豚に真珠

サンバのリズムに乗せられて、いつの間にかそのオレンジ色に魅了される。それが清水エスパルスというチームなんだ

育成への投資は未来への投資

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次に育成の方なのですが、昨年成果が上がり始めています。私が就任したのが2015年なんですけど、一番大きな方針として挙げたのは、プロの選手として通用する選手を個で育ててくれというメッセージをずっと出し続けております。グループに勝る個はないということは確かなんですけども、その個の質を育成年代で上げていって、トップに上がった時に「これは教育の必要があるな」と小林監督に言わせるような必要がないフィジカル、それからプレーイングスキル、メンタルを持った選手を個で見てあげてくれと。先般、ジュニユースが3冠を獲りましたけども、彼らの年代というのがこの方針に基づいて岩下コーチが一所懸命育ててくれておりますので、その方針を明文化してトップと同じように上げればと。またこの育成の強化は、生え抜きのプロをトップに上げるということにつながります。地域貢献の自助でもあるというふうに思っておりますので、大事にしていきたいと思います。
これはトッププロの早期育成をはかっていく上では避けて通れないのですけども、トップとの交わりをユース年代ではもっと増やしていく。練習やサテライトゲーム、それからコーチングスタッフの交流。こういったところの運営についてはトップとユースをもっと近づけていくということを意識しました。ただ、従来通り、登録ですとか、プレミアリーグの運営等、それから選手の評価は育成がやるんですけど、トップとの距離感を近づけるということを今年は小林監督も含めて意識していきたいと思います。
次に育成にかかるスタッフが絶対的に足りませんでした。これまでは投資をしたくてもJ2に降格して、トップに回すお金で精一杯なところで我慢してもらっていたところを、今回は少し厚めに予算を充てています。それから3番目は選手そのものの自力の向上と言いますか、食育教育ですとか、海外遠征での経験を積ませる。静岡を離れた高いレベルでベンチマークを置いて、個の成長を促進するということを意識した予算像を考えております。
最後に指導者のバラツキが、組織が大きくなってくると必ず出ますので、そのバラツキが出ないようなリンケージを取る仕組みを育成の中で、これはトップも含めてなんですけども、考えていくということを指針として挙げております。

【2017シーズン新体制発表記者会見】記者会見レポート�@|清水エスパルス - 公式WEBサイト

 

力入れていますね。

2015年に左伴社長になってから常々言っておられます、下部組織への投資。クラブの経営基盤がしっかりし、収入の増収などあり、クラブの資金をトップチームだけではなく、下部組織にも回すことができるようになりました。

 

地方クラブにとって下部組織は宝以上

エスパルスというクラブは、ガンバやレッズみたいに大企業がバックに付く大都市クラブ(浦和は大都市なのか......?)ではありません。なので、移籍市場においてマネーゲームになってしまえば勝ち筋は見えにくい。それに、静岡は地方です。はっきり言えば田舎です。東京や名古屋には安く日帰りで行ける距離ではありますが、田舎です。となりますと、DAZNマネーが入る今後は、即戦力ルーキーを獲得することも難しくなります。大卒は分かりませんが、高卒で声が掛かる、いわゆる『大物』選手は、きらびやかな都会チームに行ってしまいます。若い人にとって都会は魅力的です。それに、ガンバやセレッソFC東京セカンドチームを持っています。若いながら公式戦に出場できる環境はあります。これでは難しいです。

地方クラブにとって若い選手を獲れる方法は、出場機会のない若手のレンタル移籍か、ユース選手の昇格しかなくなってきます。

 

クラブフィロソフィー=下部組織

ヨーロッパの歴史あるビッグクラブのレジェンドと言われる選手って、どんな選手でしょうか。

例えばバルセロナ。メッシやイニエスタを筆頭に、シャビやプジョルに古くはペップ。いつの時代もチームの軸はカンテラ出身者です。

では、近年大型補強を続けているレアルマドリードはどうでしょう。レアルのレジェンドはラウールにカシ―ジャス、イエロ、古くはブトラゲーニョもそうです。今だって、アレ..?いや、今もモラタとか、モラタとか、へセとか、マタとか...みんな出ている。まぁ、優秀な卒業生は多いです。他だってマンチェスターユナイテッドも、素晴らしいアカデミーを持っていますし、アヤックスの下部組織は世界中のモデルケースとなっています。というように、長い年月強豪チームとして成り立っているクラブの根幹は下部組織の充実があってこそです。

