超一流ゲームメーカーの条件
前回、現代サッカーのSBについてやりました。
そのことで、実は現在全国書店にて発売されています、「 月刊footballista 」という雑誌にて、SB特集が組まれています。表紙はみんな大好き内田篤人ことウッチーです。ぜひ読んでみてください。
■ゲームを作る
ゲームメーカーとは何か。今回はまずそのことから始めます。
皆さんが思い浮かべるゲームメーカーの特徴ですが、まずパスが上手い人を挙げるでしょう。ゲームメーカーとは、その名の通り「ゲームを作る人」です。創造性というのが求められるわけで、「創る」という字を使っても、あながち間違いではないです。それで、最も手っ取り早いのがパスによってゲームを作る方法です。
そして間違えやすいのが、ゲームメーカーともう一つ、「チャンスメーカー」の違いです。以前、遠藤保仁の記事を書いたときにこの違いについて述べたことがありますが、ここでもう一度おさらいしましょう。
まずチャンスメーカーから。
チャンスメーカーとは、ゴールに結びつく決定的なチャンスを演出する選手のことです。簡単にいうならば、アシスト役の選手ですね。
ではゲームメーカー。
ゲームメーカーは、数多くの選択肢の中から、最も適切なコースを選択する選手のことです。こういうタイプの選手は、アシストの1つ前のパスをするタイプです。前に何かの番組で、なでしこジャパンの澤穂希が「今はアシストの1つ前のパスに美学を感じる」というようなことを言ってました。ゲームメーカーと言われる人は、このような考えを持つ人です。日本人選手にはこういうタイプの選手がベテランには多いです。今の若手には少ないですね。例えば遠藤はもちろん、中村憲剛や小笠原満男みたいなタイプです。彼らはアシストも多いですが、決定機に顔を出せるからこそアシストも多いのだと思います。あとはセットプレーとか。中村俊輔はゲームメーカーとチャンスメーカーを兼務しているような、希少なタイプです。
先ほどにも述べましたが、ゲームメーカーは最適なルートを決めることが求められます。それを選択する役割が与えられているということは、ゲームの流れやチームの調子、相手ももちろんのこと、ピッチ上のあらゆるコンディションも頭に入れておかなければなりません。なので、最近の若手でいいゲームメーカーが出ないというのは、無暗に縦パスを入れたりとか、ゲームのペースを変えることができていないからですね。柴崎岳なんかも、まだまだ彼らと比べると劣っています。日本代表でのプレーを見ていると、ゲームのペースを変えられていないなと思います。ペースを変えずにクオリティを上げる、というのとはわけが違うので、一流ではあると思いますが、"超"一流ではないです。
ではこれから、超一流ゲームメーカーとは何たるやをやります。
■"超一流"ゲームメーカーとは
「もし、私の前に5人のディフェンスラインがあるとする、彼らは、私にサイドへパスを出させようとするだろう。サイドからサイドへ、深くもなく危険でもないパスを。この5人のラインと、その後ろの4人のライン間のスペースはコンパクトだ。2つのラインは、サイドのスペースへ私を追い詰めて、危険を回避しようとする。だから私は、2人のウイングを深く広く配置させ、他の攻撃陣を敵のライン間で動き回らせた。そして、5人のディフェンスラインをあざむく。左右に揺り動かし、その時には、すでに完全に前を向いた攻撃陣がGKに向かって突進している。こうやって、他の選手との違いを出してきたんだ」
ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう 著者マルティ・パラルナウ 訳羽中田昌 羽中田まゆみ 発行東邦出版 42項より引用
今引用したこの部分。理解できたでしょうか。これはペップ・グアルディオラが現役時代に考えていた、チーム、またピッチ上すべてを支配するための方法です。今の現役選手の中で最高のゲームメーカーと言えば、シャビ・エルナンデス(アル・サッド)を思い浮かべる人が多いでしょう。バルセロナの黄金期を支えてきたゲームメーカーは、リーガ、欧州CL、そしてワールドカップなど、あらゆるタイトルを手にしています。ただ、僕の記憶の中では、シャビよりグアルディオラの方が、ゲームメーカーとしては上のように感じます(もちろんシャビも最高ですけどね)。
ゲームメーカーとは、ピッチ上の指揮者です。選択を1つでも誤れば、チームのバランスは完璧に崩れます。オーケストラの指揮者が、突然クシャミでもしたらどうでしょう。そのあとは想像できますよね。美しいはずの音色は一気に汚れた音になり下がります。だからゲームメーカーに求められる資質は、技術よりもゲームの流れを読む力と、抜群の状況判断力を持つ頭脳です。知識がなければやっていけないわけですね。チームが勝つために、頭をフル回転する。あるいは先を読み、チームを助けることが役割です。
ただパスをするのではなく、意図を持ってパスをし、次のアクションのため即座にポジションをとる。それが、チームメイトに次のプレーの選択肢を提供する。イニエスタの最も重要な特性は、彼のパスによって仲間がパスを続けられること。自ら(ゴール近くのプレッシャーの厳しい場所で)三角形の頂点となってサポートを提供し、止まることなくボールを動かし続ける。イニエスタのいるチームは、いつも試合をコントロールして支配できる。パスの循環のために身を捧げ、時には動きながら、時には適したポジションにとどまって。このパスは、何の役に立つのか、出す前に考える……。
ペップ・グアルディオラ キミにすべてを語ろう 著者マルティ・パラルナウ 訳羽中田昌 羽中田まゆみ 発行東邦出版 38項より引用
このようなプレーを継続してできる選手こそが"超一流ゲームメーカー"です。
■超一流ゲームメーカーのプレー
それでは実際に見てみましょう。
アッ。ちなみに今回はJリーグだけに留まらないので、そこは理解しておいてください。
画像は、世界最高峰のゲームメーカーである、ドイツ代表ト二・クロースです。サンプルはUEFAチャンピオンズリーグ、レアルマドリードvsシャフタール・ドネツクから。
ケイラー・ナバスからナチョ・フェルナンデスへ。ビルドアップのシーン。
ナチョからマルセロ(分かりにくいですが、指しているところにいます)、そしてクロースへ。
クロースは下がってくるイスコへ。
イスコは相手のトライアングル、いわゆる"ゾーン"で受ける。
ゾーンで受けるということは、「前を向く」ということは通常無理。なのでクロースにダイレクトで下げる。
クロースは、今度は右へ。イスコの次はルカ・モドリッチ。モドリッチに出した後のクロースの動きに注目。
クロースはモドリッチがボールを持つと同時に、バックステップで後方にポジションをとる。この後、結果クロースに来ることはなかったが、モドリッチからパスを貰える位置にポジショニングしている。
■クロースから見る、超一流ゲームメーカーの特徴
この一連のビルドアップにおいて、クロースは2度パスを受けている。そのいずれも前を向いた状態でパスを受けている。
前を向いた状態でパスを受けるということ。それは、ボール保持者より後方でポジショニングするということ。横パス、またはバックパスにてボールを受けるポジショニングにいることです。
少し前にスポナビの方でこんな記事を書いたんですけど
この記事では、パスワークが上手いチームはバックパスを活用しているということを書きました。それを踏まえてこのクロースのポジショニング。あらかじめ後方にポジショニングしていることで、チームにバックパスを選択させる。それにより、パスワークを円滑にし、前線が交通渋滞を起こさないようにチームをコントロールする。
そうです!!
