ヨンソンエスパルス、進化への道/PL第21節ウォルバ―ハンプトンvsクリスタルパレス
明けましておめでとうございます。2019年1発目の記事です。
毎年、新年1発目は過去の試合を振り返ってきましたが、今回は視点を変えてプレミアリーグを見ていきます。どのチームかというと、マンチェスターユナイテッドでもなくシティでもなくリバポでもありません。もちろんアーゼガムでもなければテルフィーでもありません。クリスタルパレスです。
パレスの試合なんて本気で観る人なんてマジのパレスファンぐらいしかいないと思いますし、そもそもパレスファン自体日本にいるのかどうかも分かりません。じゃあなんでパレスの試合を観ていこうかというと、理由はこの方です。
監督のロイ・ホジソンです。前イングランド代表監督といえば分かる方もいるのではないでしょうか。
■ロイ・ホジソンとヤン・ヨンソン
語尾2文字が同じという共通点がある2人ですが、2人のつながりについていうと、まずヨンソンさんが現役時代の頃、スウェーデンのハルムスタッズというチームに監督としてやってきたのがホジソンです。
ヨンソンさんの「影響を受けた監督」の中に挙げられているのがホジソンと広島で一緒に仕事をしたスチュワート・バクスターですが、4-4-2のシステムを好んでいるところはホジソンから影響を受けているのでしょう。(ノルウェーでの監督時代も4-4-2がシステムの軸だったみたいです)
いわば、ヨンソンさんからしたら“師匠”であるホジソンの戦術はいかに、ということをテーマに見ていきます。
■パレスのゾーンディフェンス
では21節を見ていきます。ちなみにウォルバーハンプトンについては知りません。知っているのはポルトガル代表のGKルイ・パトリシオとMFモウチーニョくらいです。
普段は4-5-1で2ラインを敷いているのですが、この日はウィルフリード・ザハを左に配置した4-3-3でした。この時期のプレミアは超過密日程なので多少メンバーを入れ替えています。
パレスで知名度ある選手といえば、ザハはかつてユナイテッドにいました。右のタウンゼントは「ベイル二世」とスパーズで騒がれてましたが、気づいた時はここで10番背負ってます。CBのサコはリバプールでレギュラーとしてやってましたが、ドーピング問題などがあり今ではここ。左SBのファン・アーンホルトは元チェルシーで、オランダのフィテッセ時代ではハーフナーマイクとチームメイトでした。
年末のパレスはシティやチェルシーとやりましたが、この時は4-5の2ラインで守っていました。そのせいか、攻撃は1トップのザハに頼る部分が多く不発に終わるシーンが多かったです。ところがこのゲームはそれまでとは打って変わり攻撃はめっちゃ流動的。守備も、
逆サイドのウイングが下がって4-4のブロックを作る。中盤は選手間の距離を狭め、最終ラインは相手ウイングに合わせて距離感を保つ。ブロックの仕組みに関してはエスパルスと似ているところがあります。ですが、僕が注目したのはパレスのゾーンプレスです。
昨年のエスパルスの得点傾向で、ショートカウンターによる得点率が高かったですが、その割に最終ラインはリトリートでした。これって矛盾してね?と思う方もいるでしょう。秘密は「どこでゾーンプレスを仕掛けるか」にあります。
パレスのファーストディフェンスは2トップのボール誘導から始まります。どこへ誘導するかというと
全員でワイドミッドフィルダーのエリアにボールを誘い込むイメージです。というのも、相手の中央のセンターバックがボールを持っているときは、左右どちらのサイドにも逃げる場所があるので、真ん中にボールがあるときはプレスがかからないんです。だから、まず第一線の選手が“相手に突破されないことだけを目的にした守備”を敢行しながら、サイドへと追い込むことが重要になる
サッカー 守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著者松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 104項より引用
2トップのうち、1人は確実にサイドへ誘導するためにリターン防止のためパスコースを切る。もう片方はボール保持者にプレスをかけてパスの精度を落とす。まず、これが初期段階。
次が、中盤のレーンでプレス。
パレスからしたら、中盤ブロックの目の前のエリアにプレス集中砲火をかけたい。パレスからしてやられたくない事として、最終ラインにバックパスされてもう1度組み立て直されること。せっかく人数揃えて、個々のゾーンも張っているのに組み立て直されたら、ゾーンディフェンスももう1度組み直しです。ゾーンディフェンスの弱さはここにありますね。なので追い込んだら奪いきりたい。そのために2トップにプレスバックを頑張ってもらう。
相手は、身近な逃げ場を失うことになるのでボールホルダーの孤立を防ぐためにボールに寄って来るわけですが、
ボールに寄れば寄るほどパレスからしたら「ヒッヒッヒ、見事蟻地獄に嵌ってくれたな」となり、ゾーンの中に閉じ込めてプレスする。これ、シティにはめっちゃ効いてました。これがゾーンプレスです。「ここで奪いたい!」というエリアに餌を撒いて追い込み、ボールが来たら“家”に閉じ込め襲い掛かる。逆サイが空くという形にはなりますが、ロングボールで1発の展開では跳ね返すことが可能なので怖くはない。ショートパスでのサイドチェンジも、閉じ込めてしまえば簡単には打開されない。されたら一巻の終わりなんですが、その時は相手を褒めましょうということで。
同一サイドに人数掛けてますが、しっかりプランに沿った守備なので、例えばジュビロのように「そこにボールがあるから」という安易な理由でプレスの意図もなく同一サイドにポジションを放棄してまで人数を掛けて守るのとはわけが違うのです。
「守備」と「攻撃」で形が変わりトランジションが遅れるので機能しなくなってしまう。攻守分業とはこのことです。
■エスパルスの攻撃力はフロックではない!
