也くらいで他は未知数。それでゾーンディフェンスが基本としてなっていないとすれば、余程ゴール前に人が密集していない限り引いて守ることは自殺行為でしかない。

日本がジャイアントキリングを起こす条件として、自分たちのサッカーをやるならばハイプレスからのショートカウンターに全力を注ぐしかない。ハリルホジッチを否定した以上、ピッチを4分割して相手に応じたプレスができないのだからハイプレスに割り切るしか方法はないだろう。

 

ハリルホジッチ負の遺産なのか

 日本サッカーは、どうやらパスサッカーこそが目指すべきスタイルだと把握しているらしく、速攻を主体としていたハリルホジッチのスタイルを真っ向から否定してきた。現在の西野体制でも、デュエルを否とする練習、そして初陣のガーナ戦ではこれまでの3年間を積み重ねが跡形もなく消し去られていたことから、現場も同じ意見だということになるだろう。

 

しかし、デュエルというのは、世界相手に戦う以前にサッカーというスポーツ上基本的なプレーであって、合う合わないの問題ではない。また速攻を否定するのもおかしな話で、バルサでもまずは縦に速くボールを入れて相手を崩すことから始めていく。ポゼッションを高めるのは、速攻でゴール前までたどり着けなかった時だけだ。その点、日本サッカーは「ポゼッションのためのポゼッション」に終始してしまい、本来の目的を見落としてきている。そもそも日本サッカーはアンダー年代も含め、パスサッカーで世界相手に結果を残したことはあっただろうか。むしろそれこそデュエル重視のスタイルこそ結果を残している。ハリルホジッチのサッカーで日本が勝てるかは結局分からないままに終わった。だがハリルホジッチのサッカーが日本に合わないと考えるのは見当違いだ。日本が本気で世界に立ち向かうためにはハリルホジッチが植え付けようとしたスタイルを突き詰めることが近道だ。

ハリルホジッチが、ワイドからの崩しのイメージをサジェスチョンするときに「オブリック・ランニング」を強調していたことも、彼の指示が「縦に速く」 などという雑な物言いでなかったことをうかがわせてくれます。「オブリック・ランニング」とはくの字(逆くの字)の動きのことで、正対する相手の視界から一度外側に逃げながら、パサーとタイミングを合わせて内側に方向を変え相手の背後に入っていく動きを意味します。ひとつひとつのプレーに対するサジェスチョンとしては、「スペースに速く入れ」「背後に速く入れ」という戦術レベルでのサジェスチョンとは明らかに論理的に接続しています。

 

砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか? 著者五百藏容 発行星海社 192項より引用

 デュエルは、ただ1対1で負けないということでもなく、速攻は、シンプルに縦パスをバンバン送るということではない。あくまで戦術の一環であり手段に過ぎない。ハリルホジッチは本気で日本を強くしようとした。その灯は決して消えてはならない。世界に勝つためのヒント。それは既にハリルホジッチが提示している。

ポルトガルvsスペイン/これが世界だ!!

遂に開幕したFIFAワールドカップinロシア!!

 

グループリーグ初戦でいきなりのビッグマッチ、ポルトガルvsスペインです。

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ポルトガルのハイプレスとバルサ色消えたスペイン

立ち上がり、ペースを握ることに成功したのはポルトガル。4-4-2の3ラインで前から嵌めに行き、ついに守備がプログラミングされたロナウドがピケとラモスに、ゲデスがブスケツにマーク。このポルトガルの守備をモウリーニョはどんな目で観ているかは定かではないですが、ボール保持者ではなく残りの9人にマークを付くことで、スペインのレシーバーを消していく。

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ハイプレスによって高い位置でカットしたポルトガルがPKゲットでロナウド先制。早くもしびれを切らしたスペインはウイングのイスコとダビド・シルバが落ちてくる形でビルドアップに関与。かつてのピッチを幅広く使ったバルサのスタイルが消えつつある中で、組み立ての中心は左サイド。

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ラモスがボールを運び、アルバが幅を取る。中央でイスコとイニエスタがボールを受けポルトガルを左から押し込んでいく。

 

ブスケツの存在感とポルトガルを崩していくダビド・シルバ

左サイドに攻撃が集中するスペイン。ポルトガルも人数を掛けてきたことから右のダビド・シルバをトップ下に移行。右を捨て左からの攻撃を徹底する。

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特に後半からは左サイドにイスコ、イニエスタ、シルバの3人が揃うなど、その徹底ぶりはポルトガルを困らせ、サイドにアルバ、ハーフスペースに三銃士を置き、W・カルバーリョとペペをハーフスペースに留め、ゴール前はジエゴ・コスタとジョゼ・フォンテの一騎打ちになる状況に。

