ジェイ@ポストプレー ~岩石封じ~
J2リーグ第17節ジュビロ磐田vsツエーゲン金沢から、ジェイ・ボスロイドのプレーを見てみる。
このポストプレーについて。
まず、ボールが空中にいる間に相手を確認。それからの一連のプレーを見てみよう。
競り合う直前、ではなく競り合う体制を作る前に相手を確認している。
あ~。上手い。
余裕をもってポストプレーをするために、競り合う前に相手の位置を確認する。相手を見るのはこれが最終確認。
次に、左手で相手をブロックする。レフティーであるジェイは左足でトラップしたい。だから、左足でトラップできるように体を外側に向け、左手を使い相手を封じる。このポストプレーは、あらかじめ左足で収めたいという志向があったこともあり、相手からの左足へのプレッシャーを回避するために行った動作ともいえる。
そして左足を完全防備したことで、完全に相手の前に体を入れ、相手の動作そのものを封じる。
最後に左足でトラップし、ここでも左足へのプレッシャーを回避するために左手を使ってブロックする。
岩石封じ
相手を寄せ付けずに、完全に相手をブロックし動作を封じる。
ジェイのポストプレーが上手いのは、これらの動作が機械的に動けているからだ。さすがアーセナル下部組織出身で元イングランド代表は違う。
オマケ
イングランドでも話題になったという、この試合でジェイが魅せたプレー
これはすごかった。
なんかアダイウトンも含めてウチに来てくれないかなぁ。無理か。無理なのか。そうなのか。
ヤコヴィッチvsクリスティアーノ
豚似真珠「こんにちは!今日は日立台サッカー場からヤコヴィッチvsクリスティアーノのパッキャオvsメイウェザー並の世紀の1戦を録画でお送りします。実況を担当します豚似真珠です。『豚似』が苗字です。そしてこの1戦の解説をスポナビから来てくれました、猫煮小判さんが担当します。よろしくお願いします」
猫煮小判「よろしくお願いします」
豚「さあ、5月2日の日立台ですが、コンディションはこちらです」
豚「まさにサッカー日和ですね」
猫「本当にそうですね」
豚「それでは試合に参りましょう!第1ラウンドです」
ラウンド1
豚「開始24秒でいきなり訪れます」
猫「いきなり来ましたね」
豚「クリスティアーノが仕掛けます」
猫「クリスティアーノが1歩前に出てますね。しかしヤコヴィッチも速いです」
豚「クロスを上げますが、ここは繋がらず。最初は軽いジョブ程度ですか?」
猫「そうですね。まだ始まったばかりですからね」
ラウンド2
豚「こちらは1分の画像です」
猫「まだ1分ですか。もう2ラウンドですよ」
豚「早いですね」
豚「ガッツリいってます」
豚「クリスティアーノはセンターバックに下げましたが、このプレーはどうでしょう?」
猫「これは完全にヤコヴィッチがクリスティアーノを抑え込んでますね」
豚「と言うと?」
猫「クリスティアーノは前を向きたくても向けません。完全に体を寄せてるからです。そして低い位置まで押し戻されています。ヤコヴィッチの完勝と言っても過言ではないです」
ラウンド3
豚「こちらは2分です」
猫「開始2分で3回の攻防戦ですか」
豚「ここも激しくぶつかってます」
豚「クリスティアーノはヤコヴィッチが離れた瞬間にヒールパスをします」
猫「左SBの輪湖がオーバーラップしてきたので、ヤコヴィッチは輪湖に、クリスティアーノは中盤のセコンドに任せた瞬間ですね」
豚「輪湖に通れば決定機に繋がります」
豚「おっと!!ヤコヴィッチはこれを見切ってパスカットしました」
猫「ヤコヴィッチの読み勝ちですが、彼の足の長さも手伝ってますね。この時のヤコヴィッチは重心が後ろにかかってました。前にはなかなか足はでないですよ。それでもパスカットできたのは彼の身体的な能力も優ってる証拠です」
ラウンド4
豚「こちらは23分です」
猫「かなり空きましたね」
豚「こちらもヤコヴィッチはガッツリ行きます」
猫「ガッツリ行くのでクリスティアーノは下げるしか選択肢はないですね」
豚「輪湖から大谷と繋いで、再びクリスティアーノにボールが行きます」
豚「ここもインターセプト!」
猫「素晴らしいですね」
ラウンド5
豚「解説の猫煮小判さん。口数が少なくなってきましたが、次はラウンド5です」
猫「いや~。この対決は見応え抜群ですからね」
豚「25分です」
豚「空中戦です」
猫「この対決初となる空中戦ですね」
豚「アレッ?!プレーが止まりました。何があったのでしょう」
豚「あ~。明らかなハンドですね」
猫「これはしょうがないです」
ラウンド6
豚「次は26分です」
豚「ヤコヴィッチはレアンドロについてます。クリスティアーノは後ろのスペースに走りこんでます」
猫「『出せ!』って言ってますね」
豚「クリスティアーノは裏に抜けました。チャンスです」
豚「ん?ちょっと待ってください。あの後クリスティアーノはボールをロストしてボールはセコンドのレアンドロへ」
猫「なんかありましたね」
豚「ゴールキックになりましたが、セコンドのレアンドロとなんかあったようですね」
豚「ヤコヴィッチは顔を抑えてます」
猫「詳しく見てみましょうか」
豚「アッパーが入ったみたいですね」
猫「もう少し見てみましょう」
豚「あ~。セコンドのレアンドロが『俺も混ぜろ!』と言わんばかりのプレーです」
猫「余程世紀の1戦に出たかったんでしょうね」
豚「ヤコヴィッチは抗議しましたが認められず、試合は続行です」
ラウンド7
豚「次は35分です」
豚「クリスティアーノは前を向いてドリブルです」
猫「このマッチアップで初めてじゃないですか」
豚「裏に走る工藤へ絶妙なクロス」
猫「ヤコヴィッチは簡単に上げさせてしまいましたね」
豚「どうして上げさせてしまったのでしょう?」
猫「おそらく裏に走ってたレアンドロを気にしていたんでしょう。先ほどのプレーでレアンドロも参戦する気満々でしたから。しかし、クリスティアーノに簡単に前を向かせてしまったのはいただけないです」
ラウンド8
豚「36分です」
豚「裏に出ます」
豚「うまくボール奪取しました」
猫「まだまだありますよ」
豚「体を寄せて上手く挟み込んで取りました」
猫「枝村がプレスに来るまでに前を向かせなかったのが勝因ですね。それにしても本当にこの日のヤコヴィッチは効いてます」
ラウンド9
豚「42分です」
豚「GKの菅野からのボールです」
豚「競り合いです」
豚「これはファールか?」
猫「いや、これはノーファールです。上手くショルダーでブロックしました」
豚「調子に乗ってるヤコヴィッチ。ここでいつ覚えたかは分からない関西弁を使いました」
猫「前半のすべてのマッチアップ、ほぼ勝ってますからね」
ラウンド10
豚「後半です。時間は64分。かなり空きましたね」
猫「そうですね。ヤコヴィッチのタイトなマークに苦しんでいたので、低めの位置にいて枝村とマッチアップしたり、中にいることが増えましたからね」
豚「確かに。後半は武富やレアンドロとマッチアップする機会が増えましたもんね」
豚「空中戦です」
豚「クリスティアーノが競り勝ちます」
