豚に真珠

サンバのリズムに乗せられて、いつの間にかそのオレンジ色に魅了される。それが清水エスパルスというチームなんだ

ヨンソン式ゾーンディフェンスの手引

ゾーンディフェンスとは?
サッカーの守備戦術には大きく分けて2つあり、1つは人が人をマークするマンマークディフェンスと、人がゾーンをマークするゾーンディフェンスです。

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1人1人に守備タスクを与えるエリアを設定。

一方のゾーンディフェンスは、相手の攻撃者に守備位置を操作されることはありません。守備者のポジションは味方の位置によって連動して決まる。まずボールがあって、そこにアプローチするファーストディフェンダーに連動しながら、セカンドディフェンダーサードディフェンダーと連なるように守備のポジションが決まっていく。

サッカー 守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著者松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 82項より引用

例えばサイドにボールがあれば

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横にスライドしてゾーンに穴が開かないように伏せる。そのボールが中に入ったら

 

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ボールが動くごとに選手個々の動きが変動し、距離感を保ちながらチャレンジ&カバーを徹底する。これが簡単なゾーンディフェンスの説明です。

 

ゾーンディフェンスを説明するって、実はすごく難しいです。日本国内でよく観られる守備というと、例えばボール保持している相手選手に対してプレスを仕掛けるときに、自身がマークしていた選手を離し、他の選手にマークを受け渡す、というシーンがあります。

 

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ただこれはゾーンディフェンスではなくマンツーマンディフェンスです。そこに人がいるからマークするという感じで、決して自分のゾーンを持って守備をしているわけではないんですよね。ゾーンディフェンスが見るのは人ではなくスペースです。相手ボールの動きに合わせポジショニングを取り、自分のエリアにボールが入ってきたら奪いに行くのがゾーンディフェンスです。

 

エスパルスの4-4-2とヨンソン式ゾーンディフェンス

昨シーズンから引き続き4-4-2のシステムであるエスパルスですが、4-4-2というシステムはゾーンディフェンスに適したシステムといえます。ピッチの105×68サイズをバランスよく人を配置するなら、横は4人は必要です。となると4-4-2もしくは4-1-4-1。しかし4-1-4-1となると前線に人がいないのでカウンターに素早く移行するのに2トップだろうと。

 

現在のエスパルス基本守備体型は4-4が横一線に並ぶ。開幕戦から数試合は2トップが守備のスターターとして前からプレスし後ろが連動する。

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相手が後方でビルドアップをしているとき、守る側として1番やってはいけないのが縦にパスを出されること。相手CBがボールを保持したときは2トップの1人がプレスし、相棒と中盤の4人が内側に絞り縦へのパスコースを消す。今季のエスパルスの守備では、CBから縦パスを出されるシーンがほぼない。ボールは必然としてサイドへ誘導されます。視野が180度になるサイドならボールタッチラインへ追い込み中盤はサイドへスライド。

全員でワイドミッドフィルダーのエリアにボールを誘い込むイメージです。というのも、相手の中央のセンターバックがボールを持っているときは、左右どちらのサイドにも逃げる場所があるので、真ん中にボールがあるときはプレスがかからないんです。だから、まず第一線の選手が“相手に突破されないことだけを目的にした守備”を敢行しながら、サイドへと追い込むことが重要になる

 

サッカー 守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著者松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 104項より引用 

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ゾーンディフェンスではこの相手サイドにボールを誘導して奪う。もちろん中への扉は頑丈に施錠して。

 

そこで、ヨンソン式でのゾーンディフェンスなんですが、開幕直後はハイプレスによる守備がハマっていました。このあたりはまだスカウティングされていなかったのと、ゾンではまだ甘いところはマンツーマンで対応するなど、そこそこ守備においては安定を図っていました。ですが、マンツーマンディフェンスというのはスカウティングされやすく、また広大なスペースを生んでしまうこともあり1年間ず~っとマンツーマンディフェンスで行くのは余程の守備での個の力が必要となります。特にウチみたいに河井&竹内という攻撃的な2ボランチを敷いている場合はマンツーマンを貫くのに限界があります。

 

ヨンソン式ゾーンディフェンスは、現段階ではリトリートによるものが基本です。中央だけではなくゴール前や付近のスペースも消す。まずは守備を立て直したい現段階では順序としては正解のルートを歩んでいるかもしれません。ではここで、現在のリトリート型ゾーンディフェンスについてみていきます。

現在のエスパルスがプレッシングをスタートするのは、ハイプレス時は2トップと2列目の4選手。

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相手が最終ラインで組み立てしてるときは基本マンツーマンです。相手ボランチにボールが入った時はf:id:butani-sinju:20180426222354j:plain