しかし、ナチョしかいない右サイドは、高速カウンターを十八番とするポルトガルにとって格好の餌食とされ、ロナウドに後半からはジョアン・マリオに起点とされる。しかしそこは世界一にサッカーIQを誇るスペイン。スペインでも1,2を争うIQの高いブスケツが世界の均衡を保つ。最終ラインに自らが入ることでピケを右サイドの門番にし、ナチョを高めに配置する。またナチョにもボール配給することでポルトガル右サイドを牽制。

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全てのエリアを支配したスペインは、セットプレーから2点目、そして左ハーフスペースでの鬼キープから逆サイドでノーマークの伏兵ナチョが逆転ゴール。流れからしても、このままスペイン逃げ切るか!っとおもいきや......。

 

クリスティアーノ・ロナウドレアル・マドリード=理不尽

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誰が取れるんじゃい!

 

普段のレアルでもそうだけど、試合の流れとか空気とかお構いなしに理不尽に得点を取り続けてるの何? たぶんラモスは対戦していておかしな感情になったことでしょう。いつだって点取れる人間兵器と化したクリスティアーノ・サイボーグ・ロナウドハットトリックで注目カードは3-3の壮絶な点取り合戦に終わったとさ。

ポジティブトランジションを見ていこう

とらんじしょんってなに~?

前回のゾーンディフェンスに引き続き、また新たなサッカー用語です。

まず「トランジション」という言葉。サッカーに限らず様々な業界で使われる言葉ですが、意味として共通するのが『切り替えと切り替えの間』。スイッチングとかそんな感じですね。今回取り上げるのは「ポジティブトランジション」ですが、ポジティブがあればネガティブもあるわけで、最初はそこから勉強していきましょう。

 

サッカーにおける切り替えというのは、ボールを奪った時とボールを奪われた時に起こります。まずネガティブトランジション。これはボールを奪われた時です。攻→守に切り替えることを言います。対してポジティブトランジションはこの逆で、守→攻でボールを奪った時を表します。

 

トランジションが重要視されてるわけ

10年前にペップバルサが爆誕して以降、時間を掛けずに1秒でも早くボールを奪うことが守備戦術においてトレンドとなりました。早くボールを奪いに行くことで相手の攻撃時間を削りシュートまで持ち込ませない→点を取られることはない、ということになります。そして、その進化系としてゲーゲンプレスが生まれ、またゴール前にバスを置かなくともしっかりブロックを築くことができるようになりました。ここまではネガティブトランジションの話です。ポジティブトランジションが重要視されるわけとして、ネガティブトランジションを重視しているのは相手も同じです。相手が早く奪いに来るならそれに対する攻撃へのスピードを上げなくてはならない。奪われる前に攻める。または相手をかわして攻撃を組み立てていく。現代サッカーが早いといわれる所以は、攻守両面でのトランジションが勝負を分けるからであり、1秒でも遅れた瞬間、敗北を意味します。

 

ゾーンディフェンスとポジティブトランジション

前回ゾーンディフェンスについてやりました。おさらいです。人にマークを付くのがマンツーマンディフェンスであればスペースにマークを付くのがゾーンディフェンスです。

 

ゾーンディフェンスは奪うためだけにあるのか

ゾーンディフェンスはポジショニングが重要であり、特にネガティブトランジションで後手を取るようでは成り立ちません。各々が適切なポジショニングを取っているとき、ボールを奪いましたとさ。さてポジティブトランジションで攻撃に移り変わるとき、ゾーンディフェンスにて取ったポジショニングは攻撃においても最適なポジショニングであれば、わざわざ動き直すこともなく攻撃に移ることができます。ゾーンディフェンスは何も守備だけではありません。同じポジショニングで攻撃にも役立つなら一石二鳥。果たしてゾーンディフェンスに挑戦中のエスパルスがポジティブトランジションではどうなっているのか見てみましょう。

 

 第14節 vs湘南ベルマーレ 4分

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 相手最終ラインから楔が入るところです。中盤は竹内河井石毛で中を固めています。

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 楔入りました。金子が戻ってきます。

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竹内河井で挟み込んで相手がトラップをグダりました。戻った金子がボールをカット。

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 カットしたボールは竹内へ。左サイドにはスペースがあり、速攻チャンスです。

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 竹内はダイレクトで石毛へ。松原はすでに走り出しているので、前線の2トップも含めれば、カウンター発動時にパスコースが3つあることになります。

