攻撃サッカーを創ったエスパルスの「ポジショナルプレー」という答え
今回はシーズンの総括です。
驚愕の事実
たぶん、ほとんどの人が知らない事実があるんですけど、なんと今シーズンのエスパルスは、リーグ2番目となる56得点を記録したんですッ!! 1位が優勝した川崎フロンターレの57得点なので、1得点差なわけです。昨シーズンが36得点なので20点も多く取れました。なのに、あんまり取り扱ってくれないというか、今シーズンの国内屈指の破壊力を誇っていたという事実をご存知ではない!!ようなので、今回は僕が、エスパルスの攻撃が飛躍的進歩を遂げたのかを検証していきたいと思います。
■ポジショナルプレー≠ポゼッションサッカー
今シーズンからヤン・ヨンソン監督になり、大きな変化が表れたのはポジションの規制です。いろんな選手から「ポジショニングについての細かい指示が多い」との発言が多いことから、昨年もサンフレッチェ広島で就任後オフェンシブな戦いにシフトしつつ劇的残留に導き、華麗にチームを去る破目になるわけですが、そこでもポジションが整理されており、ゾーンディフェンスからのスムーズなカウンター移行という、無駄のない効率的な戦術を仕込み、それをそのままエスパルスに落とし込んだわけです。
ヨンソン監督というのは、ポジショニングによって優位性を作るサッカーをしています。特にエスパルスの場合は、個の質に関してはJ1では見劣りするところがあるのは昨シーズンを振り返れば明確な事実でした。なので勝利を得るためには別のところで優位性を作りたい。そこで位置的優位性を生み出すことが必要となりました。
今シーズンによく耳にする機会が多くありました「ポジショナルプレー」。夏にもそれにまつわる記事を1本書きましたので、詳しくはそちらを参考に
Jリーグのポジショナルプレーといえば、ポステコグルー率いるマリノスやブンデス大好きイケメン率いるベガルタ仙台。話題になりすぎたスペイン人監督率いた東京ヴェルディや徳島ヴォルティスです。こういったポジショナルプレーを志向しているチームはポゼッション率が高くなっているのが特徴として表れており、世間ではポゼッションサッカーとイコールだという見方が蔓延してしまいました。これ全然違います。あくまでポジショナルプレーとは攻守両面で相手より優位に立とうという考え方であって、ポゼッションとは無関係です。
ポジショナルプレーとは1つの思想であり、スタイルであり、フットボールというゲームのボールとスペースを通した全体論理的な理解方法である。各カテゴリーを指導する多くのコーチが、ポジショナルプレーの目的をボール保持だと考えている。彼らはポゼッション率の高さという表層的な現象に着目しているが、ボール保持は実際のところ単なる手段でしかない。本来の目的はスペースの占有であり、選手たちがチームの「組織的な位置取り」と「集団的な相乗効果」の中で創造性を発揮し、個々が持っている質的な強みを活かせる状況を与えることだ。
月刊フットボリスタ 発行ソルメディア 29項より引用
■エスパルスとポジショナルプレーの歴史
優位性を作って相手を崩すというのは、人がスペースを作り、人がそのスペースに入り、そのスペースに人がボールを入れていくという作業が必要です。今シーズンはこの崩し方が多く見られました。後ほどやりますが、実はこういった崩しはヨンソン以前、つまり小林前体制の時もできていました。覚えているでしょうか、スポナビでも記事にしました2016年の第40節カマタマーレ讃岐戦のテセの2点目のシーンです。選手の質的な優位性に位置的優位もあったことからこれ以上ない最高の崩しだったと思います。また昨年も第19節マリノス戦のテセのゴールもきれいに崩せたゴールです。と、2年前からポジショナルプレーといわれるサッカーはできていたんですね。ではそれが今年、どうグレードアップしたのかを見ていきましょう。
位置的優位による崩し
位置的優位によって見事な崩しを見せたのが第13節サガン鳥栖戦の42分のシーン
ソッコがボールを持ち運んでこの位置。目線の先には金子とテセ。
ソッコがテセへパス。この際に金子が外に向けて走りパスコース作りと相手の目線を引きつけ、テセはバックステップを踏むことで目の前のDFと距離を作る
正面から見ると分かりやすいですね。金子がパスコースを作り、バックステップを踏んで距離を取るテセ。テセの体の向きも注目ポイント。ゴールに向いていますね。
ボールを受けてトラップしてからのスムーズなシュート。決まっていれば最高の崩しでしたが惜しくも決まらず。