猫「レアンドロが裏に抜けてますよ」
豚「お~。ここはレアンドロには合わず」
猫「しかし、競り合いではクリスティアーノが上回ってましたね」
豚「え?そうなんですか?」
猫「2枚目を見てください。完全に体を入れてますよね。ヤコヴィッチは体制的に競り合いがしずらくなっているわけです」
豚「なるほど」
ラウンド11
豚「69分です」
豚「ボールが出ます。」
豚「ヤコヴィッチはスピードはありますが、ここはクリスティアーノに軍配!」
猫「GKの杉山力裕が出ますよ」
豚「力裕のクリアがクリスティアーノに当たりゴールラインを割ります」
猫「セコンドとして素晴らしい働きです」
ファイナルラウンド
豚「いよいよ最後のラウンドです」
猫「長かったですね。いよいよ最後ですか」
豚「71分です」
豚「茨田から大谷へ展開されます」
豚「大谷が折り返し、2人の元へ」
豚「アレ?2人が睨み合ってます」
猫「あ~。完全にやりあってますね」
豚「詳しく見てみましょうか」
豚「あ~。手が出てます」
猫「前半にもそのようなシーンがクリスティアーノ側にもあったので御相子ですね」
豚「以上で試合は終了です」
猫「決着はどうなったんでしょうかね」
豚「結果が出ました。結果は......。なんと引き分け!!スコアレスドロー!!」
猫「この試合と同じかい!」
豚「そりゃあそうです。お互い勝ち点1なので、この勝負も引き分けです」
豚「2人とも悔しがってますね」
猫「素晴らしいマッチアップが続きましたからね」
豚「次回の対戦はセカンドステージ第15節。IAIスタジアム日本平です。この試合も楽しみですね」
猫「お互いいい状態で戦いたいですね」
豚「ではここで日立台サッカー場から失礼します。解説の猫煮小判さん、本日はありがとうございました」
猫「こちらこそありがとうございました」
『フットボールサミット』を読んでみた/「清水のサッカー」とは何か
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大榎克己の覚悟
レジェンド
この言葉、あなたはどのように解釈しますか?
たいていの人は尊敬に値する人のことだというだろう。
僕は大榎本人と直接話したことはないので彼がどのような人物かは、詳しくはわからない。
では何故、彼は尊敬に値する人なのか。
それは選手としての貢献度の高さだろう。
こんなことを言ったら本人には失礼だが、プレーヤータイプ的には地味な役回りだった。しかし、勝負どころでは華のあるプレーをしていた。
″選手″大榎克己は、エスパルスサポーターから支持され、愛される選手だった。
大榎がユース監督になったのは2008年。彼の下でプレーした選手は現役時代の大榎をあまり知らないのではないか。それでも、例えば石毛秀樹や犬飼智也は大榎をエスパルスのレジェンドであると認識している。彼がエスパルスに残したモノはしっかり受け継がれていたのだ。
大榎克己の″清水″に対する覚悟は相当なモノだ。
清水東では「三羽烏」の一人として全国を制覇した。清水のサッカーが栄光をその手に獲った時を生きていた。そしてエスパルス。母体がなく、すべてを1から始めたチームを支え、名門と言われるようにまでした。正に清水のサッカーをプレーヤーとして体現し、そして成功を収めた勝者とも言える。だから彼にはプライドがある。このプライドは決して僕たちには、そしてそれはもしかしたら彼の下でプレーしている選手にも理解し難い、想像を絶するほどの規模なのかもしれない。勝ち取った成功者だから考えることができる″清水のサッカー″は、決して下に見られてはいけない、常に勝者でありつづけなければならない、そういったメンタリティで生きている。ではそれを体現できるのは誰か。長沢駿もインタビューで似たようなことを言っていたが、静岡、清水の人間だけなのかもしれない。しかし、その考えはもうとっくに終わりを告げている。清水から有能な選手は生まれてこなくなった。いや、全国に有能な選手が生まれるようになった。
清水エスパルスは経済力で戦えるチームではない。育成で戦うチームだ。たとえ他チームがどんな大型補強をしようが、どんな戦い方で来ようが、清水である以上、すべてのチームを圧倒的にねじ伏せなければならない。それが大榎のプライドであり、覚悟である。
「クラブ」と「チーム」の違い
以前、なんかのコラムでセルジオ越後が「クラブとチームは全く違うんだぞ」みたいなことを言ってた。クラブとは1企業である。お金がなければやっていけない。それはどこの企業も一緒だ。エスパルスもそうである。
今までのエスパルスは、内部の人がクラブ経営をしていた。まぁ、これはある意味当然ともいえるかもしれないけど、エスパルスに関わる人だけがクラブを支えていく。それが特徴でもあった。
しかし、それは一つ間違えた方向に舵をきると、とんでもない方向へ行ってしまう。内部だけなら、お互い共通の目的を共有しているからやりやすさはあるだろう。だが、外部との差が空いてくる。グローバルな現代では時代遅れなやり方だったのかもしれない。
今年から新社長に左伴氏が就任したが、時代のニーズに合わせてきているといえる。日産という世界的な企業のエリート営業マンが地方クラブにやってくるのは、奇跡的なことだ。
左伴氏がサッカーにとても意欲的な人であることもそうだろう。イングランドなどを例に挙げていたが、サッカーが生活の一部である環境では、ビジネス的にも好循環が生まれやすい。社長のパイプでも、例えば関東の企業の中に「実は静岡出身です」と言われスポンサーまで来るなんてこともあるらしい。これは静岡ならではだろう。新しい風を取り入れたことで経営面でも変化が生まれてきている。
ここまで言うと、今までの体制を批判しているみたいに思われるかもしれないけど違う。前社長の竹内専務も本当に努力してくれたと思う。
原強化部長のインタビューの中にゴトビ氏の解任経緯と大榎就任経緯のことが書かれているが、強化部長を通さずレジェンド(大榎)を監督になんて、他のクラブではあり得ないだろう。ゴトビとも最後は上手くできていなかったことや、赤字経営のことも考えると、よくこんな状況で仕事ができたなって思う。
ゴトビというワードが出てきたのでそこについて少し。
毎年毎年ストライカーの補強を訴えていたが、経営を考えると難しかっただろう。足元が上手く、サイズのある選手というのは中々いない。日本人選手では全く思い浮かばない。駿はその意味ではゴトビ好みのFWだったと思う。原さんは経営には直接関わらない立場だから(強化部長だからそうだよね?)、補強費が今みたいに増やされているのだったら、どんな補強をしたのだろうかと思う。きっとゴトビの眼鏡に適う選手が補強できたのかもしれない。
しかしゴトビのサッカーは清水の文化には根づけなかった。僕は「オランダスタイル」は世界的にもトレンドだと思うし、ゴトビも斬新な戦術や采配をしていたから好きだった。合わなかったのはしょうがないことだし、目指すべきサッカーの再確認ができたのだと思いたい。
プライド≠フィロソフィー
結局のところ、「清水のサッカー」って何?