 

DAZNの見逃し配信を観てもらえたらわかると思いますが、金子がカットしてから石毛にボールが渡るまでのスムーズさ。誰1人としてポジショニングを変えたり動きなおしたりすることもなく、竹内がダイレクトで石毛に出したことによる一切無駄のないトランジション。ことがスムーズに進んだことで、最終的にゴール前までボールを運ぶことができました。

 

同じく vs湘南ベルマーレ 20分

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後にクリスランのクロスからのハンド疑惑に繋がるシーンです。f:id:butani-sinju:20180531213259j:plain

全体が左サイドへスライドしていきます。

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ボランチに入れてきました。2トップがプレス。この時に竹内が身近にいた湘南の選手チェック。

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「やっぱり来た!」ということでインターセプトし、局面が「守→攻」になります。

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竹内のインターセプトをクリスランが拾い竹内へつなぐ。逆サイドの北川金子がカウンターチャンスと捉えスタートを切ります。

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竹内が粘ってサイドのクリスランへ。最後は相手の腕に当たってコーナーキックになりましたが、このクロスの時にはエリア内に竹内北川金子と3人が入っていたことを考えれば、1つ2つ先を予測して、各々の役割が明確で(クリスランがサイドに流れてクロス、北川金子がゴール前に入る)スムーズに事が進み、見事なショートカウンターが決まりました。

 

 

第15節 vs川崎フロンターレ 53分

ここまではショートカウンターのシーンなので、ここは奪ってから相手のプレスをかわすシーンを見ていこうと思います。f:id:butani-sinju:20180601214347j:plain

局面はこんなシーン。フロンターレが右サイドでボールキープ。エスパルス守備陣も左サイドに人数を掛けていく。

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サイドにキターーーー!ところで二見がカット。ここからフロンターレの素早いネガティブトランジションによってプレスが来ます。エスパルスはこのプレスに対応できるのか。

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 二見が運び1対1の状況に。斜め後ろで竹内がスタンバイ。さらに石毛とフレイレもいるのでサポート環境はできています。そして河井がスペースある逆サイドへの展開に備えて中央へフリーラン。中盤は切り替えられています。

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二見から竹内、そして石毛へ。フロンターレのプレスが襲い掛かってくる中、

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石毛からフレイレを経由して逆サイドのソッコへ。こちらには河井と右SBの立田がすでにスタンバイ。ソッコにボールが渡る時点でフロンターレのプレスが弱まり撤退していきました。

 

相手のネガトラに対応するためには、まずはセーフティファーストとしてバックパスを含めた少ないタッチでのパスワークで広いスペースあるところまでボールを導いていく。この時の注意点として、よほど相手のプレスがきつくない限りはロングボールは蹴らない。早いネガトラの狙いは高い位置でボールを奪いたいのはやまやまですが、ロングボールを蹴らせてボールを回収するというもの。蹴るということは相手の術中に嵌ることなので、なるべくショートパスでかわしていきましょう、あくまで無暗に縦パスを入れずに、まずはボールをキープし落ち着くことを最優先に。

 

 

ここまでポジティブトランジションを見てきましたが、ここまでのエスパルスはアップテンポな展開ではわりかしいいポジティブトランジションで素早い展開ができています。ベルマーレ戦やレイソル戦といった勝ちゲームはそんな感じです。しかし、サンフレッチェ戦や鳥栖戦みたいなローテンポで進むゲームでは、逆にポジトラまで相手に合わせる形で遅くなる。展開できない状況に陥ります。これが「持たされている」状況ですね。こうならないために、予め守備位置がそのまま攻撃位置にもなるというポジショニングを取ることが重要になるわけです。そして今のゾーンディフェンスというのはその攻撃についても設計できる仕組みになっています。

 

 

以上が今回のテーマであったポジティブトランジションでした。ゾーンディフェンスが完成していくにつれて、攻撃も良くなっていくと思うの心はこんな意味です。またトランジションは現代サッカーにおいてとても重要なキーワードなので、しっかり押さえておきましょう。

 

 

 

 

次回予告

開幕からの総括をしようか、ワールドカップが始まるのでそちら方面の企画をやるかで絶賛迷い中。

ヨンソン式ゾーンディフェンスの手引

ゾーンディフェンスとは?
サッカーの守備戦術には大きく分けて2つあり、1つは人が人をマークするマンマークディフェンスと、人がゾーンをマークするゾーンディフェンスです。

