攻撃サッカーを創ったエスパルスの「ポジショナルプレー」という答え
今回はシーズンの総括です。
驚愕の事実
たぶん、ほとんどの人が知らない事実があるんですけど、なんと今シーズンのエスパルスは、リーグ2番目となる56得点を記録したんですッ!! 1位が優勝した川崎フロンターレの57得点なので、1得点差なわけです。昨シーズンが36得点なので20点も多く取れました。なのに、あんまり取り扱ってくれないというか、今シーズンの国内屈指の破壊力を誇っていたという事実をご存知ではない!!ようなので、今回は僕が、エスパルスの攻撃が飛躍的進歩を遂げたのかを検証していきたいと思います。
■ポジショナルプレー≠ポゼッションサッカー
今シーズンからヤン・ヨンソン監督になり、大きな変化が表れたのはポジションの規制です。いろんな選手から「ポジショニングについての細かい指示が多い」との発言が多いことから、昨年もサンフレッチェ広島で就任後オフェンシブな戦いにシフトしつつ劇的残留に導き、華麗にチームを去る破目になるわけですが、そこでもポジションが整理されており、ゾーンディフェンスからのスムーズなカウンター移行という、無駄のない効率的な戦術を仕込み、それをそのままエスパルスに落とし込んだわけです。
ヨンソン監督というのは、ポジショニングによって優位性を作るサッカーをしています。特にエスパルスの場合は、個の質に関してはJ1では見劣りするところがあるのは昨シーズンを振り返れば明確な事実でした。なので勝利を得るためには別のところで優位性を作りたい。そこで位置的優位性を生み出すことが必要となりました。
今シーズンによく耳にする機会が多くありました「ポジショナルプレー」。夏にもそれにまつわる記事を1本書きましたので、詳しくはそちらを参考に
Jリーグのポジショナルプレーといえば、ポステコグルー率いるマリノスやブンデス大好きイケメン率いるベガルタ仙台。話題になりすぎたスペイン人監督率いた東京ヴェルディや徳島ヴォルティスです。こういったポジショナルプレーを志向しているチームはポゼッション率が高くなっているのが特徴として表れており、世間ではポゼッションサッカーとイコールだという見方が蔓延してしまいました。これ全然違います。あくまでポジショナルプレーとは攻守両面で相手より優位に立とうという考え方であって、ポゼッションとは無関係です。
ポジショナルプレーとは1つの思想であり、スタイルであり、フットボールというゲームのボールとスペースを通した全体論理的な理解方法である。各カテゴリーを指導する多くのコーチが、ポジショナルプレーの目的をボール保持だと考えている。彼らはポゼッション率の高さという表層的な現象に着目しているが、ボール保持は実際のところ単なる手段でしかない。本来の目的はスペースの占有であり、選手たちがチームの「組織的な位置取り」と「集団的な相乗効果」の中で創造性を発揮し、個々が持っている質的な強みを活かせる状況を与えることだ。
月刊フットボリスタ 発行ソルメディア 29項より引用
■エスパルスとポジショナルプレーの歴史
優位性を作って相手を崩すというのは、人がスペースを作り、人がそのスペースに入り、そのスペースに人がボールを入れていくという作業が必要です。今シーズンはこの崩し方が多く見られました。後ほどやりますが、実はこういった崩しはヨンソン以前、つまり小林前体制の時もできていました。覚えているでしょうか、スポナビでも記事にしました2016年の第40節カマタマーレ讃岐戦のテセの2点目のシーンです。選手の質的な優位性に位置的優位もあったことからこれ以上ない最高の崩しだったと思います。また昨年も第19節マリノス戦のテセのゴールもきれいに崩せたゴールです。と、2年前からポジショナルプレーといわれるサッカーはできていたんですね。ではそれが今年、どうグレードアップしたのかを見ていきましょう。
位置的優位による崩し
位置的優位によって見事な崩しを見せたのが第13節サガン鳥栖戦の42分のシーン
ソッコがボールを持ち運んでこの位置。目線の先には金子とテセ。
ソッコがテセへパス。この際に金子が外に向けて走りパスコース作りと相手の目線を引きつけ、テセはバックステップを踏むことで目の前のDFと距離を作る
正面から見ると分かりやすいですね。金子がパスコースを作り、バックステップを踏んで距離を取るテセ。テセの体の向きも注目ポイント。ゴールに向いていますね。
ボールを受けてトラップしてからのスムーズなシュート。決まっていれば最高の崩しでしたが惜しくも決まらず。
ダイアゴナルにボールを動かすというのも、ポジショナルプレーにおける重要なコンセプトの1つです。敵プレッシャーラインを超えるパスでも、それが同じレーン上の縦パスだと 受け手はゴールを背負って受けることになるため、ターンして前を向けるスペースと時間がない限り、キープするか後ろに戻すかという選択肢しか残らない。しかし斜め方向のパスならば、体を開き前方への視野を確保した状態で受けて、最初のトラップで前を向くことが可能です。また斜め方向にボールを動かせば、敵もそれに合わせて横に移動しなければならなくなるため、陣形にギャップが生まれやすい。次のパスコースを作り出すという観点からも有効なのです。
モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 75項より引用