ザックジャパンも「自分たちのサッカー」とか言っときながら惨敗したわけだし、自分のとかそういった事に溺れているわけだ。
フットボールサミットにはパスサッカー+サイド攻撃と書かれている。確かに強かったときはパスで相手をいなし、サイドからゴリゴリ攻撃していった。アルディレス&ぺリマンのときはサイドには市川大祐やアレックス(三都主アレサンドロ)という、スペシャリストがいた。
清水のサッカーがパスサッカー+サイド攻撃というのであるなら、それはそれでいい。勝てるならね。
でも全国各地でサッカーが普及されている現代でそのサッカーは通用するのだろうか。
僕の答えはNOだ。そのサッカーは時代遅れだ。戦術が進化していき、簡単に点が入らなくなった今では、そのスタイルでは勝てない。プラス@が必要だ。
大榎が清水のサッカーとして頑なにそのスタイルをやるのであるなら、僕は支持できない。それはスマホ全盛期の時代にガラケーで勝負するようなことと一緒だからだ。勝てるわけがない。
プライドを持ってやるのは全然問題ない。しかし、プライドだけで勝てるほど世の中甘くない。清水のサッカーだからというプライドで勝負するのなら、そのスタイルは今すぐにも捨てるべきだ。ただ、そのスタイルは墓場まで持っていく覚悟″フィロソフィー″であるのなら、僕は全力で支持したい。ペップ・グアルディオラがレアル・マドリードに大敗しても自身のフィロソフィーとしてポゼッションスタイルを捨てないことは、それだけでリスペクトされるに値する。
大榎のフィロソフィーはわからない。清水のサッカー=大榎のサッカーであるのなら、それが自身のフィロソフィーであるなら、どんなに結果が出なくても、どんなに批判されようとも僕は応援していきたい。僕がアフシン・ゴトビを支持したのは、彼には明確なフィロソフィーがあったからだ。ホームでどんな結果になろうとも攻撃スタイルを捨てなかったのは、そこに確固たる信念が、哲学があったからだ。
エスパルスと大榎の未来は神のみぞ知る。大榎の覚悟は相当なモノだった。選手はどうだろうか。
ある記事ではエスパルスの問題点はメンタルであるということが書いてあった。えっ!!メンタル?!
僕は精神論を語るのは好きではない。何故なら人の心は他人にはわからないからだ。何年か前の、確か2008年だっけかな、ナビスコ決勝で負けた時の言い訳が「メンタルだ」とか誰か言ってたと思うんだけど、確かに誰か言ってた。これ聞いて「お前のメンタルなんて知らねぇーよ」ってマジで思ったんだけど、プロである以上、メンタルを問題定義するのは論外なんだ。ブラジルW杯後に、スペイン代表のシャビ・アロンソが「俺たちはCL決勝を戦ったこともありメンタル的に不十分だった」とかいってチームメイト(特にバルサ勢)から批判を受けてたけど、プロがメンタルどうこう言うのはおかしい。
サッカー選手の年齢的には若くないんだから、今更メンタルなんて言うのはどうだろうか。大榎の覚悟が壮大なほどであるのに、選手がそれに答えられないのはやってはいけないことだ。
ARE YOU READY?
既に10試合を終えた。
シーズンの3分の1を終えたのだ。
いまだに1勝。このままでは降格まっしぐらだ。
エスパルスよ。覚悟はできているか?
エスパルスが勝つためなら、あらゆるものを犠牲にする覚悟はあるか?
