豚に真珠

サンバのリズムに乗せられて、いつの間にかそのオレンジ色に魅了される。それが清水エスパルスというチームなんだ

エスパルスのポゼッション問題とポジショナルプレー/デュークのゴーストが囁く

再開後3連勝 YES!! その後は2連敗 YES!!

ということで、目下好調といってもいいのではないかの噂のエスパルス。その最大の要因が守備の安定。以前、ブログ内で紹介したゾーンディフェンスが徐々に浸透しており、

 

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まだまだ未完成ではありますが、現時点ではJリーグ屈指の硬さを持つディフェンスを身に着けているのではないでしょうか。

 

 

???「み、未完成?? それはいささか厳しすぎではぁ~?」

 

 

僕の見立てでは、まだまだ未完成です。守備に関してもあとちょっとなところはありますが、僕がここで一番言いたいのは「今やっているゾーンディフェンスの終着点はどこ?」というところです。

 

 

ゾーンディフェンスにより重要視されるポジティブトランジション

ワールドカップ前に書いた記事なんですが、

 

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 このとき、なぜ僕はポジティブトランジションを書いたのか。トランジションについて書くなら「攻→守」のネガティブトランジションも一緒に書けばよかったじゃ~ン、なんて思った人もいるのではないでしょうか。

 

現在のヤン・ヨンソン率いるエスパルスは、振り返れば開幕したての頃は昨シーズンのスタイルを引き継ぎし徐々にヨンソン色を出していき、4月あたりからヨンソン色に染まりつつありました。4月はなかなか勝てませんでしたが、まぁあの15連戦により戦術の見直しができなかった。十分なオフも取れずに中断期間までひとっ飛びだったので、ゾーンディフェンス取得という今シーズンのテーマに支障が出てしまいました。

 

話を元に戻しましょう。今シーズンのテーマは「ゾーンディフェンス取得」という、今後のヨンソンサッカーの台座にあたる部分を構築しているのです。守備から作るチームがゲームに勝つために大事なのは、相手より先手を打つために重要なのはポジティブトランジションなのです。ボールを奪ったその瞬間から攻撃に切り替わる。これで相手より先手が打てれば一気にゴール前まで行けます。今季はカウンターによるゴールが多いのもその証拠ですね。

重要なポジティブトランジションをよりスムーズに行うには、切り替えるときにポジションの動き直しをしなくても済むということです。守備時のポジショニングが攻撃でも効果を発揮する。「守→攻」がシームレスで行われれば一切の無駄がなく攻めることができます。

 

 

ポジショナルプレーとは?

なんか今年はサッカー用語解説みたいになってる......。それだけサッカー用語が増えてるってことだね。うんうん。

 

ポジショナルプレーという言葉。これはまだ抽象的で、完璧な定義があるかというとないです。人によって違ってくるもんだと思います。それゆえ美しいものです。

 

まず大前提として言っておきたいのは、ポジショナルプレーは、サッカーというゲームに対する1つの解釈であり、それを行う上での1つの方法論だということです。ある特定の哲学に基づくゲームモデルを実現するための枠組みだといってもいい。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 71項より引用 

 ポゼッションだとか、カウンターといったあくまで勝つための手段の1つとしてポジショナルプレーという概念が存在します。選手のポジショニングにより相手より優位に立とうという考え方です。

ポジショナルプレーの最も根本的な原則は、優位性の追求です。この優位性には、数的優位、位置的優位、質的優位という3つがあります。ではこれらの優位性は何のために使われるか。それは、敵プレッシャーラインの背後にフリーの味方を作り出すためです。最終的には、敵最終ラインの背後でそれを実現し、フリーでシュートを打つ状況を作り出すことが目的になります。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 73項より引用

 相手の最終ラインの裏にフリーとなる状況を作る。では、そんなシーンを見てみましょう。明治安田生命J1リーグ第16節セレッソ大阪戦から

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サイドで河井陽介がボールを保持。中央で白崎凌兵がボールを要求。

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次はミッチェル・デューク。白崎に渡るところで裏へ抜け出す。

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白崎はダイレクトでスルーパス。裏のスペースを突く。

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デュークがクロスを上げて北川航也へ。

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で追加点と。完璧な崩し。

 

このシーン、数的優位かというとそうではないです。局面では、ハーフスペースは白崎デュークで相手は2枚と数的同数。不利というわけではなかった。

位置的優位ではどうか。

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これ見ると、セレッソの守備はマンツーマン。人に付いています。スペースを埋めてないので、エスパルスの選手がいないハーフスペースの、相手最終ラインに当たる部分にはスペースが

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位置的優位というのは、敵のプレッシャーラインに対して、その背後にパスコースを作り出す形でマークを外しフリーになった見方がいる状況を指します。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア  75項より引用

 このことはデュークを指しています。白崎に渡るというより、河井からパスが出た瞬間にもうハーフスペースに生まれた裏のスペースに走りこんでいます。ハーフスペースには数字上数的同数です。しかし、白崎が河井からフリーの状態でボールを受ける、デュークがマークを外して動き出す、という時点でセレッソDF陣を2人出し抜いています。つまり実質ハーフスペースは2対0の状況で圧倒的数的優位だったわけです。デュークはハーフスペースに対する嗅覚が敏感で、走りこむだけでなく、このエリアで的となることで相手を引きつけて中央及びサイドにスペースを作るということができます。

 

デューク「ただの脳筋だと思うなYO」

 

エスパルス、ポゼッションの問題

現在のエスパルス基本フォーメーションは4-4-2です。守備時はそれぞれ横一線に並び3ラインを形成します。

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これが攻撃時には

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金子デュークがハーフスペースに入り4-2-2-2のボックス型になります。流動的なのが2トップとSB。外に出るのか内側に絞るのかは中盤によって変わるというのが現状。なので今のところは攻撃の決まり事というのは割と少なく、自由にさせているところがあるといえます。なので、エスパルスにおけるポゼッションの問題は至って簡単。誰がサイドで誰が内側に入るかが曖昧。アレ?これってやばくね?