超一流ゲームメーカーと言うのは、個人でチーム全体をオーガナイズできる能力を持っている選手のことです。そのためにはチームから絶大な信頼感がないと無理です。だからゲームメーカーと言われている選手は、思考の速度が半端なく早い。一切迷わない。チームが用意してくれた選択肢をパっと決める。それも正確に。これが超一流ゲームメーカー。だから、こういうタイプっていうのは、なりたくてなれるモノではないです。天性というか、頭のキレがいいというか、本当に特別な選手というわけですね。
■ペースを変える
ゲームメーカーと言うのは、常にゲームの風向きを正確に読み取らなければいけません。チームの流れを変えるということは、ゲームメーカーの仕事です。あえてペースを上げる、だったりあえてペースを落とすということを、常に考え、判断し、実行することが求められます。
それではここで、日本が世界に誇る超一流ゲームメーカー遠藤保仁のプレーを見てもらいます。
遠藤から右SBの米倉へ。まずは右サイドのターン。
米倉から阿部を経由して、再び遠藤へ。
遠藤はターン。今度は今野泰幸のターン。レイソルの選手2人が今野にプレスをかけようとしている。
遠藤はやや後方にパスを"ズラす"。このパスは、今野を相手からのプレスを避けるための処置。
今野から再び遠藤へ。この時遠藤は前線の選手に高い位置を取るようジェスチャーを送っている。
遠藤はダイレクトで下げる。まだこの場面では攻めるときではないと判断。準備するように指示する。
再び遠藤へ。ここでサイドチェンジをする。次は左サイドのターン。
左に開いている岩下敬輔へ。
岩下から今野。そして今野は米倉。右サイドのターン。
米倉は遠藤に落とす。
遠藤は米倉へ速いパスを送る。
ここで少し話はズレますが、遠藤とかさっきのクロースのパスっていうのは、先ほどの今野へのパスのように少しズラして出したり、あえて早いパスを出しています。相手がとどかないところ、あるいは受け手にアクションを起こさせるという狙いがあります。
例えばJリーグの試合で、俺がグラウンダーの速いパスを出して見方が受け取れなかったとする。これは普通に見ていたら「なんで、あんなところにパス出すんだよ」っていうことで、パスミスとして俺のマイナス点になる。
でも、俺は全く違うことを考えている。
日本代表や世界レベルを意識し、パスの「質」を追求して出しているから、あえて届くか、届かないかのギリギリのボールになる。ゆっくりしたパスを出せば繋がるかもしれないけれど、それじゃ世界では通用しない。代表では、みんな意識が高いからそういう速いパスもつながるけれど、走る方もJリーグのレベルで「届くだろう」という感じで走るから、そのボールに届かない。
仮にパスがとどかなくても、自分の中ではすごく重要なトライだと考えて出していることもある。だから、失敗しても何か特別な感覚を掴めれば、それが一番良いプレーだと思うこともあるのだ。そもそも、そういう厳しいパスを出し続けなければ、世界との戦いで決定的なパスは出せない。
ゲームメーカーというのは、パスの質にこだわらなければなりません。どこに出し、ボールスピードや出すタイミング、すべてを計算してやっと1本のパスが成立するということです。
それでは続き
米倉は倉田秋とパス交換する。この間に遠藤はバックステップを踏む。前方の視野を広げるためです。
バックステップは、ボールを自分の視野に入れながらマーカーの視野から外れ、自分のスペースを確保するのに最適な動き方です。
米倉からパスが出る。
遠藤は今野へ。
今野はダイレクトで遠藤へ返す。
この一連の遠藤を中心としたポゼッションは、ペース配分を変えながら攻め時を遠藤が窺っていた。最初はゆったりとしたペースで始まり、1度米倉へ速いパスを送ったが、これはあくまで窺っている状況であり、試していたとも言えます。
特に序盤に遠藤が前線の選手に対して「準備しろ」というジェスチャーをしてましたが、このポゼッションの狙いとして、前線の宇佐美貴史だったりパトリック、あるいは倉田が高い位置で準備することであり、そのためのビルドアップです。
ただ、このビルドアップだけで横に縦にボールを動かしているわけで、いずれも遠藤主導なんですね。というわけで、この一連の流れにおいて遠藤は常に前線の選手、周囲の選手、また相手の動きを把握しながら先を先を読み組み立てていたわけです。
面白かったのは、意識の高い選手とそうでない選手がはっきり見えるようになったということだ。例えば、右サイドから左サイドにボールを運ぶとする。相手を誘うためにゆっくり出すという意図があるならいい。でも、何も考えていない選手は、ただゆっくり回すだけで打開しようとする意識を持っていない。単に、回すことに満足しているのだ。
それでは、状況は変わらない。
次の動きのことを考えている選手は、パスを早く回す。早く回せば、サイドバックが高い位置に進めてチャンスを作れるからだ。パス一本でも、先を考えるのと、そうでないのとでは、これだけ差が出るのだ。
■超一流ゲームメーカーの条件
ここまで言えば、何が超一流ゲームメーカーなのかだいたいわかると思います。
簡単に言えば、「支配者」ですね。ピッチ上を完全に支配することができるかどうか。それが超一流と一流の違いです。
こういう選手が1人でもチームにいれば、その選手の個の力によって組織をオーガナイズできます。そういう能力を持ってます。
今の若手選手にはそういう能力を持った選手はいません。鹿島アントラーズの柴崎岳や川崎フロンターレの大島僚太もその器ではありません。やはりどうしても"流れ"を読めていないところがあります。ペースに合わせてしまったり、無理に縦パスを入れてカウンターを食らうという、超一流にはまだまだ敵っていません。縦志向が強いっていうのは結構です。ただ超一流ゲームメーカーは時に反する決断をしなければなりません。その流れに反する選択肢があるかどうか。またそれを決断できるか。そこです。
また、個人戦術の話にもなりますが、パスの「受け手」がいるということは、当然「出し手」もいるわけで、冒頭でゲームメーカーを生かすには周囲が選択肢を増やす必要があると書きましたが、ここにチームとしてのフィーリングも必須となります。
2011年1月、宮崎で口蹄疫復興に向けたサッカーイベント『TAKE ACTION』が行われた時のことだ。
風間は中田英寿チームの監督として招かれ、試合前日に1度だけ練習を行った。そのとき「受け手」と「出し手」のタイミングを伝えるために、中田英寿を出し手役、藤田俊哉を受け手役にして、風間監督がデモンストレーションをやらせた。指示はとてもシンプルで、「動いている受け手の足元に、パスをピンポイントで出せ」ということだった。
合図とともに、中田がパスを出し、藤田が受ける。だが、すぐに風間監督はプレーを止めさせた。