最近、日本でルイス・スアレスの自伝が発売されたが、彼は勝つためなら自分を、チームを、周りの人までもを犠牲にしてきた。彼は生まれつき勝つことだけを目的に生きているようである。
別にエスパルスの選手に噛みつけとか、ゴール前でハンドしろとかそんなことは言わない。ただ、エスパルスが勝つことに対し覚悟はあるかどうか。大榎や澤登正朗が言ってたように、エスパルスが勝つためなら何でも尽くすようでないとダメなんだ。
それがプロ。エンターテイメントである。
1stステージはすぐに終わる。
どんなにつらい試合が待っていようと戦わなくてはならない。
もう前しか向けないほど下がっただろう。準備はいいか。覚悟はできているか。
すべてが整ったとき、勝利の女神はきっと微笑んでくれるはずだ。
次回については、「ジェイ@ポストプレー」か「ヤコヴィッチVSクリスティアーノ」か「本田拓也の気持ちを読み取ってみよう」のいずれかをやりたいと思います。
ピーター・ウタカ取扱説明書
久しぶりの上陸 アフリカンプレーヤー
皆さんはアフリカの選手と言えば、何を連想するだろうか。
フィジカルや身体能力に優れ、野性的本能で動き出す選手を頭に浮かべるのではないだろうか。
例えば、サミュエル・エトーやディディエ・ドログバ。そんな選手が代表的な選手だ。
ただ、Jリーグではアフリカ系の選手をお目にすることはあまりない。
古くは、ガンバ大阪のパトリック・エムボマ。最近では、浦和レッズや京都サンガでプレーしたブルキナファソ代表のウィルフリード・サヌがプレーしているが、他で思いつく選手は僕の中ではいない。
そんな中で元ナイジェリア代表のストライカー、ピーター・ウタカがエスパルスに加入した。エスパルスの躍進のカギを握るのは間違いなく彼だ。これからは、そんなピーター・ウタカのプレーを見ていきたい。
ピーター・ウタカのプレー
まず、ウタカの特徴から。
J1第3節松本山雅戦の51分のプレー。彼のポジショニングに注目。
本田拓也から楔を受けるが、ウタカのポジショニングは6人のディフェンダーが生み出す「ボックス」の中心にいる。このポジショニングにいることはとても重要。
なぜ重要かというと、ボックスで受けたとしたら、相手ディフェンダーはその選手に目線を移す。これはボールウォッチャーという現象だ。ボールを受ければ、味方の誰かがフリーになる。そこに出せば、非常においしい展開になる。
ウタカはこのポジショニングをとるのがうまい。
次にボールを保持しているときのプレー。
ウタカはボールを保持し前を向く。黄色で囲まれたDFは後ろに重心が掛かっているので、ウタカにプレスが来ることはまずあり得ない。
ウタカに用意された選択肢は2つ。前方と左斜め前の2つのスペースである。
ウタカが選択したのは、前方のスペース。村田和哉が走ったが、惜しくも届かなかった。
これらのプレーを観ていくと、ウタカのある特徴が見えてくる。
- ボックス内でのポジショニング獲りがうまい
- 視野が広く、パスセンスに優れる
この特徴からして、ウタカは純粋なストライカーではないことがわかる。
得意としているのは、最前線とトップ下の間。9.5番タイプの選手だ。周囲を上手く使うことができるので、ウタカを活かすには周りの選手の動きが重要になる。
まず、ウタカに対してはシンプルに当てること。
ウタカは競り合いはあまり強くない。ヘディングのセンスはあるが、ウタカはポジショニングで勝負するタイプだ。だからロングボールをウタカに当てて後は任せた、といった無責任なことをしてもウタカは活きない。足元に出せば、確実にキープしてくれる。
もう1つは、周囲の選手がどれだけウタカが生み出すスペースを突くことができるかということ。
先ほどの村田へのパスもそうだが、ウタカがキープすることで自然とスペースが生まれてくる。そこを周囲が感じ取ることができるかどうか。また、ウタカの独特なリズムに周囲が合わせることができるのかどうかということ。
これを踏まえて、ナビスコカップ第2節横浜F・マリノス戦を見てみる。
ボックス内における、ウタカのプレー
前半7分。ウタカが2対1という数的不利な状況でボールキープする。
赤丸のウタカは右足のアウトサイドでボールタッチしている。これは、この位置でボールタッチすることで相手DF2人からボールを遠ざけることを意味する。ボールキープが成功する1つの秘訣である。
本田がパスを要求している。そこへ出せば前向きな本田にフリーな状態でボールを出せることができるからだ。
この後のウタカ。
相手DF3人が生み出す三角形のボックスに入る。
相手ボックス内でパスを受けたウタカは、3人を引きつけサイドに出す。
このプレーは、とてもシンプルかつ、チームにリズムを与え生み出す、とても効果的なプレーである。
ウタカのリズム
ウタカは独特なリズム感でプレーしている。
1つのキープ、1つのダイレクトプレー。すべてが計算されつくされているようである。
タメを作るところでも、トラップから体の向き、パススピードが完璧に連動している。
次の画像を見てほしい。
ウタカはボックスの中で受けようとしている。その裏のスペースへミッチェル・デュークが走り出している。
この時のウタカ。1歩でトラップしようとしている。これが2歩以上になれば、後ろで構えている中澤佑二が詰めてくる。なぜなら、2歩以上になれば余計な時間がかかり、その間に詰めるだけの余裕が生まれるからだ。
しかしウタカは、わずか1歩でトラップしようとしている。この時に詰めてしまえば、ウタカほどの身体能力なら、簡単に裏に抜けていくデュークへパスを通されてしまうのだ。
だから中澤は詰めることができない。ウタカの独特なトラップリズムが相手DFをコントロールすることもあるのだ。
次にダイレクトプレー。
ウタカはダイレクトでポストプレーをする。
一般的なプレーであるなら、ダイレクトではなく、タメを作ることをする。なぜかというと、これはゴールキックだからだ。相手最終ラインはセットされている。
ただ、この画像をよく見てほしい。この時のマークは中澤なのだが、あの中澤が簡単にダイレクトでポストプレーを許している。
実は、当初のウタカに対してのマークは栗原勇蔵なのだが、それを一瞬で外している。駆け引きにより、マークを振り切ったのだ。
そして竹内に落とすのだが、この後のプレー。
すぐさま裏に抜け出し、決定機につながる。完全に中澤と栗原を出し抜いている。
ダイレクトプレーをするための微妙な駆け引き。一気にギアを上げたかのようなスピード。全てにおいてJリーグの中ではクオリティーが群を抜いている。チームがウタカのリズムになれることが今後の課題になるだろう。