ウチもボランチが前に出て対応。ここでは前を向かせなければOKです。

ゾーンに移るのは自陣にボールが入る一歩手前。もともとリトリートなので守備位置は低めです。f:id:butani-sinju:20180426223454j:plain

中は締めているので、サイドの高い位置に出されることが多いですが、例えばエスパルス右サイド。本職ではない19歳CBの立田がいる右SBは狙われることが多いですが、その裏はソッコがカバーに入る。では本来ソッコいるべきポジションはどうなるかというと逆サイドのCBが中に絞るよりボランチが降りてくるパターンが多い。そのサンプルのちのち出しますが、CB絞れというより中盤速く戻ってこいと言われているんでしょう。で、カバーに入ったボランチの穴はどうするで、さらに人がスペースをカバーする。右サイドなら金子。

しっかりゾーンで守っているときは意外とこれができている。ゾーンディフェンスを始めてまだ数ヶ月ですが、とくに金子がゾーンディフェンスになじみ始めたのは大きいです。

ゾーンディフェンスは基本サイドにボールを振られます。まぁ、中央にズバッと縦パス通されるゾーンディフェンスはゾーンディフェンスではないですし。そこで辛くなるのが、誰がサイドでの受け手に対しファーストコンタクトを取るのか。そしてそれに伴うポジションの変動によるスライド。誰がどこにポジショニングを取りゾーンを確保するか。これは難しいことです。例えば、カバーに入る選手が1歩でもタイミングが遅れたらゾーンディフェンスは成り立たないです。また1人でも逸脱したプレーをしたらそれもまたゾーンディフェンスは成り立たない。ゾーンディフェンスはスペースを守る守備戦術なので、どこかに穴が開きます。2トップも含めて、勝手な行動は許されないのです。

 

ゾーンディフェンス進捗状況

では実際にサンプルを上げてみてきます。

第9節FC東京戦のシーンです。40分04秒から

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FC東京森重真人からチャンヒョンスにボールが渡るシーンです。エスパルスは左から右へスライドします。

 

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左SBの小川にボールが渡ると、エスパルスは金子がファーストコンタクト。FC東京は東が降りてきました。

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東がボールを受けて前を向く。中盤はスライドし縦パス封鎖する。

 

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東が持ち上がったことで河井が飛び出してプレス。金子がそのカバーに入る。

 

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東に縦への選択肢を消し、ボランチ橋本拳人も北川航也が消し、東の残された選択肢は森重に預け組み立て直すのみに。

f:id:butani-sinju:20180428224943j:plainボールを受けた森重は右サイドへ運ぶ。エスパルス中盤も左へスライド。北川にプレスを受けられた森重に対しFC東京は室屋成と永井謙佑がサポートに入るもゾーンを敷いているエスパルス守備陣形の前では数的不利&打開できるスペースがなく

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結果、キーパーへ戻すことに。第1段階成功。

 

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続く第2段階。キーパーからCB経由で橋本へ。クリスランと金子がプレス

 

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左SBの小川へ。金子がプレスし、

 

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バックパスし高萩洋次郎へ。

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その後はサイドの東へ。中盤が右へスライド。

 

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サイドからは崩せず、小川経由でもう1度高萩へ。その後のプレスは

 

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最後の1枚。ここで両チームのフィールドプレーヤー全員登場となりましたが、エスパルスの各選手配置ですが、逆サイドのケアしてる石毛と2トップを除けば、非常に密集しています。特に中央。もはやスペースなんてない。ボール保持した橋本の選択肢はリスク承知で裏狙うか、リスク承知で逆サイドの室屋を狙うか、リスク承知で2トップ控えるFC東京方陣へバックパスするかのどれか。ここまでのFC東京のパスワークはサイドチェンジ及びボランチに預ける横パスが中心です。楔は一切入れておらず、回せば回すほど選択肢が減っていく。最終的にスペース無く追い詰められる。

この後なんですが、橋本はリスク承知で裏を狙い、当然のようにカットされました。ヨンソン式ゾーンディフェンスは、最初はセオリー通りサイドへ誘導。その後は格選手間の距離を徐々に縮めスペースを消していきボールを奪う。「徐々に圧縮していこうぜ!」ゾーンディフェンスがヨンソン式です。

横と縦。360度の視野で互いの選手との適切な距離感を保てなければ、上手くボールを奪うことはできません。特にうまくゾーンディフェンスができない時は、ハイプレス時に後ろと呼吸が合わず前4人がプレスしてしまい、相手中盤にスペースを与えてしまう。その後は押し込まれ組織が整っていないからセカンドも拾えないなどなど。ゾーンディフェンスっていうのは難しいです。監督によってその形も違います。あくまで今回はヨンソン式ということで。

 

次回は守➡攻への切り替え、「ポジティブトランジション」について見ていきます。あっ、もしかしたら個人技が入るかな? そこらへんはお楽しみに