ダイアゴナルにボールを動かすというのも、ポジショナルプレーにおける重要なコンセプトの1つです。敵プレッシャーラインを超えるパスでも、それが同じレーン上の縦パスだと 受け手はゴールを背負って受けることになるため、ターンして前を向けるスペースと時間がない限り、キープするか後ろに戻すかという選択肢しか残らない。しかし斜め方向のパスならば、体を開き前方への視野を確保した状態で受けて、最初のトラップで前を向くことが可能です。また斜め方向にボールを動かせば、敵もそれに合わせて横に移動しなければならなくなるため、陣形にギャップが生まれやすい。次のパスコースを作り出すという観点からも有効なのです。
モダンサッカーの教科書 イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー 著者レナート・バルディ 片野道郎 発行ソルメディア 75項より引用
アンダーラインを引いたところは正にテセの動き方そのものです。ヨンソンさんになり体の向きについての指導などもあることから、ポジショナルプレーというのはスムーズに物事が進むよう、パスからトラップ、ボールを離すまでの1連のプレーを整備するのです。
サイド攻略の方法
続いてはサイド攻撃です。第18節マリノス戦の金子のゴールシーンです。
松原のスローインからです。今、スローインってめっちゃ重要視されていて、なんでかというとセットプレーの中で1番やる回数が多いから。リバプールがスローイン専門コーチを付けたぐらいです。
話を戻して、この場面でエスパルスは松原、北川、石毛の3人が絡んでいますが、マリノスは2人しか対応にきていないです。完全にマリノスのミスです。
北川のマークが松原に行ったことで北川がフリーになりました。そして石毛に付いていたマークは北川に行くかどうか迷っている。
石毛ががら空きのハーフスペースに入りこむ。体の向きは常にボールを視野に入れられるよう外に。
こんな感じです。北川&石毛がドフリーなので
フリーな北川からパスを受けたフリーな石毛はあらゆる選択肢があります。石毛の前に広がるスペースに走りこむ松原にパス、また緑丸に入る北川にリターン。
はい、楽に崩せました。これはマリノスの守備陣形のミスが7割近くを占めているんですが、エスパルスの3人の総移動距離というのはそうでもない。的確なポジショニング、的確な体の向き、的確なスタートと一切の無駄なくシステマチックに崩すことができました。こういった崩しは今シーズン毎試合何回か見られたんですが、最初にも言った通り、2年前からできていたんですよ。ここからはなぜ今シーズンはこういった崩しが多く見られたのかの大本を探っていこうと思います。
エスパルス、ポジショナルプレーの基本構造
エスパルスの基本システムは4-4-2からなるゾーンディフェンスでスタートします。「まずは守備から」が今シーズンのテーマですので、最終ラインから前線まではコンパクトに、4枚と4枚の2ラインでブロックを組みます。
さぁ、ここでボールを奪ってからのポジティブトランジションは、スピードのある2トップをがスペースを突いて先陣を切ってガンガン攻めてもらい、中盤がサポートします。
攻撃の基本フェーズとして、ビルドアップの起点となるCBとボランチからのパス配給先として、金子と白崎が中央に入り4-2-2-2の形へ。
ポジティブトランジションではこの形です。完全に攻撃に舵が切り替わると、空いているスペースとしてサイド高い位置を攻略したい。サイドのオープンスペースには
左は松原が高い位置を取り、左右不均等な形に。相手いる右のオープンスペースには立田が遅れてオーバーラップ、または金子やFWが流れてくるというのが基本形です。中央に人数が揃っているので、ここでコンビネーションプレーで崩していく。サイドは逃げ道として活用と、ポゼッションを高めて攻めていくときは割と中央からの崩しが多かったというのが今年のエスパルス。ただその精度が低く相手のブロック網に引っかかるというシーンが多かったのがその印象を薄らぐ要因ではありました。また、スピードある強力2トップによってポジティブトランジションで勝負を決めてしまうという離れ業が多かったのも印象的。象徴的なシーンがドウグラス加入後初ゴールとなったシーン。
【公式】ゴール動画:ドウグラス(清水)65分 ガンバ大阪vs清水エスパルス 明治安田生命J1リーグ 第17節 2018/7/22
ポジティブトランジションの段階で勝負を決してしまうのは、ショートカウンターの精度の高さというのを表しています。ですが、今回はポジショナルプレーの分析ということで、このままいったら「ドウグラスすげぇ」で終わってしまいそうなので、中央崩しについてみていきます。