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1人1人に守備タスクを与えるエリアを設定。

一方のゾーンディフェンスは、相手の攻撃者に守備位置を操作されることはありません。守備者のポジションは味方の位置によって連動して決まる。まずボールがあって、そこにアプローチするファーストディフェンダーに連動しながら、セカンドディフェンダーサードディフェンダーと連なるように守備のポジションが決まっていく。

サッカー 守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著者松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 82項より引用

例えばサイドにボールがあれば

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横にスライドしてゾーンに穴が開かないように伏せる。そのボールが中に入ったら

 

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ボールが動くごとに選手個々の動きが変動し、距離感を保ちながらチャレンジ&カバーを徹底する。これが簡単なゾーンディフェンスの説明です。

 

ゾーンディフェンスを説明するって、実はすごく難しいです。日本国内でよく観られる守備というと、例えばボール保持している相手選手に対してプレスを仕掛けるときに、自身がマークしていた選手を離し、他の選手にマークを受け渡す、というシーンがあります。

 

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ただこれはゾーンディフェンスではなくマンツーマンディフェンスです。そこに人がいるからマークするという感じで、決して自分のゾーンを持って守備をしているわけではないんですよね。ゾーンディフェンスが見るのは人ではなくスペースです。相手ボールの動きに合わせポジショニングを取り、自分のエリアにボールが入ってきたら奪いに行くのがゾーンディフェンスです。

 

エスパルスの4-4-2とヨンソン式ゾーンディフェンス

昨シーズンから引き続き4-4-2のシステムであるエスパルスですが、4-4-2というシステムはゾーンディフェンスに適したシステムといえます。ピッチの105×68サイズをバランスよく人を配置するなら、横は4人は必要です。となると4-4-2もしくは4-1-4-1。しかし4-1-4-1となると前線に人がいないのでカウンターに素早く移行するのに2トップだろうと。

 

現在のエスパルス基本守備体型は4-4が横一線に並ぶ。開幕戦から数試合は2トップが守備のスターターとして前からプレスし後ろが連動する。

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相手が後方でビルドアップをしているとき、守る側として1番やってはいけないのが縦にパスを出されること。相手CBがボールを保持したときは2トップの1人がプレスし、相棒と中盤の4人が内側に絞り縦へのパスコースを消す。今季のエスパルスの守備では、CBから縦パスを出されるシーンがほぼない。ボールは必然としてサイドへ誘導されます。視野が180度になるサイドならボールタッチラインへ追い込み中盤はサイドへスライド。

全員でワイドミッドフィルダーのエリアにボールを誘い込むイメージです。というのも、相手の中央のセンターバックがボールを持っているときは、左右どちらのサイドにも逃げる場所があるので、真ん中にボールがあるときはプレスがかからないんです。だから、まず第一線の選手が“相手に突破されないことだけを目的にした守備”を敢行しながら、サイドへと追い込むことが重要になる

 

サッカー 守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著者松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 104項より引用 

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ゾーンディフェンスではこの相手サイドにボールを誘導して奪う。もちろん中への扉は頑丈に施錠して。

 

そこで、ヨンソン式でのゾーンディフェンスなんですが、開幕直後はハイプレスによる守備がハマっていました。このあたりはまだスカウティングされていなかったのと、ゾンではまだ甘いところはマンツーマンで対応するなど、そこそこ守備においては安定を図っていました。ですが、マンツーマンディフェンスというのはスカウティングされやすく、また広大なスペースを生んでしまうこともあり1年間ず~っとマンツーマンディフェンスで行くのは余程の守備での個の力が必要となります。特にウチみたいに河井&竹内という攻撃的な2ボランチを敷いている場合はマンツーマンを貫くのに限界があります。

 

ヨンソン式ゾーンディフェンスは、現段階ではリトリートによるものが基本です。中央だけではなくゴール前や付近のスペースも消す。まずは守備を立て直したい現段階では順序としては正解のルートを歩んでいるかもしれません。ではここで、現在のリトリート型ゾーンディフェンスについてみていきます。

現在のエスパルスがプレッシングをスタートするのは、ハイプレス時は2トップと2列目の4選手。

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相手が最終ラインで組み立てしてるときは基本マンツーマンです。相手ボランチにボールが入った時はf:id:butani-sinju:20180426222354j:plain

ウチもボランチが前に出て対応。ここでは前を向かせなければOKです。

ゾーンに移るのは自陣にボールが入る一歩手前。もともとリトリートなので守備位置は低めです。f:id:butani-sinju:20180426223454j:plain