ウタカの活かし方
周りを上手く使うことができ、駆け引きやポジショニング、視野の広さは一級品だ。マリノス戦の解説をしていた清水秀彦は、ウタカはトップ下がいいのではといっていたが、僕はそうは思わない。ウタカは1トップだからこそ活きるタイプだと思っている。その心はというと、最前線でのキープ、駆け引きの上手さは絶対的な武器になると思うからだ。
パスセンスのあるフォワードというのは今時珍しくない。かつてFC東京でプレーしていたルーカスは、全盛期は最前線で輝きを放っていた。ヨーロッパに目を向ければ、レアルマドリードのカリム・ベンゼマやパリ・サンジェルマンのズラタン・イブラヒモビッチ、パルマのアントニオ・カッサーノなどがいる。ただ彼らが活きているときは決まって2列目の選手との連携がしっかりしている(イブラヒモビッチは1人でもできるタイプだが)。
ウタカも同じ。ウタカを活かすも殺すも2列目の選手に懸かっている。最前線でタメを作ることができれば、崩しにおいていろんなアイデアが浮かんでくる。大前元紀やデュークといったテクニックや縦の推進力がある選手にとってはやりたい放題できる環境が整うのだ。
そのためにはウタカにはストレスなくボールを預けることが条件となる。ロングボールを当てたり、無理なスルーパスを送るのはナンセンスだ。そのかわり、ウタカに預けることができれば、間違いなくウタカは仕事をしてくれる。
ウタカを活かすこと。それが今シーズンのエスパルスの最優先事項となる。
補足(2017年2月28日)
なんかスゲーアクセスが集まってるなと思ってたら、FC東京サポさんが見て下さっているみたいですね。ありがとうございます。昨年も広島加入後に物凄くアクセスが集中していたので、「何事か!」と思いましたが、ありがたいことです。
さて、まず話を始める前に前提としまして、この記事は2015年に書いた記事、要するにウタカ日本上陸直後に書いた記事になります。そしてもう1つ。これは「2015年のエスパルスなら、どうウタカを組み込むのか」という記事だということです。なので、この記事がウタカの全てだ!というわけではありません。そこはご注意を。
では始めます。
ウタカの長所として、最初の方でも書いてありますが、ポジショニングがいい、またマークを外すのが上手いというところがあります。それはいいとこですね。で、懸念されるのは、ウタカの個は十分強さが証明されているので説明抜きでいいんですが、組織にどう組み込むのかというところ。この2015年の序盤戦エスパルスは、当時の大榎監督は頑なに4-2-3-1をやっていました。後世に伝わるであろう、あの伝説の4CBで一応守備は OKとしていました(実態は全然よくなかったんですけど)。そしてウタカと同時期に加入したミッチェル・デュークも一緒にどう使うかも問題でした。この時、この助っ人FW2人に加え、現在ガンバで出世した長沢駿と大宮にいる大前元紀もいたので、1トップと2列目にどう組み合わせればいいのか、というのが大榎さんの当時の課題でした。「1トップで使うべき」と書いてありますが、それはこのような背景があったので、最初ウタカをトップ下で使ったこともあったのです。案の定上手くいきませんでした。そうこう言っている間にDF陣に怪我人続出。大前&ウタカの2トップに前線は変更。夏に鄭大世が加入し、大榎さんはクビ。最後はテセ&ウタカでしたが、組織が壊滅的だった当時のエスパルスでは、誰をどう使ったとしても上手くいかないのは当然のこと。結果ウタカはデュークにせがまれインスタデビューすることになりました。
広島移籍後は、組織がしっかりしている環境だったので、ボールを貰っても孤立しているから前を向くしか選択肢がなく憂鬱な表情だったエスパ時代に対し、常に多数の選択肢が与えられ、広島では常に笑顔でプレーしていたのはお分かりだと思います。あの時のウタカはサンコン以上に笑顔が似合う日本在住外国人になってました。ウタカが活きるには、周囲のサポートと戦術のハード面での充実が条件です。現在のFC東京の状況は分かりませんが、大久保にあの憎っくき当たり前田のクラッカーがいますし、中盤には僕の大好きな中島翔哉がいます。永井や河野もいますね。さぁ、どう使うんでしょう。それに関しては直接監督に聞いてください。システムの面でウタカが活きるとするならば、4-3-3のCFか、4-4-2で2トップの1角に使うかのどちらかだと思います。やめた方がいいのはトップ下起用です。まず守備では、ウタカはパスコースを切ったり限定するのは上手いです。ただ、走って追っかけ回すようなことはしません。それと攻撃面では、前線の選手と被ります。昨シーズン開幕直後の広島でもそうでしたね。ドウグラスの後釜としてシャドーで使われてましたが、佐藤寿人とポジションが被ってました。ウタカが爆発するきっかけが最前線での起用。随分よくなったと思います。
簡単に説明するとこんな感じです。あとはやってみないとわかりません。この移籍のウタカに幸あれです。それと、静岡おでんを差し入れるとテンション上がります。セブンとかファミマのおでんじゃダメです。静岡おでんは出汁だったりはんぺんが黒かったりなど、全く違います。詳しくは各自でお調べください。
村田和哉@ドリブル ~疾風怒濤~
ドリブラーの種類
ドリブラーには2種類が考えられる。
1つは、香川真司やリオネル・メッシといった、狭いスペースで生きる2,3メートルで勝負するタイプ。
もう1つは、ガレス・ベイルや宮市亮といった、広大なスペースで生きる5~10メートルで勝負するタイプである。
今回の主人公である村田和哉はどちらに該当するのだろうか。
答えはわかるだろう。
村田は後者。長い距離で勝負するタイプだ。
これから村田のドリブルについて考える。
抜き去る上で必要な条件
ではここであるワンプレーを見てもらいたい。
開幕戦64分のプレー。
村田がボールを保持している。ディレイしているのは鹿島の梅鉢。
村田が目指しているところは梅鉢の裏。黄色で囲まれたスペースだ。
すごい。残像が見える。
ここから村田はどんなプレーをするのか。
なんとかなりの距離を開けて抜き去っている。
一瞬であるこのプレーが、なぜここまで差ができたのか。
ここで次の画像。
73分のプレー。
ここのマッチアップは山本修斗。
村田が狙っているのは前方のスペース。
村田はアウトサイドでボールタッチしている。外へドリブルしようとしている。
縦にドリブル。勝負を仕掛ける。
クロスを上げる。山本は追いついてない。
結局このあとはどうなったかというと、本田のゴールが生まれている。
村田ドリブルのポイント