ボックス型中盤と中央崩し
第23節浦和レッズ戦です。
絵に描いたような4-2-2-2です。舵を攻撃にきっている状態ですね。
河井が斜めのパスを送ります。綺麗に崩せたシーンていうのは斜めのパスが多いですね。このパスが落ちてきた北川に入りました。
横からのアングルです。北川が落ちてきたところはキレイにスペースが広がっています。中盤がボックス型になったことでレッズの中盤とは数的同数になり、そこに北川が落ちてきたのでエスパルスからしたら数的優位になります。
北川に入るところで槙野が「シメシメ」とやって来るわけですが、この隙を狙い、ポジションチェンジするかのように金子が裏に抜ける。
この形はたぶん練習していたと思います。ものすごくスムーズでした。そして綺麗に中央から崩せた。理想的なポジショナルプレーでした。
結局「ドウグラス、半端ないって」
エスパルスの攻撃は、ゾーンディフェンスから始まります。そしてポジティブトランジションでどれだけ相手より先手を打って攻められるかが、その後の攻撃が上手くいくかを表します。要するにショートカウンターが命です。ここで恐怖心を与えられなければその後の攻撃も上手くいきません。なのでこんなオチにしたらつまらないですし、支度はなかったんですけどやっぱり「ドウグラス半端ないって」ということで。
来年のことを言うと、攻撃時は左右非対称でしたが、右SBが立田と正反対なタイプの飯田が起用されていた時はリスクお構いなくガンガン上げていたので、理想はオープンスペースにはSBが入る形なんでしょうと。エウシーニョが獲得候補として挙がっていますが、ヨンソンさんの理想SB像は高さと攻撃性能だと思うので理に適っていると思います。来年は来年でグレードアップすると思うのでそこは来シーズンのお楽しみということで。今回はここまで。さようなら!!
ボツ記事復活企画第2弾:河井陽介/ドリブルからアシストまで@J1リーグ第10節vs名古屋グランパス
ボツ記事復活企画第2弾!!
今回は河井陽介のアシストに至るまでのプレーの一連を紹介します
明治安田生命J1リーグ第10節 vs名古屋グランパス@パロマ瑞穂陸上競技場
前半43分
カウンターのシーン。河井陽介がボールを受ける
ルックアップ
前に北川航也が走る。河井は左から走ってくる竹内涼をチェック
竹内は赤丸のエリアへ走る。河井は、今度は右を走るクリスランへ目線を移す
河井、もう1度左の竹内へ目線を動かす
河井が左をチェックすることで相手DFが右方向へ動けるように左足に体重をかけてきた
北川が裏に抜けだすと同時に河井は前へルックアップ
相手DFはストップしディレイをかける。
河井の左から上がってくる竹内を警戒し右を切る。しかし河井はルックアップしていることからこの状況は把握済み。
北川の狙うは名古屋DFホーシャの背後。河井も「そこしかない!」というところへラストパス
河井からのパスが狙い通りの場所へ。勝負あり。
河井はこの一連のプレーにおいて複数のパスコースを確認している。1つしかパスコースを把握できないパサーは簡単に足止めを喰らう。河井はパスコースを把握するために5回首を振っている。スペースが確保できる北川と竹内に2回ずつ。予備感覚でクリスランに1回。確認するタイミングとルックアップのタイミングが絶妙であり、またドリブルスピードを落としていない。高い個人スキルでカウンターを成立させてみせた。
ボツ記事復活企画:崩壊のジュビロ/第22節 浦和レッズvsジュビロ磐田
2018年のJリーグが終わりました。いろいろあった1年でした。ワールドカップなんてかなり昔に感じます。平昌オリンピックは今年の出来事です。もう遠い昔のよう。
さて、スポナビ+が終了したことで完全にこちらに引っ越した当ブログなわけですが、こちらももう1年です。それまでの個人技だけでなくスポナビから引き継いだ戦術面も書いてきましたが、中には下書きに保存したまま結局出す機会を失ってここまで来てしまった記事が何個かあります。2018年ももうわずかなので、平成もあと数ヶ月ということも掛けて、ここでボツとなり埋もれてしまった記事を何個か出すというのも悪くないと思い、復活企画としました。第1回はJ1リーグ第22節、埼玉スタジアムでのゲーム、浦和レッズvsジュビロ磐田です。
崩壊のジュビロ
スタメンです。今回はジュビロの話です。
システムは3-4-2-1なんですが、中断明けから3-1-4-1-1とか何が狙いなのか分からんシステムで結果出ず、2試合前から4バックで挑んではちょっとは持ち直したかなとしてレッズ戦です。