パレスの攻撃って、シティやチェルシーとやった時はまるで迫力のない単発なカウンターしかなく、シティ戦はその単発なカウンターが決まったのが1つ、誰にも止められないノーチャンスなゴラッソが1つ、PKが1つという内容なので、運が良かったところが多かったです。
パレスの攻撃の起点はアンカーでキャプテンの背番号4ルカ・ミリボイェビッチ。クロアチア代表です。パレスのカウンターは必ずこの選手から始まります。パレスのカウンターはミリボイェビッチからタウンゼント、ザハのウイングにボールが出て始まります。
パレスは、左SBのファン・アーンホルトは積極的にオーバーラップしますが、右はそうでもなく、セントラルハーフのマッカーシーが走りこむ展開が多い。ザハは本業ストライカーなのでゴール前に入りますが、タウンゼントはウイングなので内側に走るマッカーシーを上手く使いながら中にカットインしてくなり縦なりetc......。
この日のパレスはカウンターの攻め手は多かったですが、遅攻の精度は悪い。パスの出し手がミリボイェビッチしかいないというのが大きいです。
そんなこんなでパレスを見てきましたが、パレスを見ていてエスパルスが点を取れるのは当然なのかなと思えてきました。
エスパルスが点を取れた理由として
- 2トップのショートカウンターにおける抜群の破壊力
- パスの出し手として、河井、竹内と2枚いる
が挙げられます。
パレスも単発ではありながらタウンゼントにザハが仕掛けるわけです。ですが舞台はプレミア。単発では数的質的に後手を踏んでしまう。
ところ変わってJリーグ。誤解してほしくないのが、なにもJリーグのレベルが低いとかいうことを言いたいわけではなく、単純に整備されたショートカウンターを実行するのが北川&ドウグラスという鬼畜×鬼畜なので簡単には止められないどころか、トランジションの段階で決着してしまうという悪魔的破壊力。
そしてパサーが2枚いること。パレスの攻撃はミリボイェビッチからの精度の高いパスがなければ始まりません。当然どのチームもミリボイェビッチからのパスには警戒心MAXで、ミリボイェビッチはそれをかわせるだけでのスキルの持ち主なので凄いのですが、でも精度の高いパスは限られています。1枚だけはきつい。エスパルスは2枚いるので組織として相手のプレスをかわしやすい状況にあります。
ということで、現状のエスパルス攻撃陣は前線に関して国内屈指の破壊力ある2トップがいること。実際数字に出ているわけなので、簡単に止められることはないです。エスパルスのゾーンプレスもパレスと同様、中盤の前に広がるエリアです。理想はここで奪いきって高速カウンターを繰り出す。昨年からずっとやって来たことですが、今年はどう進化していくのか。ヒントはパレスの弱点です。
■ゾーンプレスの泣き所
パレスのゾーンディフェンスにおける弱点は2つあります。
1つ目は逆サイド。
清水エスパルス × ジュビロ磐田 × 2018 ~Battle of Derby~
MEIJIYASUDASEIMEI J1.LEAGUE
April.7 Saturday Shizuoka Stadium ECOPA
6week
Shimizu 0-0 Iwata
October.7 Sunday IAI Stadium NIHONDAIRA
29week
Shimizu 5-1 Iwata
K.Kitagawa (1,SHI)
Douglas (38,SHI)
T.Taguchi (51,IWA)
Douglas (61,SHI)
K.Kitagawa (72,SHI)
K.Murata (90+4,SHI)
YBC Levain CUP
March.7 Wednesday IAI Stadium NIHONDAIRA
Group B 1week
Shimizu 1-0 Iwata
T.Chong (48,SHI)
May.9 Wednesday YAMAHA Stadium
Group B 5week
Shimizu 1-2 Iwata
S.Nakano (58,IWA)
Y.Hasegawa (65,SHI)
S.Nakano (68,IWA)
2018年静岡ダービー関連記事
攻撃サッカーを創ったエスパルスの「ポジショナルプレー」という答え
今回はシーズンの総括です。
驚愕の事実