「俊哉、動き出すのが早すぎる。ヒデが蹴られる状態になる前に動いても意味がないだろう? ヒデがきっちりボールをセットしてから動け」
2度目のトライ。だが、また風間監督はプレーを止めた。藤田はさすがに「これでも、まだ早いですか?」と疑問をぶつけた。
風間監督はこう答えた。
「まだ早い。俊哉のタイミングを遅くするか、ヒデのトラップを直すかのどちらかだ」
すると今度は中田が「え?」と声をあげた。まさか自分のトラップが悪いといわれるなんて思わなかったのだろう。
風間監督の指示が、今度は中田に向けられた。
「ヒデ、止めてからけるまで時間がかかりすぎだ。俊哉はヒデがトラップした瞬間から動き出しているのに、ヒデが蹴るまでにロスがある。もっと前のタイミングで蹴らないと、俊哉がタイミングを遅らせなきゃいけなくなる」
さすがは日本サッカー界を引っ張ってきたMFだ。中田は指摘されるとすぐにトラップを修正して、蹴るタイミングを早め、藤田の動き出す足元にピタリとパスを合わせるようになった。
練習後、中田は風間監督にこう話しかけてきたという。
「体の認識は何となくあったけど、あんなことを言われたのは初めて。パスを出すまでに、すごく無駄な時間があったんだなと思いました。すごくおもしろかったです」
革命前夜 すべての人をサッカーの天才にする 著者風間八宏/木崎伸也 発行KANZEN 83項より引用
これが大変です。ゲームの流れを読むうえで、味方とのフィーリングの問題もある。当然相手は対するFWの癖を分析するわけですから、相手がほしいタイミングもしっかり見抜くわけです。それでもタイミングに合わせなければいけない。最高のパサーは、先ほどの遠藤の著書にも触れましたが、味方にパスでアクションを起こさせるという、相手の予測の上をいかなければいけません。だから日ごろから常に考えていること。早く予測し、常に相手の思考を上回る、もちろん思考の内容や考えるスピードも含めて。
超一流ゲームメーカーとは、現在では貴重種になってきました。絶滅危惧種です。ぶっちゃけ今の若手選手は、ペップバルサを勘違いして理解している感じで、ポゼッションにおいて常に縦一方通行なんですよね。それに便乗しちゃっているわけだから、存在感がない。しっかりブロックを作っていればノーマークでも耐えきれてしまうのではないかと思うほどです。だから例えばガンバの井手口とかもっと遠藤から学んでほしい。どんな思考回路が働いているのかとか、技術面より頭の方。今後日本サッカーが発展していくには、技術より頭を使えるかがカギになります。それだけ超一流ゲームメーカーは必要なのです。
最後にもう一言
超一流ゲームメーカーとは
「個人でチーム全体をオーガナイズできる"支配者"のことである」
日本vsカンボジアから見る、日本の攻撃が単調な理由/現代サッカーにおけるSBに求められる資質
■現代サッカーが求めるSBの役割
進化を続ける現代サッカーにおける、SBの役割
グアルディオラのチームの進化のプロセスは、まず問題点を分析することから始める。この頃のバイエルンは、リベリーからサイドバックへ、そしてセンターバックへを通ってロッベンまでの、チームに何の利益ももたらさないUの字のパスを循環させていた。ボールを持っていたが、そのボールを使ってなかなか仕掛けず、敵のラインを壊そうともしていなかった。深いところを突くパスもなかった。その問題解決のために試行錯誤していた時、バルサでの4シーズン目を思い出したのだった。
(中略)
この時、チームを進化させるために浮かんだ1つのアイデアが、左サイドバックに関する戦術の変更だった。ペップはこの変化について、7月のトレンティーノで私たちにこう説明している。
「あの時、バルサでイメージした戦術変更の目的は、ワンピボーテとともに、左サイドバックをドブレピボーテとして敵の攻撃の通路を閉じるために使うところにあった。攻撃を組み立てながら、私たちのチームはワンピボーテの高さまで左サイドバックを上げることができた。しかし、そこから先はボールがワンピボーテよりも前にパスされるまで、左サイドバックはワンピボーテを追い越さないようにする。そして、必要とあらば左サイドから絞って、ピボーテの高さを超えずドブレピボーテの1人となるんだ。左サイドバックをワンピボーテとともにドブレピボーテとして中にいれるアイデアは、私の中でリザーブしてあったんだ」
ペップ・グアルディオラ キミにすべてを話そう 著者マルティ・パラルナウ 訳羽中田昌 羽中田まゆみ 発行東邦出版 196項より引用
ペップ・グアルディオラのアイデアは、常に最先端の戦術として世界中から注目されている。リオネル・メッシを使った「ゼロトップ」、中盤を厚くした「3-4-3」。そしてバイエルン・ミュンヘンにて実現した「ファルソラテラル」。偽サイドバックである。
ポゼッションするうえで、組み立て、ビルドアップというのは、とても重要な作業だ。このビルドアップにおいて、ペップが最も嫌ったのが、センターバックを経由してのサイドチェンジだ。
このパス回しが起きてしまう原因として、「SBの組立力の欠如」が挙げられる。
前線でボールが行き詰まると選択するのがバックパスだ。そこで経由するのがSBである。SBに組立力があれば、2次3次攻撃につなげることができ、適切なポジショニングにいれば、効果的な攻撃を演出することができる。しかし、組立力に欠けるSBはセンターバックに下げる、及び無理に縦パスを入れ、攻撃を終わらせてしまう。現代サッカーはゾーンで守るディフェンスが主流だ。その守備網を崩すためにヒントになるのがサイドである。現代サッカーにおいて、サイドをシカトすることはありえない。そして、そのサイド攻略するために、サイド後方を利用してビルドアップを行う。そこで起点になるべきがSBなのだ。
パスは回せるが、ポゼッションが上手くないチームの特徴は、サイドにおける組立に欠陥がある。例えば日本代表。無意味なポゼッションに終始している現在のチームおいて、SBの役割はどのようになっているのだろう。
■動きがワンパターンな長友佑都
まず、ワールドカップアジア2次予選、カンボジア戦から長友佑都、酒井宏樹プレーを見てみる。
まず長友。前半15分。
フリーでボールを持つ。
縦にいる武藤嘉規に出す。
出した後の長友。武藤を追い越す。ただ、赤丸のカンボジアの選手は初めから長友をケアしていたかのように長友につく。これでは武藤をサポートできているとは言えない。
次は前半38分。
再び武藤が持つ。長友は当然のように武藤を追い越す。
武藤も縦にドリブル。長友も縦にオーバーラップ。動きがダダ被り。
結果、武藤は中にボールを入れ、組み立て直さざるを得なかった・この時も長友の近くにはカンボジアDFがついている。