勝てていない時期を長く過ごしてるジュビロとしては、まず守備を立て直したいということで
5バック+中盤4枚の必殺「川又残しの鉄壁要塞」を作りたい。なんですが、相手のレッズはミシャ政権が終わりポゼッションにこだわるチームではなくなり、ジュビロとしてはファーストディフェンスをどこにするかが重要になります。オリヴェイラ政権は普通にロングボールも蹴ってくるので、決め事をしっかり共有しておかないといくら見た目要塞でも中スッカスカが即バレしてしまうので注意しないといけない。ジュビロの選択はというと、
ビックリ仰天! 5バックで構えていてメッチャ前からプレスしている。もうわかんない。だからレッズがジュビロのプレスを剥がすためにしたことは
レッズはパスコースさえ見つかれば最終ライン前にボールを運ぶ。そこに待ち構えているのが武藤とファブリシオ。ココにボールが入ればあとは裏を狙っている興梠またサイドを使うなど、レッズのカウンターの選択肢は複数ありました。
レッズのジュビロ崩し
右サイドから森脇良太がクロスを入れるシーンです。
クロスが入った時に中に待ちあわせているのは興梠慎三とファブリシオです。
手前の興梠に入りました。興梠に対してプレスしますが、みんなそこに集まっちゃうから
セカンドが転がってくる位置ががら空き。打たれて
ハイ失点。5バックの前に4人の中盤も構えているはずの鉄壁な要塞は見た目だけで1本でも最終ライン前にボールを入れられたら跡形もなく崩れていく。
続いて2点目のシーンです。
ボールを持っている青木拓矢から武藤雄樹にボールが入るところですが、はいこの時点でスカスカです。
だいぶ引いて構えているとは思うんですけどね~。なぜかそこだけはガラガラになっている。
武藤にボールが入ります。ジュビロはやっとココでプレスしに行く。遅い!!
3人を引きつけ、さらに前まで向ける状況(!!)に持って行った武藤はフリーになっているファブリシオを目掛けて
もう、マジでなんなの!?って言いたいほどの、教科書通りの守備の悪い例を見せてくれました。もっとも閉めておかなければならないところがガッラガラのスッカスカ。レッズほどのチームならそんな隙を見逃すはずもなく平然と崩していく。敗戦は必然。
新ヴィッセル神戸対策講座/リージョの設計図を読み解こう
今シーズンから、楽天コネクションをフルに活かして「バルサ化」を目論み始めたヴィッセル神戸。なかなかの本気っぷりで、夏にイニエスタを始め、バルサのアカデミーの重役を次々に招聘。とどめに吉田孝行から世界一のポゼッション信仰者ファンマ・リージョへの華麗なる監督交代劇をみせてくれるなど、「あっ、本気じゃん」とこのプロジェクトに対するマジ感を出してくれました。そんなわけで、エスパルスホーム最終戦を飾るべく、スターチームとなったヴィッセルを見ていこうと思いつつ、かつリーガファンの1人でもある僕もバルサ化計画についていろいろ言いたいこともあるので、まぁつべこべ言わず見ていきましょう。
■リージョの設計図
前節の第32節ヴィッセル神戸vsサガン鳥栖から、まず神戸のスタメンから見ていきましょう。
古橋享梧を最前線に配置する4-3-2-1。上に行くたびに1人ずつ減っていくでおなじみ、クリスマスツリー型です。
あっそうだ。ここで1つ言いたいんですが、ヴィッセルが目指したいバルサのスタイルと、現指揮官リージョのスタイルは全く違います。ペップ・グアルディオラが現役時代に対戦相手のサッカーに感銘を受けて試合後に自ら戦術や練習方法を尋ねに行ったその相手監督がリージョであっただけであって、あとメキシコでリージョの下でプレーしたというのもありますが、リージョ自身はバルサとは全く縁がない人で、実際に今のヴィッセルでやっている戦術もバルサの基本とは違っているので、「バルサっぽいな」というより「これがリージョなんだな」ぐらいに見るのが1番だと思います。
ポゼッションサッカーをやるうえで重要なのが、いかにビルドアップを設計していくかです。この日の対戦相手、鳥栖は4-4-2で来ました。金崎夢生とフェルナンド・トーレスの2トップが前から行く守備に対してヴィッセルはいかに組み立てていくか。鳥栖の2トップが構えている状態ならば
CBの2人で組み立てます。2トップが揃ってプレスに来たら
中盤から藤田直之が助太刀して、CBは左右に広がります。そして相手が3人以上の全力プレスで来たら
三田を加えてのダイヤモンドを作り、フルパワーで迎え撃ちます。因みに伊野波は行方不明です。
