ヨンソンエスパルス、進化への道/PL第21節ウォルバ―ハンプトンvsクリスタルパレス
明けましておめでとうございます。2019年1発目の記事です。
毎年、新年1発目は過去の試合を振り返ってきましたが、今回は視点を変えてプレミアリーグを見ていきます。どのチームかというと、マンチェスターユナイテッドでもなくシティでもなくリバポでもありません。もちろんアーゼガムでもなければテルフィーでもありません。クリスタルパレスです。
パレスの試合なんて本気で観る人なんてマジのパレスファンぐらいしかいないと思いますし、そもそもパレスファン自体日本にいるのかどうかも分かりません。じゃあなんでパレスの試合を観ていこうかというと、理由はこの方です。
監督のロイ・ホジソンです。前イングランド代表監督といえば分かる方もいるのではないでしょうか。
■ロイ・ホジソンとヤン・ヨンソン
語尾2文字が同じという共通点がある2人ですが、2人のつながりについていうと、まずヨンソンさんが現役時代の頃、スウェーデンのハルムスタッズというチームに監督としてやってきたのがホジソンです。
ヨンソンさんの「影響を受けた監督」の中に挙げられているのがホジソンと広島で一緒に仕事をしたスチュワート・バクスターですが、4-4-2のシステムを好んでいるところはホジソンから影響を受けているのでしょう。(ノルウェーでの監督時代も4-4-2がシステムの軸だったみたいです)
いわば、ヨンソンさんからしたら“師匠”であるホジソンの戦術はいかに、ということをテーマに見ていきます。
■パレスのゾーンディフェンス
では21節を見ていきます。ちなみにウォルバーハンプトンについては知りません。知っているのはポルトガル代表のGKルイ・パトリシオとMFモウチーニョくらいです。
普段は4-5-1で2ラインを敷いているのですが、この日はウィルフリード・ザハを左に配置した4-3-3でした。この時期のプレミアは超過密日程なので多少メンバーを入れ替えています。
パレスで知名度ある選手といえば、ザハはかつてユナイテッドにいました。右のタウンゼントは「ベイル二世」とスパーズで騒がれてましたが、気づいた時はここで10番背負ってます。CBのサコはリバプールでレギュラーとしてやってましたが、ドーピング問題などがあり今ではここ。左SBのファン・アーンホルトは元チェルシーで、オランダのフィテッセ時代ではハーフナーマイクとチームメイトでした。
年末のパレスはシティやチェルシーとやりましたが、この時は4-5の2ラインで守っていました。そのせいか、攻撃は1トップのザハに頼る部分が多く不発に終わるシーンが多かったです。ところがこのゲームはそれまでとは打って変わり攻撃はめっちゃ流動的。守備も、
逆サイドのウイングが下がって4-4のブロックを作る。中盤は選手間の距離を狭め、最終ラインは相手ウイングに合わせて距離感を保つ。ブロックの仕組みに関してはエスパルスと似ているところがあります。ですが、僕が注目したのはパレスのゾーンプレスです。
昨年のエスパルスの得点傾向で、ショートカウンターによる得点率が高かったですが、その割に最終ラインはリトリートでした。これって矛盾してね?と思う方もいるでしょう。秘密は「どこでゾーンプレスを仕掛けるか」にあります。
パレスのファーストディフェンスは2トップのボール誘導から始まります。どこへ誘導するかというと
全員でワイドミッドフィルダーのエリアにボールを誘い込むイメージです。というのも、相手の中央のセンターバックがボールを持っているときは、左右どちらのサイドにも逃げる場所があるので、真ん中にボールがあるときはプレスがかからないんです。だから、まず第一線の選手が“相手に突破されないことだけを目的にした守備”を敢行しながら、サイドへと追い込むことが重要になる
サッカー 守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著者松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 104項より引用
2トップのうち、1人は確実にサイドへ誘導するためにリターン防止のためパスコースを切る。もう片方はボール保持者にプレスをかけてパスの精度を落とす。まず、これが初期段階。
次が、中盤のレーンでプレス。