カンボジアだってバカじゃない。
インテルという、誰もが知るビッグクラブでプレーしている選手の特徴は簡単に分かる。それに、長友の動きは「ウイングを追い越す」しかない。このワンパターン。
例えば、ザックジャパンにおいて、左サイドでコンビを組んだ香川真司は、中に頻繁に顔を出すタイプである。これなら、長友は空いた左サイドのスペースに走りこむことができる。
しかし、左にいるのが、縦にドリブルできる武藤なら、この動きでは武藤をサポートできない。下がってボールを受けるという動きがない長友では、左サイドの攻撃力がザックジャパンと比べ半減する。そもそもハリルホジッチはザックジャパンを目指しているわけではないのだから、この無意味なスプリントを繰り返しても効果は何もないのだ。
では酒井宏樹に動き。
前半38分
本田圭佑がボールを持つ。
酒井は本田を追い越す。
酒井は右でフリーとなっているが、本田には酒井が視野に入っていない。そして相手DFからも見放されている。相手ディフェンスラインを横に引っ張ることもできていない。
これは、酒井の縦に追い越すというプレーを、本田自身が望んでいないといえる。この時の本田の選択肢は
- アーリークロス
- 下げて組み立て直す
- 酒井に出す
の3つが挙げられる。しかし、酒井へのパスというのは、相手をいなすどころか、怖さをもたらすことすらできない。なぜなら、酒井に入ったときの酒井自身の選択肢は「クロス」しかないからだ。相手はそれを読み切っている。カンボジア相手でも、そこまでバカじゃない。
この後も、何度も本田に無視され続けた酒井。その動きもそのあとのプレーも「本田を追い越す→クロス」しかないからだ。
ここまで見てみると、長友と酒井にはプレーの引き出しが少ない。縦のオーバーラップしか行動範囲がない。また組み立てることもなかった。相手が相手だとしても、逆にこういう機会だからこそしっかり組立をトライしてほしかった。ただやはり変わらなかった。カンボジアも守りやすかったのだろう。
では長友、酒井のプレーを通してみてみたい。
■繰り返すオーバーラップ
前半39分。先ほどの酒井のプレーが38分なので1分しか変わらない。
長谷部誠にボールが渡る。酒井はまたもや本田を追い越す。先ほどのオーバーラップから1分しかたってない。
長谷部から本田へ。酒井は本田より高い位置にポジショニングしている。
本田は長谷部へ。この時本田は長谷部に下げることを要求している。ここでも酒井は本田から当てにされていない。
酒井を哀れに思ったか、長谷部は酒井に出す。酒井は1on1。
酒井は当然のように仕掛けクロスを上げる。ただ、当然工夫がないので簡単にクリアされる。
クリアボールを長友が拾う。長友は森重真人に下げる。
森重は長友へ。
長友は武藤にいれ、武藤を追い越す。さっきと全く同じ動き。これも相手にケアされている。
これだけ90分通して同じ動きを繰り返せば、相手からしたら守りやすいのは当然だ。
この試合の両SBは、日本の攻撃を常に停滞へと導いていた。現代サッカーではこのように、ただ追い越すというのは求められていない。状況に応じて多彩な動きをしなくてはならない。現代サッカーにおいてSBというのはかなり重要視されるポジションなのだ。だからSBが攻撃を停滞させるということはあってはならない。
■現代サッカーが求めるSBの役割
SBはディフェンダーだ。だから最低限ディフェンスはしなくてはならない。しかし、サッカーが進化していくのに対し、SBの使われ方も変わってきた。いつの間にか、SBはDFにもかかわらず、攻撃参加を求められるようになり、それはいつの日かSBの基本的動作になった。
そこで現代だ。
ペップがバイエルンにおいて、フィリップ・ラーム、ダビド・アラバといったSBにゲームメイクを求めたように、SBがコーナーフラッグを目指してオーバーラップする時代は終わりを告げたのだ。スプリントを繰り返せばいいというSBは旧式なのだ。
日本のSBはスプリントを繰り返すことを望まれている。まだまだ最先端に追いつけていない。川崎フロンターレのエウシーニョはかなりフリーダムであり、「ポジションはエウシーニョ」みたいなところはあるが、最先端の戦術で求められるSBは、あのような多彩なバリエーションを持つ動きや引き出しの多さである。そしてゲームメイク。冒頭で言った通り、現代サッカーはサイドバックに組立を求めている。そして日本人SBの中で数少ない組立ができるSBが内田篤人だろう。バランスに長け、ビルドアップに頻繁に関わってくる内田は、現在の日本代表に欠かせないピースである。だからマジで早く戻ってきてほしい。
ここでエスパルスに。
何回も言うように、SBはゲームメイクを求められるようになった。だからそれなりの技術や引き出しの豊富さが必要となる。
というわけで、六平はマジでSBを頑張ってみたら? もともとゲームメイクには定評があるわけで、現代サッカーが求める役割にマッチしている。長友と比べるのはキャリアも考えてフェアじゃないけど、どっちがマッチしているかと言ったら六平だと思う。あくまでマッチしているかという問題で。アスリート能力や経験値では太刀打ちできないと思うが、さすがにカンボジア戦のプレーを見ていたら、「あれ? これリアルに六平でも通用すんじゃね?」って思ったもん。
六平におけるSBの強みとして、やはりしっかり組立ができるというところ。
たとえば前のFC東京戦では、縦に出すよと見せかけておいて中に出すというプレーがあった。
SBでこのプレーが見れるのは、Jリーグの中では希少価値がある。ガンバ大阪の米倉恒貴がSBでブレイクして代表に選ばれたように、六平もマジでSBをトライした方がいい。フィットすればリアルに代表クラスになれるだけのポテンシャルはある。
今回はSBに求められる資質について、主に組立の必要性についてやったので、次回はやっとできるわ「超一流のゲームメーカー」について。
デュークの問題点
田坂体制になり、早4試合を経過しました。
結果こそ出てはいませんが、前体制と比べると、だいぶ秩序ある組織体になってきたなと思えます。戦術とかに関しては、近いうちにスポナビのほうで書きます。
さて、今回の主役はミッチェル・デュークです。
デュークなんですが、いろいろと問題ありです。もちろんサッカーの話です。
ただデュークという選手は、しっかりハードワークするし、走ってくれるし、好青年っぽいし…。まぁ憎めないヤツです。
ではここで、デュークの特徴から考えてみましょう。
デュークの特徴は、
- 雰囲気的にハワイのビーチにいそう
- 身長の割に小さい車に乗ってそう(同郷のボスナーがミニクーパーに乗っていたというイメージから)
- 眼鏡かければ厚切りジェイソン
っておい! これ外見のイメージだろ!!