クリスマスツリー型ですが、サイドの高い位置を放ることはできません。サイドアタッカー役はSBであり、この2人を高い位置に置きたい故、ビルドアップには関わらせてきませんでした。クリスマスツリー型ということで、中盤は厚くキープ力に優れる選手が多いため、フルパワーでビルドアップしてきたときは簡単にボールを渡してくれません。
ヴィッセルのビルドアップにおいて1番厄介なのは、藤田が落ちてくると同時にCBがサイドに広がっていく瞬間です。
中央の藤田、三田を軸とするとたくさんのトライアングルが完成し、それぞれのパスコース数が増えます。ビルドアップにおいてサイドに広がったCBはビルドアップにおける逃げ場となり、ここでプレスを回避することが可能になるのです。ヴィッセルにおいて、結局イニエスタ、ポドルスキにボールが入った時が1番怖いじゃないですか。で、どのチームもこの2人に対するプレスは厳しいので、少しでも軽減させてあげたい。ヴィッセルのビルドアップの出口はイニエスタポルディと両SBです。そこで困った時の預け処がCBになる。無暗にプレスに行けば出口が開き、行かなければパスを回される。ココの対応策は必須です。
■最重要ポジションはウイング
アレ? ヴィッセルにウイングなんていないじゃないですか。はいそうです。でもウイング役は多数います。
例えばビルドアップの説明時に挙げたSB。
基本的にはこの形になります。ヴィッセルの場合はSBに組立力があるかといえばそうでもない。完全なウイングとしての役回り。ティーラトンはその典型的タイプですね。
他には、イニエスタポドルスキがウイング役として、主に逆サイドに張る。
ヴィッセルはシステム上、ウイングがいませんが、むしろこのポジションを最も大切としています。
リージョという監督が作るポジショナルプレーにおいて最たる狙いは、サイドにおける優位性を保つことです。それは数的優位でもあり、質的優位のことでもあります。なのでスペースがないときはイニエスタやポドルスキの能力で殴り、スペースがあるときはウイング=SBにガンガン仕掛けさせる。
中盤へドリブルします。
イニエスタに縦パスが入る。背後に三田が走りこみ、
イニエスタはヒールで三田へ。この時点で鳥栖のDF陣はかなり中央に絞っています。いや、集められたことで左サイドのティーラトンに広大なスペースが与えられることになった。
あ~、これはダメなディフェンスの例ですね。これでは思う壷です。リージョはこれを狙ってビルドアップを設計してます。円の中にはヴィッセルは3人に対して鳥栖は5人もいます。でも取れなかった。イニエスタに三田、さらにポドルスキまで加われたらどんなに人数がいても質的優位に立たれてしまうので、サイドを捨ててまで中に絞るのは良くないです。
■ポジショナルプレーの弱点は?
どんなに優位性を保てたところで、100%勝てることはあり得ないのがサッカーです。完璧に設計されたはずのポジショナルプレーにも弱点は必ず存在します。
目には目を歯には歯を
ポジショナルプレーといえば、マリノスもそうでしたがマリノスはハーフスペースをガンガン狙ってきました。ですが反面、マリノス最大の弱点としてハーフスペースがあり、日産スタジアムでのゲームは、同点弾は割と近い形ではありました。ならヴィッセルはどうか。リージョの狙いがサイドにあるのなら、きっとそこにも弱点はあるはずだ!ということでサイドのプレーを見ていきましょう。
第31節の名古屋グランパス戦から。
グランパスの4番、小林裕紀から縦の楔が入るところです。ヴィッセルの右SBの選手がボールを注視しています。
入りました。名古屋のSB(ウイングバック?)の秋山陽介がSBの背中を取っています。
はい。出ました。セオリー通り。
秋山に出ました。1on1の場面ですが、一旦落とします。このスペースですね。おさらいしましょう。
ヴィッセルのポジショナルプレーはシステムを崩す可変式です。常にクリスマスツリー型でいるわけではありません。逆に言えば、ポジションを崩してることでウィークポイントが生まれる。ヴィッセルの場合はココ。
SBの前後にあるスペース。ウイングとして高い位置にいるときは背後が、4バックで構えているときは前のスペースがマジで空く。ヴィッセルはウイング役はいてもウイングはいません。基本的にサイドの縦100mはSBのエリアです。ポジショナルプレーによって1人2役をこなすSBは裏を返せば隙だらけです。
落としたボールを前田直輝がクロスを上げますが、フリーです。後ろに小林まで控えているので、カバーも間に合っていないヴィッセルのDF陣相手にサイド攻撃を好き放題やっています。鳥栖戦も結構やられてました。
■見取り図
