ゼ・リカルドのモダンサッカーとビルドアップの手引き書
「ポケモン」、ガチでやったことあります?
ストーリー中心にやってると分からない、バトルガチ勢っているじゃないですか。全クリしてからが本番だ!みたいな。ストーリーでは絶対使わない技ってありますけど、はいそうです補助技ってやつです。ガチ勢だと補助技をどう使うかがポイントなんですね。有名な言葉として「マンダは初手竜舞や!!」ですけど。
その補助技の中に「ビルドアップ」って技があります。もともとビルドアップって言葉はボディビルの言葉で、筋肉を鍛えて肥大化するということらしいです。ポケモンの技では「攻撃と防御を一段階ずつ上げる」という効果があります。ポケモンって裏設定がかなり仕込まれていまして、技も一緒。ビルドアップがこのような効果を発揮するのは、筋肉増強されたということでパワーと打たれ強くなるという意味でしょうけど。
■ゼ・リカルドのモダンサッカー
ゼ・リカルドのサッカーを紐解くのに重要となるキーワードは3つ。
・中盤の空洞化
・ファジーゾーン
・サイ
この3つの言葉です。
ゼ・リカルドのサッカーにおいて最も重要なのが”ビルドアップ”。
なんですが、ビルドアップをする狙いにおいて自分と相手をどうしたいのか。ビルドアップはあくまで手段なので、なぜそれをやる必要があるのかという目的がないといけないんですね。そこでまず1つ目のキーワード「中盤の空洞化」です。
■中盤を空洞化させる狙いとは
昨年の基本フォーメーションは4-4-2ですが、ビルドアップ時は可変して前線が5トップになります。
中盤を空洞化させるメリットとしては、まず相手を前後分断することができる。
中盤を空洞化させてここからどうするかは各々のチーム戦術にもよるんですけど、ウチの場合は、空いたこの中盤に出入りしてボールを引き出す。
チアゴ・サンタナがリカルド体制になってハイパフォーマンスになった1つの理由は、中盤が空洞化したことによって下りてこれるスペースがあるということと、下りても5人のFW陣形なので深さを獲っているため、ボールを持って前を向くことができるということ。万能性が引き出されたということですね。相手を前後分断したことによって生まれたスペースは自由に使えよと。
チアゴが中盤に下りて見事に崩せたシーンがこちらです。
■ファジーゾーンにおける攻撃の起点
続いてのキーワードが”ファジーゾーン”。SBとSHの中間のポジションです。ここでウイングがボールを持って相手SBと正対する。相手SBをコントロールすることで、局地的に優位性を生む。これに関して詳しくはfootballistaにて記事を書かせていただいたんですけど、
ウイングがこのファジーゾーンでボールを受けるということは、ゼ・リカルドサッカーの大きな特徴の1つです。ブラジル時代でもここに関しては同じくファジーをビルドアップの出口としていました。
バスコ・ダ・ガマでの戦術解説動画なんですが、主にプレスとビルドアップについてです。
ファジーを起点にして下から追い越す。ファジーで受けることが大切なので、低くていいんです。相手SBの裏とかハーフスペースに生まれたスペースを上手く使って一気に攻め込む。
イメージはこれ。前線が5トップ化してるので人は揃っています。なので、どこにポジション獲りすればいいのかが大切。5レーンを活用したトライアングルを作れたらなお最高。超理想的シーンが下の動画。
中盤空洞化でまずは中盤を空にする。そしてファジーゾーンを起点とすることで相手SBをコントロール、細かなスペースを突いていく。
この2つのキーワードの狙いは相手の動きとポジショニングをカオスにする。空洞となったスペースはカオスとなります。ゼ・リカルドのスタイルはポゼッションでじっくり攻めていく遅攻というより、スペースを生み出して素早くそこを突いていく。1度カオスになってしまえば、それを元通りに統制するのは大変なことです。つまり、ボールを奪われたとしても相手はカオス状態、ポジショニングがグチャグチャなのでネガトラの強度が高ければ、簡単に回収できます。ゼ・リカルド体制初期の頃は最終ラインを高く配置して、CBが比較的前で潰していたのは、相手が正常に戻るのを阻止するため早めに潰す必要があるからです。その象徴的シーンが下の動画です。
回収し終わった後も、相手は頭までカオス状態。ポジショニング統制ができていなかったことも相まってショートカウンターでフィニッシュまで結びつけられました。
■相手のカオスに歯車を掛ける”サイ”
もう1つのキーワードですが、コチラ”サイ”は、サッカーの戦術用語では聞きなれない言葉です。これはサッカーの戦術用語ではなくフットサルの戦術用語です。