マジメにサッカーについてデュークの特徴は
- 守備サボらない
- 最後まで走り抜ける
- フィジカルが強い
すぐに挙げれるのはこれくらいでしょう。ここから分かるのは、この挙げた3つの特徴はボールとは無関係なところでの特徴です。例えば、「パスが上手い」とか「ドリブル上手」とかそういうのは思い浮かばないですよね(失礼は承知です)。
そうです! デュークとは、オフ・ザ・ボールでのクオリティー次第です。その動きが良ければ抜群のプレーが見れます。
ではここでデュークの問題あるプレーを見ていきましょう。
先日のFC東京戦から
ヨンアピンからデュークへ
デュークは足元にボールを納める。中では枝村匠馬がフリー。本田拓也は逆サイドをチェックしている。
デュークは前を向く。ヨンアピンはオーバーラップ。この時のデュークの視野にはヨンアピンしかいない。
ヨンアピンへパスを出す。デュークはそのまま縦に走る。
デュークのフリーランにより、中の枝村が空く。しかしヨンアピンはクロスを選択し、カットされる。
この場面では、デュークが走った後に枝村に入れて組み立て直さなかったヨンアピンにも非はあるけど、やっぱり1番の問題は「デューク→枝村」という組立がなかったところ。
デュークがトラップした2枚目の画像ではデュークは中を向いていることから、視野には枝村、そして本田も入っていた。しかし、ボールが納まると同時にデュークはプレースピードがまるでペースダウンしたかのように縦の一点張りみたいに、上がってくるヨンアピンにしか視野が入っていなかった。問題点はここにあります。2枚目の時点で仮に枝村に入れていれば、枝村には最低3つの選択肢がありました。
一つ目はデューク。このシーンもそうなんですが、デュークの特徴として、「パスアンドゴー」の「ゴー」の部分。だいたい縦に走ります。そこに当てる。二つ目がデュークがいたスペースに入るヨンアピン。デュークが縦に走ることで相手を引きつけるので、後方にはスペースが空きます。最後の画像もそうですね。デュークが走ったことで、後方の枝村が空いています。そして三つ目が本田を経由してのサイドチェンジ。本田は1枚目で逆サイドをチェックしていたので、そういう選択もあります。
ここではサイドでの展開が遅かったことが問題。これはこの試合でデュークとは逆の担当だった白崎凌平にも同じことが言えます。白崎の場合は持ちすぎだったり、球離れが悪いところが問題なんですが、デュークの場合は自ら選択肢を消してしまうとこが問題。デュークの問題点は、オフザボールの時はいろいろと見えています。視野が広いです。しかし、ボールを持つと途端に視野が狭まる。1枚目の時点では枝村や本田はしっかり捉えていたはずです。しかし、ボールを納めると視野から外れる。一気に世界観が狭くなります。それで、時に無謀なことをしてしまうこともあるのです。
この場面でのデュークなんですが、ヨンアピンに預けて縦に走り出しました。4枚目の画像です。ここから一気にペースを速めたかのように、プレースピードが上がりました。ここから分かるのは、冒頭でも言いましたが、デュークはオフザボール次第の選手です。ボールを保持しているときではなく、保持していないときに変化をもたらすタイプです。こういった動きを「ダイナミズム」というんですが、それがデュークの特徴といえます。
ではここでもう1シーンを
ウタカからボールを受ける。カウンターが始まります。
ヨンアピンに預ける。
ここでヨンアピンの選択は右足でのクロス。結果は跳ね返される。
この時点でデュークはフリーなんですけど、ヨンアピンの選択肢に「デュークへのパス」はなかったと思います。というのも、ここでパスをするということは、デュークの足元に出すというわけです。でもですよ、もう一回思い出してみてください。デュークはオフザボールで変化を生む選手です。この場面では変化は訪れることはありません。彼がクリスティアーノ・ロナウドだったら、ワントラからの理不尽ミドルが炸裂することが目に見えているので、否が応でもパスを出すと思いますが、ロナウドではなくデュークです。彼の良さを考えたら、ここではありません。ヨンアピンはそれを分かっていたからあえて出さなかったのでしょう。むしろ、ゴール前に走りこんでほしかったと思っているのではないでしょうか。そうでしょキャラ?