パレスからしたら、中盤ブロックの目の前のエリアにプレス集中砲火をかけたい。パレスからしてやられたくない事として、最終ラインにバックパスされてもう1度組み立て直されること。せっかく人数揃えて、個々のゾーンも張っているのに組み立て直されたら、ゾーンディフェンスももう1度組み直しです。ゾーンディフェンスの弱さはここにありますね。なので追い込んだら奪いきりたい。そのために2トップにプレスバックを頑張ってもらう。
相手は、身近な逃げ場を失うことになるのでボールホルダーの孤立を防ぐためにボールに寄って来るわけですが、
ボールに寄れば寄るほどパレスからしたら「ヒッヒッヒ、見事蟻地獄に嵌ってくれたな」となり、ゾーンの中に閉じ込めてプレスする。これ、シティにはめっちゃ効いてました。これがゾーンプレスです。「ここで奪いたい!」というエリアに餌を撒いて追い込み、ボールが来たら“家”に閉じ込め襲い掛かる。逆サイが空くという形にはなりますが、ロングボールで1発の展開では跳ね返すことが可能なので怖くはない。ショートパスでのサイドチェンジも、閉じ込めてしまえば簡単には打開されない。されたら一巻の終わりなんですが、その時は相手を褒めましょうということで。
同一サイドに人数掛けてますが、しっかりプランに沿った守備なので、例えばジュビロのように「そこにボールがあるから」という安易な理由でプレスの意図もなく同一サイドにポジションを放棄してまで人数を掛けて守るのとはわけが違うのです。
「守備」と「攻撃」で形が変わりトランジションが遅れるので機能しなくなってしまう。攻守分業とはこのことです。
■エスパルスの攻撃力はフロックではない!
パレスの攻撃って、シティやチェルシーとやった時はまるで迫力のない単発なカウンターしかなく、シティ戦はその単発なカウンターが決まったのが1つ、誰にも止められないノーチャンスなゴラッソが1つ、PKが1つという内容なので、運が良かったところが多かったです。
パレスの攻撃の起点はアンカーでキャプテンの背番号4ルカ・ミリボイェビッチ。クロアチア代表です。パレスのカウンターは必ずこの選手から始まります。パレスのカウンターはミリボイェビッチからタウンゼント、ザハのウイングにボールが出て始まります。
パレスは、左SBのファン・アーンホルトは積極的にオーバーラップしますが、右はそうでもなく、セントラルハーフのマッカーシーが走りこむ展開が多い。ザハは本業ストライカーなのでゴール前に入りますが、タウンゼントはウイングなので内側に走るマッカーシーを上手く使いながら中にカットインしてくなり縦なりetc......。
この日のパレスはカウンターの攻め手は多かったですが、遅攻の精度は悪い。パスの出し手がミリボイェビッチしかいないというのが大きいです。
そんなこんなでパレスを見てきましたが、パレスを見ていてエスパルスが点を取れるのは当然なのかなと思えてきました。
エスパルスが点を取れた理由として
- 2トップのショートカウンターにおける抜群の破壊力
- パスの出し手として、河井、竹内と2枚いる
が挙げられます。
パレスも単発ではありながらタウンゼントにザハが仕掛けるわけです。ですが舞台はプレミア。単発では数的質的に後手を踏んでしまう。
ところ変わってJリーグ。誤解してほしくないのが、なにもJリーグのレベルが低いとかいうことを言いたいわけではなく、単純に整備されたショートカウンターを実行するのが北川&ドウグラスという鬼畜×鬼畜なので簡単には止められないどころか、トランジションの段階で決着してしまうという悪魔的破壊力。
そしてパサーが2枚いること。パレスの攻撃はミリボイェビッチからの精度の高いパスがなければ始まりません。当然どのチームもミリボイェビッチからのパスには警戒心MAXで、ミリボイェビッチはそれをかわせるだけでのスキルの持ち主なので凄いのですが、でも精度の高いパスは限られています。1枚だけはきつい。エスパルスは2枚いるので組織として相手のプレスをかわしやすい状況にあります。
ということで、現状のエスパルス攻撃陣は前線に関して国内屈指の破壊力ある2トップがいること。実際数字に出ているわけなので、簡単に止められることはないです。エスパルスのゾーンプレスもパレスと同様、中盤の前に広がるエリアです。理想はここで奪いきって高速カウンターを繰り出す。昨年からずっとやって来たことですが、今年はどう進化していくのか。ヒントはパレスの弱点です。
■ゾーンプレスの泣き所
パレスのゾーンディフェンスにおける弱点は2つあります。
1つ目は逆サイド。