たぶん、ほとんどの人が知らない事実があるんですけど、なんと今シーズンのエスパルスは、リーグ2番目となる56得点を記録したんですッ!! 1位が優勝した川崎フロンターレの57得点なので、1得点差なわけです。昨シーズンが36得点なので20点も多く取れました。なのに、あんまり取り扱ってくれないというか、今シーズンの国内屈指の破壊力を誇っていたという事実をご存知ではない!!ようなので、今回は僕が、エスパルスの攻撃が飛躍的進歩を遂げたのかを検証していきたいと思います。
■ポジショナルプレー≠ポゼッションサッカー
今シーズンからヤン・ヨンソン監督になり、大きな変化が表れたのはポジションの規制です。いろんな選手から「ポジショニングについての細かい指示が多い」との発言が多いことから、昨年もサンフレッチェ広島で就任後オフェンシブな戦いにシフトしつつ劇的残留に導き、華麗にチームを去る破目になるわけですが、そこでもポジションが整理されており、ゾーンディフェンスからのスムーズなカウンター移行という、無駄のない効率的な戦術を仕込み、それをそのままエスパルスに落とし込んだわけです。
ヨンソン監督というのは、ポジショニングによって優位性を作るサッカーをしています。特にエスパルスの場合は、個の質に関してはJ1では見劣りするところがあるのは昨シーズンを振り返れば明確な事実でした。なので勝利を得るためには別のところで優位性を作りたい。そこで位置的優位性を生み出すことが必要となりました。
今シーズンによく耳にする機会が多くありました「ポジショナルプレー」。夏にもそれにまつわる記事を1本書きましたので、詳しくはそちらを参考に
Jリーグのポジショナルプレーといえば、ポステコグルー率いるマリノスやブンデス大好きイケメン率いるベガルタ仙台。話題になりすぎたスペイン人監督率いた東京ヴェルディや徳島ヴォルティスです。こういったポジショナルプレーを志向しているチームはポゼッション率が高くなっているのが特徴として表れており、世間ではポゼッションサッカーとイコールだという見方が蔓延してしまいました。これ全然違います。あくまでポジショナルプレーとは攻守両面で相手より優位に立とうという考え方であって、ポゼッションとは無関係です。
ポジショナルプレーとは1つの思想であり、スタイルであり、フットボールというゲームのボールとスペースを通した全体論理的な理解方法である。各カテゴリーを指導する多くのコーチが、ポジショナルプレーの目的をボール保持だと考えている。彼らはポゼッション率の高さという表層的な現象に着目しているが、ボール保持は実際のところ単なる手段でしかない。本来の目的はスペースの占有であり、選手たちがチームの「組織的な位置取り」と「集団的な相乗効果」の中で創造性を発揮し、個々が持っている質的な強みを活かせる状況を与えることだ。
月刊フットボリスタ 発行ソルメディア 29項より引用
■エスパルスとポジショナルプレーの歴史
優位性を作って相手を崩すというのは、人がスペースを作り、人がそのスペースに入り、そのスペースに人がボールを入れていくという作業が必要です。今シーズンはこの崩し方が多く見られました。後ほどやりますが、実はこういった崩しはヨンソン以前、つまり小林前体制の時もできていました。覚えているでしょうか、スポナビでも記事にしました2016年の第40節カマタマーレ讃岐戦のテセの2点目のシーンです。選手の質的な優位性に位置的優位もあったことからこれ以上ない最高の崩しだったと思います。また昨年も第19節マリノス戦のテセのゴールもきれいに崩せたゴールです。と、2年前からポジショナルプレーといわれるサッカーはできていたんですね。ではそれが今年、どうグレードアップしたのかを見ていきましょう。
位置的優位による崩し
位置的優位によって見事な崩しを見せたのが第13節サガン鳥栖戦の42分のシーン
ソッコがボールを持ち運んでこの位置。目線の先には金子とテセ。
ソッコがテセへパス。この際に金子が外に向けて走りパスコース作りと相手の目線を引きつけ、テセはバックステップを踏むことで目の前のDFと距離を作る
正面から見ると分かりやすいですね。金子がパスコースを作り、バックステップを踏んで距離を取るテセ。テセの体の向きも注目ポイント。ゴールに向いていますね。
ボールを受けてトラップしてからのスムーズなシュート。決まっていれば最高の崩しでしたが惜しくも決まらず。
ダイアゴナルにボールを動かすというのも、ポジショナルプレーにおける重要なコンセプトの1つです。敵プレッシャーラインを超えるパスでも、それが同じレーン上の縦パスだと 受け手はゴールを背負って受けることになるため、ターンして前を向けるスペースと時間がない限り、キープするか後ろに戻すかという選択肢しか残らない。しかし斜め方向のパスならば、体を開き前方への視野を確保した状態で受けて、最初のトラップで前を向くことが可能です。また斜め方向にボールを動かせば、敵もそれに合わせて横に移動しなければならなくなるため、陣形にギャップが生まれやすい。次のパスコースを作り出すという観点からも有効なのです。
モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 75項より引用
アンダーラインを引いたところは正にテセの動き方そのものです。ヨンソンさんになり体の向きについての指導などもあることから、ポジショナルプレーというのはスムーズに物事が進むよう、パスからトラップ、ボールを離すまでの1連のプレーを整備するのです。
サイド攻略の方法
続いてはサイド攻撃です。第18節マリノス戦の金子のゴールシーンです。
松原のスローインからです。今、スローインってめっちゃ重要視されていて、なんでかというとセットプレーの中で1番やる回数が多いから。リバプールがスローイン専門コーチを付けたぐらいです。
話を戻して、この場面でエスパルスは松原、北川、石毛の3人が絡んでいますが、マリノスは2人しか対応にきていないです。完全にマリノスのミスです。
北川のマークが松原に行ったことで北川がフリーになりました。そして石毛に付いていたマークは北川に行くかどうか迷っている。
石毛ががら空きのハーフスペースに入りこむ。体の向きは常にボールを視野に入れられるよう外に。
こんな感じです。北川&石毛がドフリーなので
フリーな北川からパスを受けたフリーな石毛はあらゆる選択肢があります。石毛の前に広がるスペースに走りこむ松原にパス、また緑丸に入る北川にリターン。
はい、楽に崩せました。これはマリノスの守備陣形のミスが7割近くを占めているんですが、エスパルスの3人の総移動距離というのはそうでもない。的確なポジショニング、的確な体の向き、的確なスタートと一切の無駄なくシステマチックに崩すことができました。こういった崩しは今シーズン毎試合何回か見られたんですが、最初にも言った通り、2年前からできていたんですよ。ここからはなぜ今シーズンはこういった崩しが多く見られたのかの大本を探っていこうと思います。
エスパルス、ポジショナルプレーの基本構造
エスパルスの基本システムは4-4-2からなるゾーンディフェンスでスタートします。「まずは守備から」が今シーズンのテーマですので、最終ラインから前線まではコンパクトに、4枚と4枚の2ラインでブロックを組みます。
さぁ、ここでボールを奪ってからのポジティブトランジションは、スピードのある2トップをがスペースを突いて先陣を切ってガンガン攻めてもらい、中盤がサポートします。
攻撃の基本フェーズとして、ビルドアップの起点となるCBとボランチからのパス配給先として、金子と白崎が中央に入り4-2-2-2の形へ。
ポジティブトランジションではこの形です。完全に攻撃に舵が切り替わると、空いているスペースとしてサイド高い位置を攻略したい。サイドのオープンスペースには
左は松原が高い位置を取り、左右不均等な形に。相手いる右のオープンスペースには立田が遅れてオーバーラップ、または金子やFWが流れてくるというのが基本形です。中央に人数が揃っているので、ここでコンビネーションプレーで崩していく。サイドは逃げ道として活用と、ポゼッションを高めて攻めていくときは割と中央からの崩しが多かったというのが今年のエスパルス。ただその精度が低く相手のブロック網に引っかかるというシーンが多かったのがその印象を薄らぐ要因ではありました。また、スピードある強力2トップによってポジティブトランジションで勝負を決めてしまうという離れ業が多かったのも印象的。象徴的なシーンがドウグラス加入後初ゴールとなったシーン。
【公式】ゴール動画:ドウグラス(清水)65分 ガンバ大阪vs清水エスパルス 明治安田生命J1リーグ 第17節 2018/7/22
ポジティブトランジションの段階で勝負を決してしまうのは、ショートカウンターの精度の高さというのを表しています。ですが、今回はポジショナルプレーの分析ということで、このままいったら「ドウグラスすげぇ」で終わってしまいそうなので、中央崩しについてみていきます。
ボックス型中盤と中央崩し
第23節浦和レッズ戦です。
絵に描いたような4-2-2-2です。舵を攻撃にきっている状態ですね。
河井が斜めのパスを送ります。綺麗に崩せたシーンていうのは斜めのパスが多いですね。このパスが落ちてきた北川に入りました。