ではデュークの良さがはっきり出るのはどんな場面か。それを見てみましょう。
その場面とは、2ndステージ6節湘南ベルマーレ戦でのアシストをしたところです。
ウタカがボールキープ。デュークが縦に走り出している。
ウタカがヒールで出す
はい。これです。完璧なカウンターです。デュークの良さが素晴らしくでたシーンです。
過去の2シーンと違うところは、デュークがどういった状況でパスを受けるかというところです。過去2シーンではいずれも足元でパスを受けています。しかし今回はどうでしょう。あらかじめ走っている状態で、スペースで受けています。初めからギアが全開でスタートしています。
ここまでで分かるデュークの特徴は、「デュークは走ってナンボ」の選手だということ。パスは足元ではないです。スペースです。このアシストしたシーンでは、縦のダイナミズムによって生み出されたわけであって、パスを出したウタカもデュークの良さを理解したうえでキープ:裏にデュークの走るスペースを作ることをしたんだと思います。
そういえば、ウタカからデュークへのパスというのは、そんなケースが多いような気がする。確か神戸戦のデューク初ゴールも走っている状態のデュークに出しているし。竹内涼なんかもそうですけど、スキルあるパサーは味方の良さというのを一発で理解することができます。パサーっていうのはそういう選手です。話ずれそうなんで近いうちにこのことに関してやりたいと思いますが、味方を理解できないパサーっていうのは2流ですらないんです。なんちゃってパサーです。
ではここでデュークの欠点を。
デュークは器用なことをするときもありますが、基本不器用です。ハードワークをしっかりやるというところからして岡崎慎司に似ているところがあります。それで、岡崎の場合は、ダイアゴナルの動きがあって、例えば左にいたことが多かった2010年は、右からのクロスに、中に走ってシュートしたり
あるいはダイアゴナル・ランによってスルーパスを受けたりとか
こういう動きがありました。ただデュークにはそれがない。湘南戦のシーンなんかもそうですが、縦のダイナミズムはあっても横のダイナミズムはありません。それに関しては、今まで左のウイングバックをやっていたからでしょう。WBがピッチ中動き回ったらそのサイドが死にます。サイドバックがいないので動きたくても動けない。サイドに縛りつけられます。だから中への動きがない。そこは今後の修正ポイントです。
他では中へのドリブルでのカットインがない。何回かはそれらしきことはやってましたが、そこは問題があって、カットインするファーストタッチはいい。一人は抜けます。でもセカンドタッチが悪い。カバーする2人目のDFに獲られることが多い。原口元気とか中島翔哉は細かいボールタッチで中に射抜くドリブルをするんですが、デュークはセカンドタッチが大きくなることが多くて。でもそれはデュークの本来の持ち味ではないので割愛します。
ここまでいろいろ書いてきましたが、デュークは走ってナンボです。現在はSBがいるので活動範囲が増してくると思います。デュークの下に六平がいることが多いのは、組立をしっかりしたいからかなと。これに関してはスポナビの方でやります。
1つ言えることはデュークは檻に入れてはならないということであり、開放感があるスペースが最も生きるということです。
という中途半端な結論ですが、だいたい言いたいことは言えたのでここまでにしたいと思います。
川辺駿@ノールックパス ~手練手管~
J2第29節 アビスパ福岡vsジュビロ磐田から、82分の川辺駿のノールックパスを見てみる。
コーナーキックのこぼれ球を拾う。状況は1on1+1。福岡の坂田大輔が直前のコーナーキックを蹴っていた太田吉彰をチェックしながら、川辺のサイドへのパスコースも同時にチェック。
川辺は視線をサイドに向ける。坂田は「サイドに来るな?」といった感じで、サイドをケア。この時点で太田は坂田の視野から外れている。
坂田の目線がサイドに行ったところで、相手の門を通す。
坂田は完全に逆を突かれ、太田へのスルーパスが通った。
ここで問いたいのは、なぜ坂田はサイドに目線を移したのか。ここで1枚の画像を見てもらいたい。
川辺は出す直前に目線だけでなく、体の向きまで外に開いている。これが決定的なところ。目線までなら、あそこまで逆を突かれることはない。しかし、体の向きまで動作が行われていたら騙される。
川辺はサイドに向きを変えていたが、実際のコースは縦。サイドをフェイクに裏に抜ける太田に出した。
手練手管
ノールックパスというのは、プロでも上手い下手に別れる。それだけ高度な技。下手なノールックパスは首上の動作のみで行われる。アマチュアならそれだけで騙せることができるかもしれないが、プロが相手となると話は別。首上の動作だけで騙すのは非常に困難だ。
川辺のノールックパスは高いテクニックレベルを示したプレーである。まだ19歳という年齢を考えると、今後の伸びしろが期待される逸材なのは確かだ。
角田誠のプレーを見てみよう/適正ポジションはどこか
8月12日にリーグ戦が再開します。
降格圏から脱出するために、この夏の移籍ウィンドーで鄭大世と、角田誠を獲得しました。
鄭大世はすでにエスパルスの一員としてデビューしてますが、角田は湘南ベルマーレ戦が初陣となりそうです。
そこで、今回は角田のプレーの特徴を見るだけではなく、ポリバレントな角田にとって、適正なポジションはどこかを考察します。
まずは、つい最近まで所属していた川崎でのプレーを振り返ります。
前提として、川崎はボールポゼッションを高く保つスタイルをしており、ビルドアップを非常に大切にしているということを頭に入れておいてください。
サンプルとして、今季川崎の最多得点試合となった1stステージ第4節アルビレックス新潟戦を観ていきます。この試合は4-1で川崎の勝ちです。川崎フロンターレのイメージって、バカのように点取って圧勝するだったり打ち合いを制する試合がすごい印象的なんですが、今季はこの4点を取った新潟戦が単独最多得点試合となってます。ジュニーニョや我那覇やレナチーニョや鄭大世がいた時代はもう過去です。これはこれで寂しい。っていうか鄭大世ウチにいるわ。
では見てみましょう
前半3分
角田へバックパス
新潟の選手がプレス。ここで注目すべきは、角田の体の向き。プレスに来ている新潟のラファエル・シルバは角田の右を切っています。そうです。角田は右利きで、そして右サイドはオープンスペース、かなり空いています。エウシーニョがフリーです。ここであくびしてもばれないほど広大にスペースが空いています。
で・す・が
角田は左に向いてしまう。そこは密集地帯です。右を切られているからしょうがないとも言えますが、ここで差が生まれます。組立力があるかどうかの差です。
では続き
囲まれて局面は3対2。数的不利。自ら袋小路に追い込まれる状況を生んでしまいます。これはいけない。
結果、相手にカットされます。
では次
前半6分
角田は杉本健勇へ楔を放つ。
ここで杉本は4人に囲まれる。杉本のパスコースは中の中村憲剛と右のエウシーニョ。と、角...田...。アレッ!?
ボールは中村憲剛へ。角田はボールもらう気なし。
ここが問題!!
