新時代のFW。進化する北川航也の"ファルソ・9”
FW。時代と共に最も求められる役割が変わるポジション。
例えば50年代や60年代のサッカーは、アルゼンチンやレアルマドリードの英雄、アルフレッド・ディ・ステファノや最強の座をほしいままにしていたハンガリー代表のナンドール・ヒデグチが中心の5トップや6トップがベーシックなシステムの時代。ジーコやミシェル・プラティニが登場した70年代からは2トップが基本形に。そして90年代にヨハン・クライフが率いたドリームチームのバルセロナは、2トップ全盛期に3トップを形成。ドリームチームのFWといえばロマーリオやフリオ・サリナスを思い浮かべる人が多いと思うが、革命を起こしたのはむしろゼロトップ的にミカエル・ラウドルップやホセ・マリア・バケーロを起用したことだった。そして現代。フランチェスコ・トッティ、リオネル・メッシから始まったゼロトップのリーズナブル化はセルヒオ・アグエロやロベルト・レバンドフスキといった中盤でもプレー可能な万能型FWを生み出した。
■ストライカーとしての9.5番
現日本代表のFWである大迫勇也。日本代表や鹿島アントラーズではFWとしてのプレーを求められていたが、現在所属するヴェルダー・ブレーメンやFCケルンではトップ下やサイドといったMFとしてのプレーを求められている。アジアカップで浮き彫りになった「大迫依存」は、MFとして最前線に配置し、類まれなキープ力を生かして2列目を活かし続けていたからであり、事実上の“ゼロトップ”であった。
日本代表の1トップに求められる能力は得点能力よりMFとしてプレーできるかどうか。本来ならば1トップを張れる実力者の武藤嘉紀や鈴木武蔵がフィットできなかった理由は、彼らは“ストライカー”であったからだ。MFとしてのスキルはない。
アジアカップで散々な目に合った犠牲者の1人、北川航也。ストライカーとして裏を狙い続け、スペースメイクし、ゴール前ではおとりとなり、プロ初のトップ下として起用され、そしてボールはやってこない。仕舞いには「存在感ない」「点取れない」と言われ続ける。ボールこなけりゃ仕事はできないっつーの。
アジアカップを経験し、2019年のシーズンをスタートさせた北川航也は、プレーエリアを下げた。時には鄭大世を最前線に残し、金子翔太や中村慶太を押し上げるべく中盤低くまでビルドアップに関わる。しかし“ストライカー”としての根っこは変わらない。どんなポジショニングでプレーを始めようと、最後はストライカーとして終える。苦い経験を経て進化の道をたどる北川航也の新プレースタイルを掘り下げていく。
■MFをFW化させるスペースメイク
北川航也のスペースメイクは、“角度”をつけるだけで成立する。エスパルスの2列目は、昨年2桁得点の金子に、より直線的にゴールへ向かう中村慶太がいる。彼らをMFからFWに変化させることでゴール前に入り込む人数を増やし、また松原后にエウシーニョといった攻撃的なSBをサイドで生かす側面もある。
第2節ガンバ大阪戦では
北川がレーンを外すことで敵を引きつけ、慶太とワンツー。前向きでボールを受けた慶太が、新たなスペースに走りこんだ金子にパスも惜しくも通らず。
北川が中央レーンから外すことで、相手を引きつけFWの位置にスペースを生み出す。北川のこの動きだけで、パサー(慶太)を前向きにプレーさせ、2列目となる“第3のFW”(金子)をゴール前に入れる。ポジショニングを少し変えるだけで周囲を活かすスペースメイクは9.5番と化する事でワンクッションを入れることができ、ゴール前まで略することができる。
■9.5番はストライカーとして死ぬ
結局、北川の本業はどこにポジショニングされていようと“FW”なのだ。最後はゴール前でフィニッシュする立場として自らを終える。
第7節での静岡ダービーでは、鄭大世が最前線に張ることで相手最終ラインを牽制。カウンターを発動する際に北川が中盤に降りることで中盤の数的優位を生み出す。
中央で数的優位を保てることで、北川が縦パスをフリック。一般的に“レイオフ”とも言われるプレーで2列目に前向きなプレーを行わせる。
2列目に入ることでサイドの選手が絞り、SBが空く。サイドを突くことで、MFとしてプレーをスタートした北川はFWとしてゴール前に入り込み、プレーを終える。
「FWとして死ぬ」とはこのこと。最初の話では、9.5番はあくまでFW登録のMFであった。しかし北川の場合はMFとしてプレーを始めFWとして役目を終える。アジアカップを終え、新たなシーズンをスタートさせた中で偽FWとしてのプレーを身に付けた。しかし大迫とは違い、最終的にストライカーとして役目を終える9.5番となった。今の日本人FWにいない万能型ストライカーとして生まれ変わった北川航也は、新時代のFWとして切り開いていく。