 

現状のエスパルスビルドアップは2CBと2ボランチの4人。ただこの4人にポジショニングの特徴があるかというと特になし。まだディフェンスに時間を費やしている段階であってポゼッションに力を入れてるわけではないので受け手となる前4人+SBのポジショニングが重要になります。

 

縦の5つのレーン

これは両サイドと中央、そしてそれぞれの間に存在するハーフスペースの5つです。攻め時は中盤がボックス型になるので基本ハーフスペースには金子デュークが入ります。となると2トップとSBのポジショニングは不明確です。この4人の誰が両サイドと中央の残り3つを埋めるのか。

例えば第19節サガン鳥栖戦のドウグラスPK獲得につながるシーン。

 

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立田が奪い白崎へからのカウンターシーンです。この時の右サイドのポジショニングは

 

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金子がサイドにいるので、守備陣形の状態です。ここからカウンターが発動するわけですが、ポジティブトランジションでポジショニングにどう変化が起きるのか

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白崎からサイドに流れたボールに走りこんだのはドウグラス。サイドにいた金子はドウグラスが流れたことで生まれたスペースに走りこむ。

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金子がハーフスペースに走りこむことで、攻撃時のボックス型中盤が生まれるわけですが、その攻撃の起点として右サイドにFWが流れてくるというのがここ最近の形です。ガンバ戦のドウグラスのゴールにつながるシーンもそうでした。

 

カウンター発動のシーンでは、ボランチからサイドにボールが流れるシーンが多いです。右はFWが流れてくる。金子がハーフスペースに入り、あとSBが立田なのでサイドにはFWが流れた方がいい。では逆の左はというと、コチラは松原にデュークとサイズあり攻撃性能ありの選手がいます。

 

例えば先日の第21節川崎フロンターレ戦のドウグラスの先制ゴールは

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河井がカットしてからショートカウンターが始まります。この局面、河井北川デュークでトライアングルができ、前向きでプレーできるのは河井とデュークと2人います。

基本となるのは、トライアングル、ロンボという、ボールを安全かつスムーズに移動させることができる配置です。安全というのは、相手にインターセプトされる可能性が低いということです。具体的には横方向ではなく縦あるいは斜め方向にパスを出す。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 75項より引用 

 

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デュークが左のハーフスペースを攻略するために、デュークが前向きでボールを受けたい。そのために、

縦への志向の強さは、ボールを奪還してから平均何本のパスでフィニッシュしているかというデータからもある程度読み取れます。分析において重要なのは、ボール奪取後にパスを送る基準点となるプレーヤーは誰か、そのプレーヤーはどのような動きでパスを引き出そうとするかといったポイントです。縦への速い展開を狙う場合、基準点となるのはCFかウイングであることが多い。その動き方にも、CFがすぐに裏のスペースをアタックする、手前に引く、サイドに流れる、あるいは逆サイドに張ったウイングが裏のスペースをアタックするなどいくつかのパターンがあります。

 

モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 104項より引用 

 

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縦に入れて北川で起点を作り

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ハーフスペースにデュークが突撃。ハーフスペースをクッションに使うことでドウグラスにスペースを与えられる。

 

左の攻撃というのはこんな形が多くて、だいたいデュークがハーフスペースで、松原が大外のレーンでボールを受ける形で始まります。

 

そこでエスパルスの抱える攻撃の問題なんですが、ハーフスペース攻略は金子デュークでできます。攻略の糸口としての入り口にあたる部分も河井白崎から配給されます。ココに関してはいいんです。問題はハーフスペースを攻略後にスペースがない場合、鹿島戦みたいにハーフスペースにカギを閉められたときにどう攻略するのか。

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ハーフスペースをレオシルバによって封鎖されたらあらゆるエリアで数的不利を強いられみんな「ヒィヒィ」と言いながらカウンターに対応していました。現状、ハーフスペースの攻略法がワンパターンしかないのが課題です。デュークの場合は力業でなんとかしてくれる時があるんですが、だいたいフィニッシュまでは持ち込めない。行けてシュートは撃たされるような形。崩せているわけではないので相手のプラン通りに進められているわけです。

 

 

オフェンス完成への道はまだ険し

今の攻め筋はハーフスペースを利用したカウンターのみです。ヨンソンさんはポゼッションサッカー大好き監督なんで最終的にはポゼッションを上げるスタイルを構築していくんだろうと思います。ゾーンディフェンスの完成がそのままオフェンスへの形に繋がると思っています。だからまだまだです。今は速攻パターンを増やしていくことがオフェンス面でのやるべきことではないでしょうか。

 

 

デュークのゴーストが囁く

????「点が取れねぇシュートは下手だ、がなんだ!!あんなにハーフスペースで起点を作れ自ら攻略できれば守備もするしサイズもあって競り合いに勝てる。そんな選手他にいるか!?いるなら言ってみ!少なくとも日本人にはいないぞ!それだけで助っ人としての役目は十分に果たしているぞ!今いなくなってみろ。攻撃グダグダになるからな!!」

 

デューク「わ、枠をなんとかしてくれ......」

 

クリスラン「お、俺はどうなるんだ......」