角田はこの時、ボールを受ける動きをしなかった。楔を打ってから貰い直す動きがなかったわけです。
角田は、楔を放ったところは良かったです。
問題はこの後。
本来ならば、動きなおしてもう1度もらうことができるポジショニングを取るべき。
でもこの時角田は動かなかったため杉本には2つしかパスコースがなかった。組立においてバリエーションを2つから3つに増やすということはとても重要なことです。これがカルフィン・ヨンアピンや谷口彰悟ならもう1度もらう動きをするでしょう。またそうした動きを風間八宏は求めてます。
では谷口とヨンアピンはどうか。見てみましょう。
まず谷口。
角田から大島へ。谷口は丸で囲まれてる左サイドの選手。
大島が前を向く。谷口が動き出す。
相手の門を通して、裏で受ける。これだけで相手を2人外した。こういう動きをセンターバックでありながらできる谷口は組立力があるといえます。
相手の背後で動き、パスをもらうことが風間八宏の狙いです。筑波大学から一緒にやっていた谷口はこの動きがスムーズにできています。
「一番自分の中で変わったと思うのが、相手がパスの受け手をマークしているように見えても、受け手が人を外していたら、そこにどんどんパスを当てていいということ。ボールをしっかり止められて、持てる選手がいれば、怖がらずにどんどん出していいんだと。マークされているようで、実はマークされていないという状態がわかった。少しでも隙間が空いていれば、マークされていないに等しいんです」
革命前夜 すべての人をサッカーの天才にする 著者風間八宏/木崎伸也 発行KANZEN 190項より引用
これは谷口自らが言っているコメントです。画像の例ではパスの受け手として動いてますが、そういった感覚があるからこそ受け手としても抜群の組立のセンスを発揮できるわけです。
では次にヨンアピン。
横浜F・マリノス戦から
アデミウソンからボールを奪う。
ボールはヤコヴィッチへ。
ヤコヴィッチから本田拓也へ。ヨンアピンはフリー。この時点では受ける気はなし。というのも、密集したエリアにいることと、自分の視野にボールと味方、相手を入れていないから。要するにこの時は準備ができていないということです。だから「ボール回すなよオーラ」をビンビンに発しているのです。
ボールは八反田康平へ。ヨンアピンはバックステップを踏んでいる。ここで準備が整う。ただ下がるより、バックステップをすることで、視野にボールと味方、相手を見ながら下がれば、状況判断がスムーズにできます。
バックステップは、ボールを自分の視野に入れながらマーカーの視界から外れ、自分のスペースを確保するのに最適な動き方です。
Jリーグサッカー監督 プロフェッショナルの思考法 著者城福浩 発行KANZEN 123項より引用
ヤコヴィッチがボールを持つと同時に、バックステップで適切なポジショニングを取る。「いつでも来いよバカヤロー」状態になりました。
以上が、組立力の説明です。角田とは関係なくなりました。
ここまで言うと、角田の株を下げてしまっている感じなので、角田のいいところを見てみます。
これも新潟戦から
フリーです。
杉本の足元にピタッと楔を入れました。
こういうプレーから見る通り、角田は基本的に足元はできます。村松大輔ほどではないです。パス能力はJの中では平均的でしょう。
ここまでで言いたいことは、角田はパス能力はあります。フリーなら、プレッシャーを受けていないならいいパスを出せます。しかし、組立においてプレッシャーを感じたり、また動きや精度なんかは高くないです。組立力は低いと言わざるを得ません。起用するならそういったところを考えなくてはいけません。
だから、風間サッカーに合わなかったのはそういったギャップが存在したからでしょう。それでも開幕から起用され続けたのは、守備専として置いておきたかったからです。しかし、それで大量失点を喫したら守備専なんていらないわけです。だからラストゲームが5失点を喫したエスパルス戦だったということはある意味当然の結果だと言えます。
とはいえ、何も角田がすべて悪いというわけではありません。角田はキャリアがある選手です。若手ではないので、今から風間サッカーを覚えろは無理です。そういうこともあり、角田のエスパルス移籍は、角田が風間色に染まらなかったということより、風間八宏の起用法が悪いわけでもなく、獲得した川崎フロントが悪いわけです。合うわけがない。だから
なぜ角田を獲った?
守備における角田誠の特徴。
守備の特徴として、角田と似た感じなのが村松大輔です。球際だったり、フィジカル勝負だったり、そういうところが持ち味の守備をしています。
ただ、もちろんお互い違う点もあります。
例えば村松は、
- 守備範囲の広さ
- スピード
があります。これは角田にはないですね。
一方で角田には
- 豊富な経験値
- 高さ
があります。
では角田の守備を見てみましょう。
こちらも新潟戦から
新潟のショートカウンター。角田はあえて間を空ける。もしこの時に詰めてしまえば
こうなる。画像では、すでに田中達也が裏を狙っていた。
では次
角田の次の仕事は、左サイドからカットインするラファエル・シルバをチェックすること。
小林裕紀がボールを持っている。ここでラファエルをシャットアウト。2人に「ここはチェックしてるからな」と警告しているかのように詰める。
この時のそもそもの狙いは、ラファエルにボールを入れさせないこと。だから気づかれていい。むしろ気づかせている。気づけば入れられることはないから。
小林はラファエルを諦める。角田もラファエルから離れる。ラファエルは少し寂しそう。
ここで田中達也が裏を狙っている。角田の次の仕事は、田中を抑えること。田中はスタートを切っているため、今更封じることはできない。だから、田中に入ったあとを抑える。
パスが出る。
1対1
田中から小林へ。田中はやり直すように指示している。角田はこの一連のミッションをコンプリート。
経験値高い角田は、適切なタイミングでの守備が本当にすごいです。ジャストなタイミングでジャストな仕事をしている。村松はすべてクラッシュするように非常にアグレッシブですが、角田の守備は職人肌です。ここが見どころでしょう。
適正ポジションはどこ?
ここまで組立から守備をやりました。ベガルタ仙台ではボランチで中盤のフィルターとして輝いていました。ベガルタのようにボールを保持することをメインとしない戦術なら輝きます。しかし、川崎フロンターレのように、ポゼッションを大切にするチームだと、微妙な感じになります。代行監督の田坂和昭がどんな形を作るかは分かりません。おそらく(というか絶対)守備的なチームになるでしょう。それならばボランチです。組立力の弱さを隠蔽できます。しかし、エスパルスのチーム全体として、やはり技術ある選手が多いです。ボールを保持すればそれを大切にするでしょう。そうなるとボランチでは厳しくなる。サイドで使うのはもったいない。
だから結局は戦術次第です。ポリバレントな選手は、ポジションと戦術次第でとびっきりの輝きを見せます。しかし、ポリバレントという言葉に騙され、さまざまなポジションで起用されると、ダークオーラを発します。
ポリバレントな選手は1人でもいれば便利です。でもそれは短期決戦の話。長期的に見るならば適正ポジションを見つけるべきです。なので角田のポジション=現在のチーム戦術が分かると思います。だからがんばれ角田、田坂!!