今のヴィッセル神戸はタダのチームではないです。イニエスタにポドルスキがいるだけでスーパーなんですが、リージョまで来て本格的にポジショナルプレーを導入してきました。エスパルスとしてはゾーンをしっかり組むことがまず勝つための第1関門。いわゆる、キープ力に優れる選手が多数いたとしても惑わされず自分のエリアというのをしっかり守る。下手に動いたらそれこそヴィッセルからしたらカモです。相手を崩すというより、崩させる。ポジショナルプレーってのはリアクションに近いところがあります。
つまり、エスパルスが勝つために必要なのは「普通にやる」。これが最低限。個人の対策についてはそれからです。
■バルサ化計画について
1人のクレとして、最初「バルサになる」って聞いたときは「バルサを舐めるなよ」とは思いました。これは全国のバルサファンが思っていることではないでしょうか。仮に“バルサみたいなサッカー”ができたとしても、それはバルサのコピーに過ぎないわけで、唯一無二のスタイルを導入すること自体1,2年でできるなんてあり得ないです。バルサですら、元はリヌス・ミケルスやクライフのアヤックスでの哲学が“移植”されたにすぎないので、それも足掛け20年かけて、いや半世紀近くかけて今があることをクラブは果たして分かっているのかと。目指すのは勝手ですし、スタッフを何人も引き抜いているので本気度は窺えますが、大事なのはそれをどう「ヴィッセル化」にできるか。バルサがアヤックスのオリジナルを移植して「バルサ化」したのと一緒で、ヴィッセルにとってプロジェクトは壮大でもまだまだ困難でイバラの道だよとは言いたいなと。1人のクレとして。
風間グランパスを打ち砕いたエスパルスの価値/あまりにも高すぎなグランパスのリスク
■和泉と秋山
3-4-3でスタートした名古屋グランパスのビルドアップの起点は左サイド。前半のスタッツで左サイドのアタッキングサイドが7割近く合ったことと、平均ポジションが極端に左サイドに寄っていたことがその証明。
グランパスのビルドアップは和泉と秋山から始まる。左サイドは大外に秋山と玉田。内側に和泉とガブリエル・シャビエルが入り、後方のサポートにエドゥアルド・ネット。サイドで数的優位を保つ。
大学サッカー関係者が見たら涙が出てくるような選手配置ではあるものの、二段構えのビルドアップ様式で左サイドでのボールポゼッションで優位となり、ゲームを進めていく。エスパルスの守備はいつもと変わらず4-4-2のゾーンをしっかり組み、中盤は以前の静岡ダービーと同じく圧縮しスペースを埋めて対応。ポゼッションは譲っても隙は与えない。
■松原と中谷
対するエスパルスのビルドアップは、中央で竹内、河井、白崎の3人が起点。攻め口は左サイド。主に松原。松原がペナルティーエリア付近でパスを受ける回数が多く、グランパスDF中谷とのマッチアップが数多く観られた。だってそうだもん。グランパスの右サイド、人がいなくてスッカスカなんだもん。
グランパスのネガティブトランジションのスローリーなことで、誰もが和泉の裏が弱点だ!と思いきや、人口密度高くて攻めにくい。対して逆サイドは広大なスペースがあるだけでなく無条件で数的優位になれるためカウンターのルートとして利用。ビルドアップにおいてグランパス右サイドを消し、左サイドから押し込んでいく。
■押し込め押し込め、サイドを押し込め
後半、石毛に代えて金子を投入。エスパルスの攻撃の起点は左サイドでも、後半のグランパスは守備においては(限りなくアドリブに近い)5バックできたので左からの攻撃も前半のようにはいかず、状況を打破するために右サイドを押し込まなくてはならない。
前半と変わらず竹内河井白崎でゲームを作り、松原は高い位置を取り、対面する青木を最終ラインに釘付けに。右サイドに関しては、
金子が和泉、ネット、秋山を引きつけることで右SBの立田がフリーになる。後半は立田がサイドでフリーになってボールを受ける回数が増え、グランパス左サイドをピン止め。両SBが高い位置でボールを受けることで完全に後半の主導権を握ったエスパルスが、危なげなく勝ち点3を勝ち取った。
■あまりにも高いグランパスのリスク
前半はほとんど2バック。後半はラインを上げてのアドリブ満載5バックで中盤にスペースが広がり結果的にセカンドボールを拾われまくる展開に。得点源のジョーはフレイレとソッコが封じ、玉田とシャビエルはボールに触らせずにどんどん下がらせていく。後半に金井を入れて4バックにしても時すでに遅し。極端に人数を掛けるということは大きなリスクを背負うということを意味するものの、それに対応する術がなければ自殺行為に過ぎないということを目の前で教えてくれた。