 

下部組織というのは、第1にプロ選手への育成が目的です。アカデミー出身者のアドバンテージは、高校サッカーや大学サッカー出身者より、チームの内情を理解できているということです。戦略的、戦術的にクラブの方針を理解できているということです。

 

Jリーグの育成組織の現実

現在、J1には18チームありますが、この中でユース出身者が10人以上いるクラブは何チームあるでしょうか。

 

開幕時点でトップに登録されている中では、柏レイソル横浜F・マリノスガンバ大阪セレッソ大阪ヴィッセル神戸の5チームだけです。ここ最近ユースからの昇格選手が多いコンサドーレ札幌は、他チームへの流出が続いており、現在は9名です。J2ですと、湘南ベルマーレ東京ヴェルディは有名ですが、あとは京都サンガくらいかな。昨年J2のチームと対戦しましたが、ほとんどのチームが戦力外になったベテラン選手や出場機会がない若手選手をレンタルしているのが現状です。J1ですら少数なのにJ2でユース勢は余程力を入れてない限り難しいです。

 

高校サッカーとのジレンマ

地方の、特にJ2のクラブですと、ジュニアユース年代ではいても、高校年代では選手の獲得も難しくなります。

高校サッカーに進む選手には「選手権」への憧れというのはあるでしょう。本気でプロサッカー選手になるのであるならば高校のサッカー部に行くよりユースに進んだ方がいいです。ですが、選手権やインハイの常連チームへ行けば、J1クラブのスカウトも来れば名門大学からの誘いもあるでしょう。ユースへ昇格すればそのままトップチームへの昇格1本道ですが、高校サッカーへ行けば選択肢が広がります。

そのジレンマによって苦境に立っているのがザスパクサツ群馬でしょう。現在プロ契約している選手の中でユース出身者は1人だけです。群馬は、一昨年の江坂、去年の瀬川と掘り出し物と言える即戦力大卒ルーキーを獲得しており、大学サッカー界から一目置かれています。今年日本体育大から加入した高井和馬は、昨年の関東大学リーグ1部の得点王で、J1でも即戦力クラスの“大物”です。大学サッカー界におけるザスパクサツ群馬は、信用におけるクラブになりつつあります。

そんな群馬ですが、ユース出身者が1人である現状、高卒選手の獲得は難しくなっています。なぜか。それは、群馬県の高校サッカーには、前橋育英という超名門高があるからです。J1のスカウトはもちろん、名門大学への太いパイプもある前橋育英に行った方が、言い方は悪いですが、可能性が広がり、より高いレベルに挑戦できる道もあります。ザスパクサツ群馬というブランドが、前橋育英のブランドに押されているのが現実です。

この話は群馬だけではありません。J1のチームだって例外ではない。一見有望株はJクラブのユースに進みがちと思いきや、実際は地方によっては全く逆の方向へ進んでいるところもあるのです。

 

クラブの下部組織に対する在り方

育成の重要性が広まっている今、これから常勝軍団になるためには、下部組織改革は必須です。むしろ今後はユース出身者がチームの中心でなければいけないのです。それは、最初でも述べた通り、ユースはクラブフィロソフィーそのものだから。大型補強でやって来た選手が戦術の柱になってしまえば、その哲学は揺らぐことになります。本来ならば、それはあってはならないことです。

 

我がエスパルスも、昨年から組織を変え、トレーニングメソッドの変更など、変化があるみたいです。実際に昨年のユースチームはクラブユース選手権では準優勝。さらにジュニアユースでは3冠を達成しました。改革から1年ですが、着実に進歩しています。いや、1年で成果が出ているということは、想定以上のスピードで成長しているのでしょう。そこで今年、下部組織へより多くお金を回すことができるのはかなり大きいことです。

先日のルヴァンカップではユースの選手が3人メンバー入りしました。2種登録された選手はまだまだいます。さらに下の黄金世代も控えているので、順調に行くことができれば、『闘える選手』を育成しているのだから、良い時代に突入できるのではないかと思います。ただ、長い目で見守りましょう。