ここまでで、村田のドリブルには2つの特徴がある。
- 外(スペース)に逃げる傾向がある
- 勝負を仕掛けるときは、やや長めのボールを蹴る
まず細かいタッチでスペースへ向かう準備をする。なぜスペースへ向かうドリブルをするのか。
ここで最初を振り返ってもらいたい。村田というドリブラーは、スペースがあってこそ生きる5~10メートルで勝負するロングドリブラーなのだ。長い距離にて勝負するには、スペースが絶対条件となる。ここが肝。そして2つ目の特徴。
なぜ長いボールを蹴る必要があるのか。
例えば、香川真司のように狭いスペースでドリブルするには細かいタッチをする必要がある。なぜなら、狭いところを抜くためにスピードは必要ないからだ。ボールを失わないことが望まれる。
しかし、スペースがある状況ではスピードが要求される。そこで細かいタッチをすると簡単に囲まれてとられる。細かいボールタッチには、スピードを犠牲にしなければない。ボールタッチとはある種、ストレスを溜めることもあるのだ。
長いボールを蹴れば、次にボールタッチするまでの時間が空くので、その間はただ走るだけに集中できる。スピード自慢な選手にとっては、ボールという❝異物❞を排除して相手を抜き去ることだけを考えればいい。上手い選手は確実に抜き去ることができる。
これを踏まえて、大前の2点目となるシーンを見てみよう
青丸の村田はこの時点で走り出している。
村田にボールが渡り、勝負する時がくる。
村田が狙うは黄色のスペース。赤丸の鹿島DF植田は、マークしていた長沢駿を捨て、村田へ向けて重心を向ける。
だがこの時点で村田はトップスピードに近い速度でドリブルしている。DFがすべきはディレイしてスピードを遅らせることだ。
村田は長いボールを蹴る。植田はここでスタートを切るが時すでに遅し。
次のボールタッチはこの位置となるが、植田との1対1はこれだけの距離を開けての結果に終わる。村田の完勝。
疾風怒濤
スピードスターは、スペースを見つけることからすべてを始める。
スペースがなければ、自分で作り出すことも大切だ。
村田はスペース(あるいは相手の隙)を見逃すことがなく、確実に相手を仕留めるスキルを持っている。事実、この試合では2アシストを記録している。
間違いなく今シーズンの右サイドは、エスパルスのストロングポイントになるだろう。
そして、それと同時に間違いなく相手チームは早い段階で研究してくはずだ。
村田和哉の真価が試されるのはその後である。
柏木陽介というサッカー選手 柏木陽介という1人の男 ~書評 「自信」が「過信」に変わった日 それを取り戻すための2年間~
第1印象って、大事ですよね
初めてあった人が凄いイカツイ人だったり、怖そうな人だったら、「この人、あまり関わりたくないなぁ」と思ってしまうだろう。
でも実際に接してみると、すごくやさしかったり、話しやすい人だったりすることがある。
第1印象は確かに大事だ。でも、その人に接してみないとわからないことだってある。
すべてを第1印象で決めてしまうのは危険だ。今回はそんな物語。
柏木陽介というサッカー選手
柏木のプレースタイルってどんなモノ?
レフティーでパスが上手いという選手だ。
具体的にいうとどんなタイプだろう。
遠藤保仁のようなゲームメーカーではない。
中村俊輔のようなNO.10、ファンタジスタタイプでもない。
ではどんな選手なのか。
簡単に言えば、トップ下とボランチを掛け合わせたスタイル。運動量はもちろん、アイデアも必要だ。ヤットさんのように完璧な”ボールさばき”ができて、それに加えて”フリック”の使い手としてゴールチャンスを作れるプレーヤーになること。
フリックとは、英語で「はじく」という意味。向かってきたボールをワンタッチで後方に流すプレーのことなんだけど、自分で言うのもなんだけれど、僕以上にこのプレーを使いこなせている選手はいないと思っている(笑)。フリックこそ僕の代名詞だ。自陣にいることも多いボランチというポジションは、カウンターを受けるリスクがあるから、なかなかフリックは使えないけれど、ゴールに近づければどんどんフリックで勝負していきたい。
122項より引用
フリックは後方の選手を活かすプレーである。
では、ゼロックススーパーカップからそのプレーを見てみよう。
前半6分のプレー
左サイドの関根からパスを受ける。
柏木はフリーだ。
この次に、柏木は体制を変え、阿部の方向へ向ける。
だが、これはフェイク。
柏木はさらに向きを変え槙野へ。
槙野はシュートをふかすが、これが柏木が絶対的に自信を持つプレー、”フリック”だ。
柏木は「フリック+@」を求めて、今もスタイルを変え続けている。
″自信″と″過信″の違い
柏木陽介は、客観的に見ればプロサッカー選手としてはエリートな道を歩んでいる。
広島ユースから昇格し、1年目から17試合に出場。
2007年にはU-20ワールドカップに出場。
2009年に浦和レッズに移籍して以降、レッズでは常にレギュラーとして試合に出ている。
しかし、1年目はチームの中では1番下の選手であったという。
例えばサンフレッチェでもトップチームに昇格したときは、「こんなうまい人たちに適うわけがない」と何度も心がくじけた。実際、サテライトですら試合に出られず不安ばかりが募った時期には、沢田(謙太郎)コーチから「いま一番下なんだから、これから上に向かうしかない」と声をかけてもらい、それを必死に自分に信じ込ませて努力しようとしていたぐらいだ。
7項より引用
そんな柏木のプロサッカー人生を変えた出来事が起こる。監督の交代だ。
ミハイロ・ペトロヴィッチの就任によって、1番下の選手がチームの中心にまでなった。
試合に出たことで自信をつけ、2007年には柏木にとって追い風が吹く。
19歳で迎えたこの年、個人的には一番調子が良かった一年だったと言っても過言ではない。4月にはイビチャ・オシム監督率いるA代表(日本代表)の強化合宿に呼んでもらい、6月末から行われた2007FIFAU-20ワールドカップでは10番を背負い、前評判の低かったチームでベスト16進出を果たした。このときのプレーが評価されたのか、取材の数は増え、海外からも注目されているという記事まで目にした。さらに8月後半からは北京オリンピック出場権をかけたアジア最終予選の日本代表としてプレーし、6試合中2試合でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
個人のプレーの出来としては、最高だった。
ただしこれは、僕にとって「自信」を持ちながらサッカーができた最後の瞬間だったように思う。このシーズン後、僕は「過信」した。