横からのアングルです。北川が落ちてきたところはキレイにスペースが広がっています。中盤がボックス型になったことでレッズの中盤とは数的同数になり、そこに北川が落ちてきたのでエスパルスからしたら数的優位になります。
北川に入るところで槙野が「シメシメ」とやって来るわけですが、この隙を狙い、ポジションチェンジするかのように金子が裏に抜ける。
この形はたぶん練習していたと思います。ものすごくスムーズでした。そして綺麗に中央から崩せた。理想的なポジショナルプレーでした。
結局「ドウグラス、半端ないって」
エスパルスの攻撃は、ゾーンディフェンスから始まります。そしてポジティブトランジションでどれだけ相手より先手を打って攻められるかが、その後の攻撃が上手くいくかを表します。要するにショートカウンターが命です。ここで恐怖心を与えられなければその後の攻撃も上手くいきません。なのでこんなオチにしたらつまらないですし、支度はなかったんですけどやっぱり「ドウグラス半端ないって」ということで。
来年のことを言うと、攻撃時は左右非対称でしたが、右SBが立田と正反対なタイプの飯田が起用されていた時はリスクお構いなくガンガン上げていたので、理想はオープンスペースにはSBが入る形なんでしょうと。エウシーニョが獲得候補として挙がっていますが、ヨンソンさんの理想SB像は高さと攻撃性能だと思うので理に適っていると思います。来年は来年でグレードアップすると思うのでそこは来シーズンのお楽しみということで。今回はここまで。さようなら!!
ボツ記事復活企画第2弾:河井陽介/ドリブルからアシストまで@J1リーグ第10節vs名古屋グランパス
ボツ記事復活企画第2弾!!
今回は河井陽介のアシストに至るまでのプレーの一連を紹介します
明治安田生命J1リーグ第10節 vs名古屋グランパス@パロマ瑞穂陸上競技場
前半43分
カウンターのシーン。河井陽介がボールを受ける
ルックアップ
前に北川航也が走る。河井は左から走ってくる竹内涼をチェック
竹内は赤丸のエリアへ走る。河井は、今度は右を走るクリスランへ目線を移す
河井、もう1度左の竹内へ目線を動かす
河井が左をチェックすることで相手DFが右方向へ動けるように左足に体重をかけてきた
北川が裏に抜けだすと同時に河井は前へルックアップ
相手DFはストップしディレイをかける。
河井の左から上がってくる竹内を警戒し右を切る。しかし河井はルックアップしていることからこの状況は把握済み。
北川の狙うは名古屋DFホーシャの背後。河井も「そこしかない!」というところへラストパス
河井からのパスが狙い通りの場所へ。勝負あり。
河井はこの一連のプレーにおいて複数のパスコースを確認している。1つしかパスコースを把握できないパサーは簡単に足止めを喰らう。河井はパスコースを把握するために5回首を振っている。スペースが確保できる北川と竹内に2回ずつ。予備感覚でクリスランに1回。確認するタイミングとルックアップのタイミングが絶妙であり、またドリブルスピードを落としていない。高い個人スキルでカウンターを成立させてみせた。
ボツ記事復活企画:崩壊のジュビロ/第22節 浦和レッズvsジュビロ磐田
2018年のJリーグが終わりました。いろいろあった1年でした。ワールドカップなんてかなり昔に感じます。平昌オリンピックは今年の出来事です。もう遠い昔のよう。
さて、スポナビ+が終了したことで完全にこちらに引っ越した当ブログなわけですが、こちらももう1年です。それまでの個人技だけでなくスポナビから引き継いだ戦術面も書いてきましたが、中には下書きに保存したまま結局出す機会を失ってここまで来てしまった記事が何個かあります。2018年ももうわずかなので、平成もあと数ヶ月ということも掛けて、ここでボツとなり埋もれてしまった記事を何個か出すというのも悪くないと思い、復活企画としました。第1回はJ1リーグ第22節、埼玉スタジアムでのゲーム、浦和レッズvsジュビロ磐田です。
崩壊のジュビロ
スタメンです。今回はジュビロの話です。
システムは3-4-2-1なんですが、中断明けから3-1-4-1-1とか何が狙いなのか分からんシステムで結果出ず、2試合前から4バックで挑んではちょっとは持ち直したかなとしてレッズ戦です。
勝てていない時期を長く過ごしてるジュビロとしては、まず守備を立て直したいということで