アンダーラインを引いたところは正にテセの動き方そのものです。ヨンソンさんになり体の向きについての指導などもあることから、ポジショナルプレーというのはスムーズに物事が進むよう、パスからトラップ、ボールを離すまでの1連のプレーを整備するのです。
サイド攻略の方法
続いてはサイド攻撃です。第18節マリノス戦の金子のゴールシーンです。
松原のスローインからです。今、スローインってめっちゃ重要視されていて、なんでかというとセットプレーの中で1番やる回数が多いから。リバプールがスローイン専門コーチを付けたぐらいです。
話を戻して、この場面でエスパルスは松原、北川、石毛の3人が絡んでいますが、マリノスは2人しか対応にきていないです。完全にマリノスのミスです。
北川のマークが松原に行ったことで北川がフリーになりました。そして石毛に付いていたマークは北川に行くかどうか迷っている。
石毛ががら空きのハーフスペースに入りこむ。体の向きは常にボールを視野に入れられるよう外に。
こんな感じです。北川&石毛がドフリーなので
フリーな北川からパスを受けたフリーな石毛はあらゆる選択肢があります。石毛の前に広がるスペースに走りこむ松原にパス、また緑丸に入る北川にリターン。
はい、楽に崩せました。これはマリノスの守備陣形のミスが7割近くを占めているんですが、エスパルスの3人の総移動距離というのはそうでもない。的確なポジショニング、的確な体の向き、的確なスタートと一切の無駄なくシステマチックに崩すことができました。こういった崩しは今シーズン毎試合何回か見られたんですが、最初にも言った通り、2年前からできていたんですよ。ここからはなぜ今シーズンはこういった崩しが多く見られたのかの大本を探っていこうと思います。
エスパルス、ポジショナルプレーの基本構造
エスパルスの基本システムは4-4-2からなるゾーンディフェンスでスタートします。「まずは守備から」が今シーズンのテーマですので、最終ラインから前線まではコンパクトに、4枚と4枚の2ラインでブロックを組みます。
さぁ、ここでボールを奪ってからのポジティブトランジションは、スピードのある2トップをがスペースを突いて先陣を切ってガンガン攻めてもらい、中盤がサポートします。
攻撃の基本フェーズとして、ビルドアップの起点となるCBとボランチからのパス配給先として、金子と白崎が中央に入り4-2-2-2の形へ。
ポジティブトランジションではこの形です。完全に攻撃に舵が切り替わると、空いているスペースとしてサイド高い位置を攻略したい。サイドのオープンスペースには
左は松原が高い位置を取り、左右不均等な形に。相手いる右のオープンスペースには立田が遅れてオーバーラップ、または金子やFWが流れてくるというのが基本形です。中央に人数が揃っているので、ここでコンビネーションプレーで崩していく。サイドは逃げ道として活用と、ポゼッションを高めて攻めていくときは割と中央からの崩しが多かったというのが今年のエスパルス。ただその精度が低く相手のブロック網に引っかかるというシーンが多かったのがその印象を薄らぐ要因ではありました。また、スピードある強力2トップによってポジティブトランジションで勝負を決めてしまうという離れ業が多かったのも印象的。象徴的なシーンがドウグラス加入後初ゴールとなったシーン。
【公式】ゴール動画:ドウグラス(清水)65分 ガンバ大阪vs清水エスパルス 明治安田生命J1リーグ 第17節 2018/7/22
ポジティブトランジションの段階で勝負を決してしまうのは、ショートカウンターの精度の高さというのを表しています。ですが、今回はポジショナルプレーの分析ということで、このままいったら「ドウグラスすげぇ」で終わってしまいそうなので、中央崩しについてみていきます。
ボックス型中盤と中央崩し
第23節浦和レッズ戦です。
絵に描いたような4-2-2-2です。舵を攻撃にきっている状態ですね。
河井が斜めのパスを送ります。綺麗に崩せたシーンていうのは斜めのパスが多いですね。このパスが落ちてきた北川に入りました。
横からのアングルです。北川が落ちてきたところはキレイにスペースが広がっています。中盤がボックス型になったことでレッズの中盤とは数的同数になり、そこに北川が落ちてきたのでエスパルスからしたら数的優位になります。
北川に入るところで槙野が「シメシメ」とやって来るわけですが、この隙を狙い、ポジションチェンジするかのように金子が裏に抜ける。
この形はたぶん練習していたと思います。ものすごくスムーズでした。そして綺麗に中央から崩せた。理想的なポジショナルプレーでした。
結局「ドウグラス、半端ないって」
エスパルスの攻撃は、ゾーンディフェンスから始まります。そしてポジティブトランジションでどれだけ相手より先手を打って攻められるかが、その後の攻撃が上手くいくかを表します。要するにショートカウンターが命です。ここで恐怖心を与えられなければその後の攻撃も上手くいきません。なのでこんなオチにしたらつまらないですし、支度はなかったんですけどやっぱり「ドウグラス半端ないって」ということで。
来年のことを言うと、攻撃時は左右非対称でしたが、右SBが立田と正反対なタイプの飯田が起用されていた時はリスクお構いなくガンガン上げていたので、理想はオープンスペースにはSBが入る形なんでしょうと。エウシーニョが獲得候補として挙がっていますが、ヨンソンさんの理想SB像は高さと攻撃性能だと思うので理に適っていると思います。来年は来年でグレードアップすると思うのでそこは来シーズンのお楽しみということで。今回はここまで。さようなら!!