ダービーにおけるジュビロの守備問題と致命的欠陥/名波浩という諸刃の剣:砕かれる世界に嘆く大井健太郎と田口泰士
名波浩率いる現在のジュビロの守備は3-5-2からなるマンツーマンディフェンスです。
基本的に目の前の相手が最優先。足りない部分は気合でなんとかします。
■後手にまわるサイドの攻防
開始早々に先制したエスパルスが残り90分で狙う攻撃はハードプレッシングからのショートカウンター。田口泰士と上原力也に入るボールを2トップ+金子石毛で狙いゴールに迫る。
ボールを奪ったらサイドへ2トップとSBが走りこむ。
前半に利用したのが右サイド。エレンの背後。当然ジュビロはエスパルス右サイドに人数を掛けて守りに来る。森下、田口、そして大久保。
あくまで人海戦術による守備。人数掛けて奪えきれれば何も言うことはないし、局面が数的優位であるということは奪う上では理に適っているわけですが、ジュビロの場合はここで2つの墓穴を掘ることになる。1つ目は逆サイド。これに関しては以前も記事書いたので省略。
もう1つは身近に存在するハーフスペースのケア。例えば右サイドでは、立田、ドウグラスでキープし、金子がハーフスペースに走りこみボールを受けるとあら不思議。金子の目の前にはスペースが広がっているという現象。
これは後半にジュビロがズタズタにされる要因にもなるのだがそこは後の話。
エスパルスが常時ターゲットとしていたのが、ジュビロWBの裏に広がるスペース。前半に見られた光景は、FWを走らせてジュビロにこのスペースを警戒させる。当然ジュビロはこのスペースを警戒して人数を掛けてくる。するとジュビロ中盤にはスペースが広がり、中央から崩すことが可能。そうそうにジュビロの守備は崩壊していた。
■走らされる田口泰士
後半、システムを変更したことで攻勢を見せるジュビロは、俊輔と後半から入った荒木をSB前に配置し起点を作りエスパルスを崩しに来る。エスパルスのSB、SHに対し、WBとシャドーをサイドに置き局面で数的同数にすることでサイド及びハーフスペースでの崩しを円滑に進めようとする。
このスペースに走りこんだのは田口と高橋だ。
実際に崩され、失点はしたもののエスパルスはこのエリアにはしっかり網を張っている。ゾーンで守っているので俊輔や櫻内から繰り出されるパスを引っ掛ければいい。田口と高橋の進入には竹内と白崎が絞りスペースを消す。次第に俊輔の選択肢はサイドチェンジしかなく、愚直にオーバーラップを繰り返しては、空いたジュビロ右サイドをひたすらカウンターの餌食と化し恐怖を植え付けていく。
子空いたスペースにドウグラスが走りこむことで大井健太郎がそのカバーに走る。田口が必死こいて戻る。
エスパルス後半の攻撃の起点は高橋がいたこのエリアだ。田口に高橋とジュビロビルドアップの起点を潰しイニシアチブを握る。この試合の田口は上下動の動きは多かったものの大半は無駄走りに終わった。というより、走らせたという方が正しいかもしれない。エスパルスの敷いた網はそれほど強固であった。スペースと時間を与えないプレスでジュビロの行き場を失わせ、シンプルに空いたスペースを狙う。そのツケを払ったのは全て大井だった。
■大井が悪いのか、ジュビロがおかしいのか
後半から高橋の攻撃参加が増えたことで右サイドの守備タスクまで担うことになった大井。この試合のトラッキングデータではスプリントを14回記録するなど、リベロにしては高い数字を出している。
後半のエスパルスの攻撃の起点はスペースへ流れる2トップへのフィード。セットプレーからドウグラスにこの日2点目を奪われ、より攻勢に出ざるを得なくなったジュビロは高橋を高めに配置し、田口も位置取りは高くほとんど大井森下の2バック+山本で守っていた。エスパルスの2トップに対しては大井森下で対応するが、ここでエスパルス4点目となったシーンを。
大井のパスをカットしたフレイレがドリブルで持ち上がる。ドウグラスがサイドへ流れ大井がサイドへ流れる。
フレイレが田口を引きつけてサイドへ。大井が抜けたスペースには石毛が走りこみ、ドウグラスがパス。
大井のパスカットから始まったエスパルスのカウンターは、大井が空けたスペースを突いたことで4点目が決まった。大井のパスは安易であり、これは攻められても仕方ないとはいえ、大井1人にこれほどまでのタスクが背負っている状況自体がおかしい。フレイレのドリブルから始まったところからドウグラスのパス→中へという展開をジュビロは大井1人で対応している。前半からもそうであったが、エスパルスのカウンターにおけるサイドへ流れるFW→ハーフスペースへの展開はジュビロが自ら明確にした弱点であった。なぜジュビロはこの展開に弱いのか。サイドに流れるFWへの対応のほとんどは大井が対応して、当然のように空いたハーフスペースを攻略されている。
横への揺さぶりに驚愕するほどの弱さを見せたジュビロは、大井がサイドへ引き出されることで攻略可能となる。後半のエスパルスは徹底してサイドへの展開からハーフスペース攻略を行うことでジュビロ守備陣をズタズタにした。
■目を開けたまま見てる夢
エスパルスの攻撃はカウンターが基本で、手数を掛けず素早く獲物をしとめる。極シンプルで人数も必要最小限。だがジュビロとの決定的な違いは、その攻撃プランに明確なマニュアルが存在した。何も特別なことはしていない。だがその攻撃パターンは豊富であり、1度揺さぶれば簡単に崩れていくジュビロ相手ではその片鱗を見せるだけで十分だった。
ジュビロの致命的欠陥として浮き出たのがマニュアル化されていない攻撃とそのツケを全て払っては当然のように崩される守備。
大井「こんなに広いスペース、1人じゃ無理だろ」
カミンスキー「またシュートを打たれるのかよ...」
川又「ボールが来なくて歯がゆい...」
組織として戦ったエスパルスと個の集合体に過ぎなかったジュビロとの差は歴然だった。
■勝者の背中
今シーズン最高の内容。全てにおいて圧倒。これ以上望めば天罰を喰らうであろう、そんなゲームだった。
昨シーズン3戦全敗だったダービーは、今年1勝1分1敗で迎えて4戦目を5-1と衝撃的スコアで締めくくった。
我々が清水エスパルスである限り、ダービーでの勝利は必須項目だ。そして見事にクリアしてみせた。その勝者の背中はとても誇らしかった。
闘った者の証として