5バック+中盤4枚の必殺「川又残しの鉄壁要塞」を作りたい。なんですが、相手のレッズはミシャ政権が終わりポゼッションにこだわるチームではなくなり、ジュビロとしてはファーストディフェンスをどこにするかが重要になります。オリヴェイラ政権は普通にロングボールも蹴ってくるので、決め事をしっかり共有しておかないといくら見た目要塞でも中スッカスカが即バレしてしまうので注意しないといけない。ジュビロの選択はというと、
ビックリ仰天! 5バックで構えていてメッチャ前からプレスしている。もうわかんない。だからレッズがジュビロのプレスを剥がすためにしたことは
レッズはパスコースさえ見つかれば最終ライン前にボールを運ぶ。そこに待ち構えているのが武藤とファブリシオ。ココにボールが入ればあとは裏を狙っている興梠またサイドを使うなど、レッズのカウンターの選択肢は複数ありました。
レッズのジュビロ崩し
右サイドから森脇良太がクロスを入れるシーンです。
クロスが入った時に中に待ちあわせているのは興梠慎三とファブリシオです。
手前の興梠に入りました。興梠に対してプレスしますが、みんなそこに集まっちゃうから
セカンドが転がってくる位置ががら空き。打たれて
ハイ失点。5バックの前に4人の中盤も構えているはずの鉄壁な要塞は見た目だけで1本でも最終ライン前にボールを入れられたら跡形もなく崩れていく。
続いて2点目のシーンです。
ボールを持っている青木拓矢から武藤雄樹にボールが入るところですが、はいこの時点でスカスカです。
だいぶ引いて構えているとは思うんですけどね~。なぜかそこだけはガラガラになっている。
武藤にボールが入ります。ジュビロはやっとココでプレスしに行く。遅い!!
3人を引きつけ、さらに前まで向ける状況(!!)に持って行った武藤はフリーになっているファブリシオを目掛けて
もう、マジでなんなの!?って言いたいほどの、教科書通りの守備の悪い例を見せてくれました。もっとも閉めておかなければならないところがガッラガラのスッカスカ。レッズほどのチームならそんな隙を見逃すはずもなく平然と崩していく。敗戦は必然。
新ヴィッセル神戸対策講座/リージョの設計図を読み解こう
今シーズンから、楽天コネクションをフルに活かして「バルサ化」を目論み始めたヴィッセル神戸。なかなかの本気っぷりで、夏にイニエスタを始め、バルサのアカデミーの重役を次々に招聘。とどめに吉田孝行から世界一のポゼッション信仰者ファンマ・リージョへの華麗なる監督交代劇をみせてくれるなど、「あっ、本気じゃん」とこのプロジェクトに対するマジ感を出してくれました。そんなわけで、エスパルスホーム最終戦を飾るべく、スターチームとなったヴィッセルを見ていこうと思いつつ、かつリーガファンの1人でもある僕もバルサ化計画についていろいろ言いたいこともあるので、まぁつべこべ言わず見ていきましょう。
■リージョの設計図
前節の第32節ヴィッセル神戸vsサガン鳥栖から、まず神戸のスタメンから見ていきましょう。
古橋享梧を最前線に配置する4-3-2-1。上に行くたびに1人ずつ減っていくでおなじみ、クリスマスツリー型です。
あっそうだ。ここで1つ言いたいんですが、ヴィッセルが目指したいバルサのスタイルと、現指揮官リージョのスタイルは全く違います。ペップ・グアルディオラが現役時代に対戦相手のサッカーに感銘を受けて試合後に自ら戦術や練習方法を尋ねに行ったその相手監督がリージョであっただけであって、あとメキシコでリージョの下でプレーしたというのもありますが、リージョ自身はバルサとは全く縁がない人で、実際に今のヴィッセルでやっている戦術もバルサの基本とは違っているので、「バルサっぽいな」というより「これがリージョなんだな」ぐらいに見るのが1番だと思います。
ポゼッションサッカーをやるうえで重要なのが、いかにビルドアップを設計していくかです。この日の対戦相手、鳥栖は4-4-2で来ました。金崎夢生とフェルナンド・トーレスの2トップが前から行く守備に対してヴィッセルはいかに組み立てていくか。鳥栖の2トップが構えている状態ならば
CBの2人で組み立てます。2トップが揃ってプレスに来たら
中盤から藤田直之が助太刀して、CBは左右に広がります。そして相手が3人以上の全力プレスで来たら
三田を加えてのダイヤモンドを作り、フルパワーで迎え撃ちます。因みに伊野波は行方不明です。
クリスマスツリー型ですが、サイドの高い位置を放ることはできません。サイドアタッカー役はSBであり、この2人を高い位置に置きたい故、ビルドアップには関わらせてきませんでした。クリスマスツリー型ということで、中盤は厚くキープ力に優れる選手が多いため、フルパワーでビルドアップしてきたときは簡単にボールを渡してくれません。