グランパス、スペースありすぎ
ヤッヒー、リスク犯しすぎ
ランゲラック、凄すぎ
ダービーにおけるジュビロの守備問題と致命的欠陥/名波浩という諸刃の剣:砕かれる世界に嘆く大井健太郎と田口泰士
名波浩率いる現在のジュビロの守備は3-5-2からなるマンツーマンディフェンスです。
基本的に目の前の相手が最優先。足りない部分は気合でなんとかします。
■後手にまわるサイドの攻防
開始早々に先制したエスパルスが残り90分で狙う攻撃はハードプレッシングからのショートカウンター。田口泰士と上原力也に入るボールを2トップ+金子石毛で狙いゴールに迫る。
ボールを奪ったらサイドへ2トップとSBが走りこむ。
前半に利用したのが右サイド。エレンの背後。当然ジュビロはエスパルス右サイドに人数を掛けて守りに来る。森下、田口、そして大久保。
あくまで人海戦術による守備。人数掛けて奪えきれれば何も言うことはないし、局面が数的優位であるということは奪う上では理に適っているわけですが、ジュビロの場合はここで2つの墓穴を掘ることになる。1つ目は逆サイド。これに関しては以前も記事書いたので省略。
もう1つは身近に存在するハーフスペースのケア。例えば右サイドでは、立田、ドウグラスでキープし、金子がハーフスペースに走りこみボールを受けるとあら不思議。金子の目の前にはスペースが広がっているという現象。
これは後半にジュビロがズタズタにされる要因にもなるのだがそこは後の話。
エスパルスが常時ターゲットとしていたのが、ジュビロWBの裏に広がるスペース。前半に見られた光景は、FWを走らせてジュビロにこのスペースを警戒させる。当然ジュビロはこのスペースを警戒して人数を掛けてくる。するとジュビロ中盤にはスペースが広がり、中央から崩すことが可能。そうそうにジュビロの守備は崩壊していた。
■走らされる田口泰士
後半、システムを変更したことで攻勢を見せるジュビロは、俊輔と後半から入った荒木をSB前に配置し起点を作りエスパルスを崩しに来る。エスパルスのSB、SHに対し、WBとシャドーをサイドに置き局面で数的同数にすることでサイド及びハーフスペースでの崩しを円滑に進めようとする。
このスペースに走りこんだのは田口と高橋だ。
実際に崩され、失点はしたもののエスパルスはこのエリアにはしっかり網を張っている。ゾーンで守っているので俊輔や櫻内から繰り出されるパスを引っ掛ければいい。田口と高橋の進入には竹内と白崎が絞りスペースを消す。次第に俊輔の選択肢はサイドチェンジしかなく、愚直にオーバーラップを繰り返しては、空いたジュビロ右サイドをひたすらカウンターの餌食と化し恐怖を植え付けていく。
子空いたスペースにドウグラスが走りこむことで大井健太郎がそのカバーに走る。田口が必死こいて戻る。
エスパルス後半の攻撃の起点は高橋がいたこのエリアだ。田口に高橋とジュビロビルドアップの起点を潰しイニシアチブを握る。この試合の田口は上下動の動きは多かったものの大半は無駄走りに終わった。というより、走らせたという方が正しいかもしれない。エスパルスの敷いた網はそれほど強固であった。スペースと時間を与えないプレスでジュビロの行き場を失わせ、シンプルに空いたスペースを狙う。そのツケを払ったのは全て大井だった。
■大井が悪いのか、ジュビロがおかしいのか
後半から高橋の攻撃参加が増えたことで右サイドの守備タスクまで担うことになった大井。この試合のトラッキングデータではスプリントを14回記録するなど、リベロにしては高い数字を出している。
後半のエスパルスの攻撃の起点はスペースへ流れる2トップへのフィード。セットプレーからドウグラスにこの日2点目を奪われ、より攻勢に出ざるを得なくなったジュビロは高橋を高めに配置し、田口も位置取りは高くほとんど大井森下の2バック+山本で守っていた。エスパルスの2トップに対しては大井森下で対応するが、ここでエスパルス4点目となったシーンを。
大井のパスをカットしたフレイレがドリブルで持ち上がる。ドウグラスがサイドへ流れ大井がサイドへ流れる。
フレイレが田口を引きつけてサイドへ。大井が抜けたスペースには石毛が走りこみ、ドウグラスがパス。
大井のパスカットから始まったエスパルスのカウンターは、大井が空けたスペースを突いたことで4点目が決まった。大井のパスは安易であり、これは攻められても仕方ないとはいえ、大井1人にこれほどまでのタスクが背負っている状況自体がおかしい。フレイレのドリブルから始まったところからドウグラスのパス→中へという展開をジュビロは大井1人で対応している。前半からもそうであったが、エスパルスのカウンターにおけるサイドへ流れるFW→ハーフスペースへの展開はジュビロが自ら明確にした弱点であった。なぜジュビロはこの展開に弱いのか。サイドに流れるFWへの対応のほとんどは大井が対応して、当然のように空いたハーフスペースを攻略されている。