8項より引用
19歳でA代表。そして、海外メディアから注目までされたら普通は自信をもってプレーする。いや、これで悲観的に捉えていたら、それはもはやプロ選手ではない。
だが、”自信”と”過信”は紙一重だ。行き過ぎると、取り返しのつかないことになる。
その2007年は、チームはJ2に降格する。北京五輪のある2008年はJ2でのプレーを強いられる。
結局、五輪メンバーから外れ、サンフレッチェでも10番を背負いながら満足いくプレーができなかった。
2009年に浦和レッズへ移籍するも、満足いくシーズンは送れず、2011年は残留争いの戦いになってしまう。
彼自身が復活、「過信」を自覚し取り戻そうとしたの、2012年に恩師ペトロヴィッチがレッズの監督に就任したときだ。
2013年。興梠信三、森脇良太らを補強し、シーズン終盤には優勝という目標が現実になりかけた。しかし、柏木の調子は本調子からは程遠かった。
日本代表という存在だ。
「今年こそリーグ優勝する」
そう誓い、順調に進んでいるはずのシーズンだったにもかかわらず、どういうわけか、気分が乗らなかったのである。状況を考えれば、嬉しくないはずはない。それなのにサッカーを純粋に楽しめていない自分がいる。その葛藤にもがき苦しみながら、2013年前半は悶々とした日々を過ごしていた。
37項より引用
ワールドカップ最終予選は見ることがなく、ザックジャパンはワールドカップ出場を決める。そのチームの中心は同世代の選手だった。
サッカーという同じ世界を舞台にしていても、なかなかどうして、僕のモチベーションは一向に上がってこなかった。ワールドカップに挑戦する選手たちと比べて、自分はこんなモチベーションのままでいったいなにをしているのか。圭佑くん、(長友)佑都くん、ウッチー(内田篤人)といった同世代の選手たちが活躍している姿があまりにもまぶしすぎた。
39項より引用
柏木にとって複雑な時期だったのかもしれない。かつての同志がワールドカップを目指して戦っているのに、自分は代表にすら呼ばれない。この時期に、さらに柏木は自分を追い込んでしまった。
新しい姿を見つける
2014ブラジルワールドカップ後、柏木には1つのあるべき姿を見つけた。ボランチ転向だ。レッズでもボランチ起用はあるが、今後を考えるとボランチが一番だと思ったという。しかし、どうしても捨てきれない思いもある。
2010年。レッズがオーストリアでキャンプを張っていた時、国際電話でオシムからこんなことを言われた。
「エジルになれ」
心の中でトップ下というポジションで勝負したいという思いがあった。今後の柏木陽介はやはりトップ下で勝負すべき選手なのだ。
2014年。彼にとってこの年はどんな年だったのだろう。プレーヤーとしての方向は決まった。しかし、アギーレが就任した日本代表には入れず、リーグ優勝もあと1歩でガンバに譲る結果に終わった。悔しさしか残らない年だったのか。チームとしてはそうかもしれない。しかし、個人としてはこれほど発見した年もなかったのではないだろうか。1人のプロサッカー選手として。
柏木陽介という1人の男
皆さんは柏木陽介という”人”にどんなイメージを持っているだろうか。
調子乗り世代
2007U-20ワールドカップに出た選手の世代のことだ。
柏木もお調子者だというイメージは少なからずあるのではないか。
ただ、この本を読むと、実は柏木陽介とはとてもナイーブな人なのだ。
とてもネガティブで、後ろ向きに考えてしまう。これが柏木陽介”だった”。
でも、今は違う。
物事をポジティブに考え、自信を少しずつ取り戻している。
僕はちょっと、人のために戦いすぎたかな、と思う。
恩師のため、レッズのため、母のため・・・。
そう思うことで、どんどん自分にプレッシャーをかけてしまっていた。
これからも、人のために戦いたい、とは思う。そこは変わらない。
でも、これからはもっと自分のためにも戦ってみようと思う。自分の成長のために、ピッチで戦い、自分を磨いていく。この二年間で学んだことを生かしレベルアップする。
212項より引用
自分を見つめなおし、進化してゆく。
そんな柏木陽介を今季は注目していきたい
遠藤保仁 その男、偉大なり
こんな人、いませんか?
「日本がやっているのは野球。でも、アメリカがやっているのはベースボールなんだ!」
???
さっぱりわからない。
野球とベースボールの違い。
日本語と英語の違いか?
サッカーとフットボールの違いなら、僕には分かる。
サッカーは英語で言ってもsoccerである。footballではない。
ヨーロッパの人は、フットボールというとラグビーを思いつく人もいる。
もともとサッカーとラグビーは「モッブフットボール」という1つの競技だったのだ。
サッカーとラグビーでは、ルールが違う。このことから、サッカーとラグビーの違いは、大凡検討できる。
でも、野球とベースボールの違いは分からない。マニアックすぎる。なぜなら、どちらともルールは一緒なのだから。この違いを説明しろと言われても、僕にはできない。
でも、この違いとは確かに存在するのだ。そして、この違いを見誤り、苦悩の日々を送った人もいる。元北海道日本ハムファイターズ監督、トレイ・ヒルマンである。
元担当記者が打ち明ける。
「ヒルマンは勉強熱心で、新渡戸稲造の『武士道』(『Bushido,the Spirit of Japan』)から、水島新司の漫画『あぶさん』まで、いろんなものを読み、日本と日本人を理解しようと努めていましたが、チーム成績は伸び悩みました」
1年目(2003年)は5位、2年目は3位、3年目は再び5位。05年のチーム三振数1151はプロ野球ワースト記録。
だが、4年目の06年に「ベースボール」を捨て、「野球」に徹し、活路を見出す。象徴的なのは、犠牲バントの数。05年は54個しかしかなかったが、06年には133個まで増えた。
試合内容を細かく検証すると、バントが即得点に結びついたわけではないが、三振が254個も激減したように、ランナーを進めることで、チームプレーの精神が醸成され、選手が一丸となったのである。
ヒルマンらしかったのは、アメリカのマイナー時代の経験に基づき、2年目のダルビッシュ有(この年、12勝5敗)やルーキーの八木智哉(同、12勝8敗で新人王)を積極的に起用し、育て上げたことだった。
いっぽうで、ベテランにも目配りし、クローザーのマイケル中村など、リリーフ投手の信頼が厚いことから、ベテランの中嶋聡を「抑えの捕手」として起用した。
「抑えの捕手」は、日本の倍の歴史があるメジャーリーグにも存在しない。日本式のコミュニケーションを重んじ、日本ハムは快進撃をつづけ、25年ぶりにパ・リーグの覇権を握るのである。