ヴィッセルのビルドアップにおいて1番厄介なのは、藤田が落ちてくると同時にCBがサイドに広がっていく瞬間です。
中央の藤田、三田を軸とするとたくさんのトライアングルが完成し、それぞれのパスコース数が増えます。ビルドアップにおいてサイドに広がったCBはビルドアップにおける逃げ場となり、ここでプレスを回避することが可能になるのです。ヴィッセルにおいて、結局イニエスタ、ポドルスキにボールが入った時が1番怖いじゃないですか。で、どのチームもこの2人に対するプレスは厳しいので、少しでも軽減させてあげたい。ヴィッセルのビルドアップの出口はイニエスタポルディと両SBです。そこで困った時の預け処がCBになる。無暗にプレスに行けば出口が開き、行かなければパスを回される。ココの対応策は必須です。
■最重要ポジションはウイング
アレ? ヴィッセルにウイングなんていないじゃないですか。はいそうです。でもウイング役は多数います。
例えばビルドアップの説明時に挙げたSB。
基本的にはこの形になります。ヴィッセルの場合はSBに組立力があるかといえばそうでもない。完全なウイングとしての役回り。ティーラトンはその典型的タイプですね。
他には、イニエスタポドルスキがウイング役として、主に逆サイドに張る。
ヴィッセルはシステム上、ウイングがいませんが、むしろこのポジションを最も大切としています。
リージョという監督が作るポジショナルプレーにおいて最たる狙いは、サイドにおける優位性を保つことです。それは数的優位でもあり、質的優位のことでもあります。なのでスペースがないときはイニエスタやポドルスキの能力で殴り、スペースがあるときはウイング=SBにガンガン仕掛けさせる。
中盤へドリブルします。
イニエスタに縦パスが入る。背後に三田が走りこみ、
イニエスタはヒールで三田へ。この時点で鳥栖のDF陣はかなり中央に絞っています。いや、集められたことで左サイドのティーラトンに広大なスペースが与えられることになった。
あ~、これはダメなディフェンスの例ですね。これでは思う壷です。リージョはこれを狙ってビルドアップを設計してます。円の中にはヴィッセルは3人に対して鳥栖は5人もいます。でも取れなかった。イニエスタに三田、さらにポドルスキまで加われたらどんなに人数がいても質的優位に立たれてしまうので、サイドを捨ててまで中に絞るのは良くないです。
■ポジショナルプレーの弱点は?
どんなに優位性を保てたところで、100%勝てることはあり得ないのがサッカーです。完璧に設計されたはずのポジショナルプレーにも弱点は必ず存在します。
目には目を歯には歯を
ポジショナルプレーといえば、マリノスもそうでしたがマリノスはハーフスペースをガンガン狙ってきました。ですが反面、マリノス最大の弱点としてハーフスペースがあり、日産スタジアムでのゲームは、同点弾は割と近い形ではありました。ならヴィッセルはどうか。リージョの狙いがサイドにあるのなら、きっとそこにも弱点はあるはずだ!ということでサイドのプレーを見ていきましょう。
第31節の名古屋グランパス戦から。
グランパスの4番、小林裕紀から縦の楔が入るところです。ヴィッセルの右SBの選手がボールを注視しています。
入りました。名古屋のSB(ウイングバック?)の秋山陽介がSBの背中を取っています。
はい。出ました。セオリー通り。
秋山に出ました。1on1の場面ですが、一旦落とします。このスペースですね。おさらいしましょう。
ヴィッセルのポジショナルプレーはシステムを崩す可変式です。常にクリスマスツリー型でいるわけではありません。逆に言えば、ポジションを崩してることでウィークポイントが生まれる。ヴィッセルの場合はココ。
SBの前後にあるスペース。ウイングとして高い位置にいるときは背後が、4バックで構えているときは前のスペースがマジで空く。ヴィッセルはウイング役はいてもウイングはいません。基本的にサイドの縦100mはSBのエリアです。ポジショナルプレーによって1人2役をこなすSBは裏を返せば隙だらけです。
落としたボールを前田直輝がクロスを上げますが、フリーです。後ろに小林まで控えているので、カバーも間に合っていないヴィッセルのDF陣相手にサイド攻撃を好き放題やっています。鳥栖戦も結構やられてました。
■見取り図