横への揺さぶりに驚愕するほどの弱さを見せたジュビロは、大井がサイドへ引き出されることで攻略可能となる。後半のエスパルスは徹底してサイドへの展開からハーフスペース攻略を行うことでジュビロ守備陣をズタズタにした。
■目を開けたまま見てる夢
エスパルスの攻撃はカウンターが基本で、手数を掛けず素早く獲物をしとめる。極シンプルで人数も必要最小限。だがジュビロとの決定的な違いは、その攻撃プランに明確なマニュアルが存在した。何も特別なことはしていない。だがその攻撃パターンは豊富であり、1度揺さぶれば簡単に崩れていくジュビロ相手ではその片鱗を見せるだけで十分だった。
ジュビロの致命的欠陥として浮き出たのがマニュアル化されていない攻撃とそのツケを全て払っては当然のように崩される守備。
大井「こんなに広いスペース、1人じゃ無理だろ」
カミンスキー「またシュートを打たれるのかよ...」
川又「ボールが来なくて歯がゆい...」
組織として戦ったエスパルスと個の集合体に過ぎなかったジュビロとの差は歴然だった。
■勝者の背中
今シーズン最高の内容。全てにおいて圧倒。これ以上望めば天罰を喰らうであろう、そんなゲームだった。
昨シーズン3戦全敗だったダービーは、今年1勝1分1敗で迎えて4戦目を5-1と衝撃的スコアで締めくくった。
我々が清水エスパルスである限り、ダービーでの勝利は必須項目だ。そして見事にクリアしてみせた。その勝者の背中はとても誇らしかった。
闘った者の証として
ダービーにおいて、ジュビロの攻撃が不発に終わった理由
4-4-2のゾーンで守るエスパルスと、3-5-2のマンツーマンで守るジュビロ。戦術的に対照的な両チームは5-1という予想を超える大差のついたスコアで幕を閉じた。
この日のエスパルス4-4-2のブロックは、中盤4枚を中に絞らせ、4バックを横に広げる網を張った。
ジュビロのサイドにおける幅取りは櫻内とエレンの両WB。この2人の対応と中盤が3枚のジュビロに対して数的優位を保ち守備をすることがエスパルスの狙いだ。
ジュビロの中盤3枚に対して、ボランチには金子石毛がプレス。俊輔には竹内がプレスし白崎が1枚余るという、常時数的優位を保つ。
エレンの左サイドを中心に攻めてきたジュビロは森下、田口、俊輔をエレンのサポートに付く。
エレンのマッチアップは常に立田。サイドの局面でも数的優位を保ち、上がってくる森下に対してもFWがプレスバックすることでエレンの背後に控える田口への逃げ道も(金子がマーク)封鎖。エレンが逃げるために残されたルートは逆サイドへ一気に展開すること。
エスパルス両SBはいずれも180オーバーであり、一気に局面を変えてくるロングフィードでのサイドチェンジならばカットできる。SBが横いっぱいに広がっていたのもコレが狙い。また、逆サイドに弱さをみせるジュビロの陣形によってSBがカウンターの起点となりFWにボールを入れる。このカウンターを恐れてか、ジュビロは次第に3バック&ボランチが低いポジション取りをするようになり、サイドでエスパルスが主導権を握るようになる。
■システム変更による弊害
後半は上原と大久保を下げて山本康裕と荒木大吾を投入。システムを3-4-2-1に変更し、中盤のイニシアチブを取り返そうとする。
確かに中盤は数的同数になった。これで多少はエスパルスはバタついた。しかし実態はすぐに対応できる代物に過ぎなかった。
システムを1トップにしたことで最終ラインに空きができ、両SBが高いポジション取りを取ることができる。櫻内とエレンを低い位置に引っ張られることでジュビロのサイドは死んだも同然。
SBが上がったスペースを荒木が突くも、始めから数的優位を保っている最終ライン相手には無力。
後半から前への圧力を強めていったエスパルスに対してビルドアップで自由が利かなくなったジュビロ。しびれを切らしたかのように下がってくる俊輔。すると
エスパルスの後方は圧倒的数的優位に立ち、俊輔や田口からのパスはエスパルスボランチで張っている網に引っかかる。そして川又が孤立することで前線で基準点を作れない。ジュビロの攻撃は終始、機能不全であった。
5-1で幕を閉じた今シーズンの静岡ダービー。大差のついたゲームのロジックを解いていく。次回は、エスパルスの攻撃と現実に引き戻されるジュビロの守備問題に悲鳴を上げる大井健太郎。