【ヒルマン監督】青い目の監督が学んだベースボールと野球の違い プロ野球No.1監督が判明!「ポジション別」野球人物学【12】:PRESIDENT Online - プレジデントし
プロの世界において、わずかな違いでも見落とすと大変な事態を招いてしまうのだ。指揮官たるもの、選択に誤りは許されない。
パサーとゲームメーカーとチャンスメーカーの違い
世間には、「パサー=ゲームメーカー」という考えの人は多い。でもこれは大きな間違いである。
ではパサーとは何か。
これはタイプ別ジャンルのことで、ポストプレーヤーとかドリブラーなど、そのジャンルの1部であり、その中にゲームメーカーとチャンスメーカーがある。では、ゲームメーカーとチャンスメーカーの違いとは何か。
簡単に言えば、土台作りがゲームメーカー。盛り付けがチャンスメーカーである。
ではまず、チャンスメーカーから。
この役割は、ゴールに結びつく決定的なチャンスを演出する選手のことである。
流れの中からアシストを決めることが多い選手はこのタイプ。
例えば、ハノーファーの清武弘嗣や、横浜F・マリノスの藤本淳吾、名古屋グランパスのレアンドロ・ドミンゲスはこのタイプである。
それでは、ゲームメーカーとは何か。
これは、数多くの選択肢の中から、最も適切なコースを選択する選手のことである。
ピッチ上の指揮官であるゲームメーカーには選択肢をたくさん用意しなければならない。その与えられた選択肢から正解を導き出すのがゲームメーカーの役割。だからどのチームも、まずはゲームメーカーを封じにかかる。
1流のゲームメーカーはこの選択を誤ることはない。
では、具体的に説明しよう。
今、あなたにはご覧のような環境ができている。
この時、どちらに出すのが正解か。
では、さらに条件をつける。
今のチームの流れは、ペースが変わらず、やや押せ押せムードだとしよう。
ボールホルダーがチャンスメーカーだったら。
それなら、正解はフリーな選手だ。チャンスメーカーは決定的なチャンスを演出する。それでマークがついている選手に出したらすべてが終わる。ジ・エンド。
だったら、ゲームメーカーはどうだろう。
テレ朝サッカー解説の松木安太郎は、たまにこんなことをいう。
「ペースが一定だと、相手も慣れてくるんで、ディフェンスしやすいんですよ」
正にその通り。
居酒屋解説の松木もなかなかいいことを言う。
押せ押せに乗ってフリーな選手に出したら、ペースは変わらない。相手にとられるのがオチだ。チームのペース配分を考え、「今、攻めるときなのか」ということを考えなくてはならない。
では、1流のゲームメーカーと言われる人は、どこに出すのか。
そういう選手は、一旦ゲームを落ち着かせるためにあえてペースを落とすコースを選ぶだろう。いつまでもイケイケでは、最後は相手に舐められる。
では、マークがついてる選手に出して、どう組み立てるのか。
まず、出してみよう。
前を向けないことを頭に入れておきながら、どんな行動を起こすのか。
そこは臨機応変だ。もう1度ボールを受けに行くのも良し。別の空いている選手に出すよう指示するのも良し。ただ、ここで考えてほしいのは、第1目標は「ペースを落とし、落ち着かせること」だ。出した後のプレービジョンまで考えていなければ、その選手はゲームメーカーとして2流だ。これらのことを頭に入れ、これから1流のゲームメーカーである遠藤保仁のプレーを見ていきたい。
遠藤保仁のプレービジョン
昨シーズン天皇杯準決勝から。前半3分のプレー。
遠藤はバックパスを受ける。
この時の遠藤は中でフリーだ。
遠藤に与えられたパスコースは主に2つ。
縦のパトリックか、斜めの倉田である。横の選手も空いているが、たとえ出しても何も起こらないので遠藤の選択肢はこの2つである。
もし、あなたが遠藤ならどこに出すのだろうか。
おそらくたいていの人は縦のパトリックに出すだろう。なぜなら、このときすでにパトリックは動き出している。体制もいいし、かつフリーだ。
でも、ゲームメーカーはそんな教科書通りのプレーを選ばない。1流ならさらに相手の裏をかくことも求められる。
では、相手DFを見てみよう。
重心がパトリックに向けられているのがわかる。
そして、この時の遠藤の目線だが、
パトリックというより、その周辺を捉えている。
この時の遠藤の頭の中では、パトリックに出せば
挟み撃ちされるだろうと考えていたに違いない。
このあとの遠藤だが、相手DFの動きやその後の展開を考え、左の落ちてきた今野を経由して倉田に出した。
その後の遠藤のプレー
組立で、ペースはゆったりしている。
CB金正也からパスを受ける。
その後数タッチして再び金正也へ
金正也は阿部に楔を入れる。
遠藤は受けることができる体制であり、下には米倉が動いている。
この時の遠藤の目線だが、
相手最終ラインとボランチの間が広くなっていること。そこに宇佐美がフリーになっているということを頭に入れている。
その後のプレー。
阿部が潰れ、そのこぼれ球をすかさず拾い
宇佐美に入れる。展開が早くなる。
これはファールになってプレーは止まったが、ペースを速め、相手のスキを見逃さない視野の広さは、やはり別格である。
だから遠藤保仁はすごい
なにがすごいって、この1連のプレーを1タッチでやってるってこと。
クライフはこんなことを言った。
1タッチでプレーできるのは素晴らしい選手。
2タッチはまあまあ。
3タッチはダメな選手だ
横浜フリューゲルス監督だったカルレス・レシャックは遠藤をこのように評する
「日本の選手にはスキルもフィジカルもある。問題はそこではなくて、ゲームのやり方を理解すること」
(中略)
「私がフリューゲルスの監督をしていたとき、遠藤はまだ若手でしたが、彼は自分から責任を取るプレーをしていました」
ボールを持っている味方によって、パスを受けてやる。助けに動いたことで、自分もプレッシャーを受けて危険な状況になるかもしれない。それでも、若い遠藤は自分からボールを受けに動き、場合によっては難局に首を突っ込んでいって解決するプレーヤーだったという。
「遠藤は若いころから、そういう素質を持った選手でした。そうした能力を伸ばし、現在は素晴らしい選手に成長してくれた。とてもうれしいですね」
サッカーバルセロナ戦術アナライズ 最強チームのセオリーを読み解く 著者 西部謙司 発行KANZEN 172項より引用
黄金世代と呼ばれた79年組の中で、1番遅く出てきて1番最後まで生き残った遠藤。頭で勝負し、世界と渡り合ってきた数少ない日本人ゲームメーカー。だから彼は偉大なのだ。