今のヴィッセル神戸はタダのチームではないです。イニエスタにポドルスキがいるだけでスーパーなんですが、リージョまで来て本格的にポジショナルプレーを導入してきました。エスパルスとしてはゾーンをしっかり組むことがまず勝つための第1関門。いわゆる、キープ力に優れる選手が多数いたとしても惑わされず自分のエリアというのをしっかり守る。下手に動いたらそれこそヴィッセルからしたらカモです。相手を崩すというより、崩させる。ポジショナルプレーってのはリアクションに近いところがあります。
つまり、エスパルスが勝つために必要なのは「普通にやる」。これが最低限。個人の対策についてはそれからです。
■バルサ化計画について
1人のクレとして、最初「バルサになる」って聞いたときは「バルサを舐めるなよ」とは思いました。これは全国のバルサファンが思っていることではないでしょうか。仮に“バルサみたいなサッカー”ができたとしても、それはバルサのコピーに過ぎないわけで、唯一無二のスタイルを導入すること自体1,2年でできるなんてあり得ないです。バルサですら、元はリヌス・ミケルスやクライフのアヤックスでの哲学が“移植”されたにすぎないので、それも足掛け20年かけて、いや半世紀近くかけて今があることをクラブは果たして分かっているのかと。目指すのは勝手ですし、スタッフを何人も引き抜いているので本気度は窺えますが、大事なのはそれをどう「ヴィッセル化」にできるか。バルサがアヤックスのオリジナルを移植して「バルサ化」したのと一緒で、ヴィッセルにとってプロジェクトは壮大でもまだまだ困難でイバラの道だよとは言いたいなと。1人のクレとして。
風間グランパスを打ち砕いたエスパルスの価値/あまりにも高すぎなグランパスのリスク
■和泉と秋山
3-4-3でスタートした名古屋グランパスのビルドアップの起点は左サイド。前半のスタッツで左サイドのアタッキングサイドが7割近く合ったことと、平均ポジションが極端に左サイドに寄っていたことがその証明。
グランパスのビルドアップは和泉と秋山から始まる。左サイドは大外に秋山と玉田。内側に和泉とガブリエル・シャビエルが入り、後方のサポートにエドゥアルド・ネット。サイドで数的優位を保つ。
大学サッカー関係者が見たら涙が出てくるような選手配置ではあるものの、二段構えのビルドアップ様式で左サイドでのボールポゼッションで優位となり、ゲームを進めていく。エスパルスの守備はいつもと変わらず4-4-2のゾーンをしっかり組み、中盤は以前の静岡ダービーと同じく圧縮しスペースを埋めて対応。ポゼッションは譲っても隙は与えない。
■松原と中谷
対するエスパルスのビルドアップは、中央で竹内、河井、白崎の3人が起点。攻め口は左サイド。主に松原。松原がペナルティーエリア付近でパスを受ける回数が多く、グランパスDF中谷とのマッチアップが数多く観られた。だってそうだもん。グランパスの右サイド、人がいなくてスッカスカなんだもん。
グランパスのネガティブトランジションのスローリーなことで、誰もが和泉の裏が弱点だ!と思いきや、人口密度高くて攻めにくい。対して逆サイドは広大なスペースがあるだけでなく無条件で数的優位になれるためカウンターのルートとして利用。ビルドアップにおいてグランパス右サイドを消し、左サイドから押し込んでいく。
■押し込め押し込め、サイドを押し込め
後半、石毛に代えて金子を投入。エスパルスの攻撃の起点は左サイドでも、後半のグランパスは守備においては(限りなくアドリブに近い)5バックできたので左からの攻撃も前半のようにはいかず、状況を打破するために右サイドを押し込まなくてはならない。
前半と変わらず竹内河井白崎でゲームを作り、松原は高い位置を取り、対面する青木を最終ラインに釘付けに。右サイドに関しては、
金子が和泉、ネット、秋山を引きつけることで右SBの立田がフリーになる。後半は立田がサイドでフリーになってボールを受ける回数が増え、グランパス左サイドをピン止め。両SBが高い位置でボールを受けることで完全に後半の主導権を握ったエスパルスが、危なげなく勝ち点3を勝ち取った。
■あまりにも高いグランパスのリスク
前半はほとんど2バック。後半はラインを上げてのアドリブ満載5バックで中盤にスペースが広がり結果的にセカンドボールを拾われまくる展開に。得点源のジョーはフレイレとソッコが封じ、玉田とシャビエルはボールに触らせずにどんどん下がらせていく。後半に金井を入れて4バックにしても時すでに遅し。極端に人数を掛けるということは大きなリスクを背負うということを意味するものの、それに対応する術がなければ自殺行為に過ぎないということを目の前で教えてくれた。
グランパス、スペースありすぎ
ヤッヒー、リスク犯しすぎ
ランゲラック、凄すぎ