今回はここまで。
次回は
「エースストライカーの条件」か「超一流ゲームメーカーとは」
または「中村俊輔@俯瞰視野」をやりたいと思います。
フォルラン@シュート ~ゴールこそ正義~
先週、ディエゴ・フォルランがセレッソ大阪を退団しました。
ウルグアイ代表でありながら極東まで来てくれたこと。Jリーグでプレーしてくれたこと。いろいろありました。
今回はそんなフォルランに敬意を表し、彼のゴールとなったシュート振り返ります。
サンプルに挙げるのは、J2第5節ジェフ千葉戦の1点目と、J2第14節V・ファーレン長崎戦のフリーキックです。
まず千葉戦の1点目
これです。思い出しましたか?
長谷川アーリアジャスールのフィードをダイレクトで叩き込むというワールドクラスのボレー。
では1つずつ見ていきましょう
この時点では前のスペースを確認している
スペースを確認したところで視線をボールに移す。
右足で軽く飛ぶ。これによって、両足にかかる重心をフラットにし、体全体にかかる重力を軽くする。この時点でシュートすることを決めていたといえる。
フラットにした足の重心を左足に掛ける
では別の画像から
横からフォルランを見てみよう
右足で飛ぶところですね。両足で飛ぶと書いてありますが、右足で飛ぶ直前を表してます。
ボールがバウンドする。ボールを見ながらシュート体制に持ち込む
シュート体制に入る
左足首を固定。下半身の軸をぶらさない。
その代わりに動かすのは上半身。腰をひねり、左手でバランスをとり上半身を開く
左足は完全に固定。最後まで軸はぶらさない。
開いた上半身は左手でバランスをとりながら、絶妙な開き具合を調整する。シュートコースはフォア。上半身は前傾姿勢。腰をひねり、体を開きすぎず左手で調整。シュートする右足を体全体でサポートしている。
シュートシーン。体重を一気に右足に掛ける。左から右へ。左で重心を溜め、打つときに右足へ。この体重移動のバランスがシュート精度に繋がっている。体全体で打っている。
このシュートの何がすごいって、実はこれ、ゴールを1回も確認していないこと。これまでの画像でゴールに視線を移したシーンは0。打つときも視線はボール。ルックアップしていない。感覚でやれている。世界最高峰のストライカーはゴールの位置を体に浸み込ませている。
では次。長崎戦のフリーキック
思い出しましたか?これです。
では見てみましょう。
先ほどのシュートと同じ。軽く飛ぶことで重心を軽くする
山口蛍の頭に隠れてよくわからないが、軸足となる左足はボールから距離を置いたところに置く。中村俊輔も以前なんかの番組で言っていたけど、軸足とボールの距離を空けると、体を回すだけの懐具合が良くなるとかなんとか。おそらくフォルランも一緒。腰を使って蹴りたいから軸足とボールの距離を空ける。
このシーン。
上半身はまっすぐにする。この上半身と左足の2つからなる軸を固定する。
この際に左手を使いバランスをとる
腰から左足全体にかけて体重を乗せる。
角度がついていることから、上半身とボールの距離感を保つ。この理由としては先ほどにも述べたように、腰を使って体全体を回して蹴りたいから。上半身とボールの距離が近いと、体を回せなくなる。また体重移動もままならない。この蹴り方では重心を掛けることで、腰にゆとりをもたらす。
右足は腰をひねりながら回す。ボールを擦るというより、腰を中心に足を回すという感覚でボールを蹴っている。だからスピードと落差のあるフリーキックが蹴れる。尚、軸足となった左足は、踏み込むときに寝かせた左足首浮かせ、右足に体重移動させている。
ゴールこそ正義
昨年までセレッソにいた南野拓実はフォルランからシュートの意識を持つようにと教わったらしい。ゴールするという意識は前線の選手である以上、必ず持っていなければならないということだ。
ディエゴ・フォルランというストライカーは、僕たちにサッカーの基本を改めて教えてくれた。FWの仕事はゴールだけではない。柳沢敦がそんなこと言ってたけど、確かにそうだ。でも、点を取らないFWに存在価値はない。FWはゴールこそが正義なんだ。
彼は日本から去った。
次に再会するのはいつだろう。
でも僕たちは、この偉大なストライカーがJリーグのピッチでプレーしたという記憶が消えることはないはずだ。
改めてお礼をしたい。
ありがとう。ディエゴ・フォルラン
Gracias. Diego Forlán
ジェイ@ポストプレー ~岩石封じ~
J2リーグ第17節ジュビロ磐田vsツエーゲン金沢から、ジェイ・ボスロイドのプレーを見てみる。
このポストプレーについて。
まず、ボールが空中にいる間に相手を確認。それからの一連のプレーを見てみよう。
競り合う直前、ではなく競り合う体制を作る前に相手を確認している。
あ~。上手い。
余裕をもってポストプレーをするために、競り合う前に相手の位置を確認する。相手を見るのはこれが最終確認。
次に、左手で相手をブロックする。レフティーであるジェイは左足でトラップしたい。だから、左足でトラップできるように体を外側に向け、左手を使い相手を封じる。このポストプレーは、あらかじめ左足で収めたいという志向があったこともあり、相手からの左足へのプレッシャーを回避するために行った動作ともいえる。
そして左足を完全防備したことで、完全に相手の前に体を入れ、相手の動作そのものを封じる。
最後に左足でトラップし、ここでも左足へのプレッシャーを回避するために左手を使ってブロックする。
岩石封じ
相手を寄せ付けずに、完全に相手をブロックし動作を封じる。
ジェイのポストプレーが上手いのは、これらの動作が機械的に動けているからだ。さすがアーセナル下部組織出身で元イングランド代表は違う。
オマケ
イングランドでも話題になったという、この試合でジェイが魅せたプレー
これはすごかった。
なんかアダイウトンも含めてウチに来てくれないかなぁ。無理か。無理なのか。そうなのか。