中は締めているので、サイドの高い位置に出されることが多いですが、例えばエスパルス右サイド。本職ではない19歳CBの立田がいる右SBは狙われることが多いですが、その裏はソッコがカバーに入る。では本来ソッコいるべきポジションはどうなるかというと逆サイドのCBが中に絞るよりボランチが降りてくるパターンが多い。そのサンプルのちのち出しますが、CB絞れというより中盤速く戻ってこいと言われているんでしょう。で、カバーに入ったボランチの穴はどうするで、さらに人がスペースをカバーする。右サイドなら金子。

しっかりゾーンで守っているときは意外とこれができている。ゾーンディフェンスを始めてまだ数ヶ月ですが、とくに金子がゾーンディフェンスになじみ始めたのは大きいです。

ゾーンディフェンスは基本サイドにボールを振られます。まぁ、中央にズバッと縦パス通されるゾーンディフェンスはゾーンディフェンスではないですし。そこで辛くなるのが、誰がサイドでの受け手に対しファーストコンタクトを取るのか。そしてそれに伴うポジションの変動によるスライド。誰がどこにポジショニングを取りゾーンを確保するか。これは難しいことです。例えば、カバーに入る選手が1歩でもタイミングが遅れたらゾーンディフェンスは成り立たないです。また1人でも逸脱したプレーをしたらそれもまたゾーンディフェンスは成り立たない。ゾーンディフェンスはスペースを守る守備戦術なので、どこかに穴が開きます。2トップも含めて、勝手な行動は許されないのです。

 

ゾーンディフェンス進捗状況

では実際にサンプルを上げてみてきます。

第9節FC東京戦のシーンです。40分04秒から

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FC東京森重真人からチャンヒョンスにボールが渡るシーンです。エスパルスは左から右へスライドします。

 

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左SBの小川にボールが渡ると、エスパルスは金子がファーストコンタクト。FC東京は東が降りてきました。

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東がボールを受けて前を向く。中盤はスライドし縦パス封鎖する。

 

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東が持ち上がったことで河井が飛び出してプレス。金子がそのカバーに入る。

 

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東に縦への選択肢を消し、ボランチ橋本拳人も北川航也が消し、東の残された選択肢は森重に預け組み立て直すのみに。

f:id:butani-sinju:20180428224943j:plainボールを受けた森重は右サイドへ運ぶ。エスパルス中盤も左へスライド。北川にプレスを受けられた森重に対しFC東京は室屋成と永井謙佑がサポートに入るもゾーンを敷いているエスパルス守備陣形の前では数的不利&打開できるスペースがなく

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結果、キーパーへ戻すことに。第1段階成功。

 

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続く第2段階。キーパーからCB経由で橋本へ。クリスランと金子がプレス

 

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左SBの小川へ。金子がプレスし、

 

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バックパスし高萩洋次郎へ。

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その後はサイドの東へ。中盤が右へスライド。

 

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サイドからは崩せず、小川経由でもう1度高萩へ。その後のプレスは

 

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最後の1枚。ここで両チームのフィールドプレーヤー全員登場となりましたが、エスパルスの各選手配置ですが、逆サイドのケアしてる石毛と2トップを除けば、非常に密集しています。特に中央。もはやスペースなんてない。ボール保持した橋本の選択肢はリスク承知で裏狙うか、リスク承知で逆サイドの室屋を狙うか、リスク承知で2トップ控えるFC東京方陣へバックパスするかのどれか。ここまでのFC東京のパスワークはサイドチェンジ及びボランチに預ける横パスが中心です。楔は一切入れておらず、回せば回すほど選択肢が減っていく。最終的にスペース無く追い詰められる。

この後なんですが、橋本はリスク承知で裏を狙い、当然のようにカットされました。ヨンソン式ゾーンディフェンスは、最初はセオリー通りサイドへ誘導。その後は格選手間の距離を徐々に縮めスペースを消していきボールを奪う。「徐々に圧縮していこうぜ!」ゾーンディフェンスがヨンソン式です。

横と縦。360度の視野で互いの選手との適切な距離感を保てなければ、上手くボールを奪うことはできません。特にうまくゾーンディフェンスができない時は、ハイプレス時に後ろと呼吸が合わず前4人がプレスしてしまい、相手中盤にスペースを与えてしまう。その後は押し込まれ組織が整っていないからセカンドも拾えないなどなど。ゾーンディフェンスっていうのは難しいです。監督によってその形も違います。あくまで今回はヨンソン式ということで。

 

次回は守➡攻への切り替え、「ポジティブトランジション」について見ていきます。あっ、もしかしたら個人技が入るかな? そこらへんはお楽しみに