サッカーの戦術進化には他競技も影響されています。ポジショナルプレーはチェスが元となっている戦術用語ですし、例えばバスケや水球の動き方や局地的なエリアでの打破方法においては様々な戦術家が参考にしています。ラグビー日本代表元HCのエディー・ジョーンズはサッカーのゲーゲンプレスをラグビーに取り入れているとも言いますし。
元々フットサル出身のゼ・リカルドが取り入れたサイですが、どういう戦術かというと、簡単に言えば「瞬間的なポジションチェンジ」です。実際のフットサルだとピヴォ(サッカーで言うFW)とアラ(サイドプレイヤー)が入れ替えるのですが、サッカー、というかウチでは5トップがレーンを入れ替えながらスペースを生み出して突いていく。
先に動画をお見せしますが、最終節の白崎のゴールはまんまサイです。デコイ役として走った白崎へコロリ→カルリーニョスと繋いでなぜかフリーになってる白崎がフィニッシュする。
フットサルはフィールドプレイヤーの人数がそもそも少ないので、デコイ役がそのままフィニッシャーに変貌するなんてことはあります。今回は最後の局面だけ切り抜くと、動き方はまんまサイです。
即興でやったとしても出来過ぎな連携です。その他にもコーナーフラッグ目掛けてダイアゴナルに動く”エル”という動きなど、狭いフィールドだからこそできるフットサルのダイナミックな動きを局地的に採用しているのも特徴です。フリーダムと思わしくても、崩しの面でもしっかり動きを仕込んでいます。
■ビルドアップ=攻守の安定=局地的カオス
イタリア発のモダンサッカーは、ポジショナルプレーの典型的なプレーモデルではあります。ゼ・リカルドのサッカーの場合は、ビルドアップが全ての肝。これで攻守の安定を図りますが、なぜ攻守が安定するのかというと、スペースを生み出しながら突いていくので局地的に相手にとってはカオスになります。相手はポジションバランスを乱すことになるので奪われたとしても体制を整える間にプレスを仕掛ける。これが大切です。昨シーズンは、ゼ・リカルドのサッカーのすべてが披露できたとは言えませんでした。今季はチーム作りのキャンプの段階からやれるので、どんなチームに仕上がるのか。様子を見守っていきましょう。
ダービーへ向けて、ジュビロ対策の振り返りとドゥンガの残した言葉/さぁ、やってやろう!
多くの人が 「そんなことできるわけがない」 「無理だ」と言うが、 試してもいないのに、 なぜそんなことがわかるんだい?
◻️ジュビロの5バックと圧縮守備
第32節鹿島アントラーズ戦より
3421で戦うジュビロの守備の陣形は541。トップを最前線に残してWBを最終ラインに、中盤は横一線に並び5と4の2レーンを作る。
この陣形はそのまま、片側サイドにボールが寄っている場合は5バックは均等配置も、中盤は圧縮。ボールを囲い込み、包囲網を敷く。
同サイドに前進できるだけのルートとスペースを消して、そのまま奪いきる。ここまでやってジュビロの守備は成功したと言える。
奪いきれなければ?
同サイドを圧縮しているということは、逆サイドはスペースが広がっているということだ。つまり、プレスに対する迂回経路によって逆サイドに展開されれば一気にピンチとなる。リスクと付き物なのだ。
このジュビロの守備。ネガティブトランジションから既に主導権を握っていなければ奪いきるまでいくことはない。渋谷体制になってから一貫して杉本健勇が1トップに入っているのはネガトラの指揮をここで取ることで圧縮守備に相手を引き込む"蟻地獄"へと誘う。
金子が今使い続けられてるのは、この健勇から始まるネガトラと相性がいいから。健勇が左右どちらかを限定、金子が次に中か外かを限定、といった感じに https://t.co/1ln56U58p0
— 猫煮小判@ブログは豚に真珠 (@scnekoni_koban) 2022年10月13日
健勇のネガトラに連動して蟻地獄に誘う金子。ここの相性の良さが中盤の圧縮守備を成功させている。
◻️可変システムとジュビロのポゼッション
ジュビロのオフェンスは可変式システムで、守備の541から4バックに移る。
主に右CBに入る伊藤が実質右SBとなり、右WBの鈴木がシャドーのようにゴール前に侵入する。逆の左は松本がビルドアップの起点となって裏に金子が抜け出す。前線に人数を掛けるこの陣形は、鹿島戦でのゴールはまさにそのような形。
ジュビロのポゼッションは右へのスライドによって組み立てられる。鈴木が押し上げられることでシャドーがゴール前へ、また裏へ抜けることで撹乱。ようやくジュビロのオフェンスが形を見せてきた。
ドゥンガから始まった歴史。名波浩、前田遼一と受け継がれ今は山田大記へと繋がる。ピッチ上に存在する指揮官、リーダーは常にそこにいた。
鹿島、そして前節は首位の横浜F・マリノスに土を付けたこの時期に山田大記が4月以来に戻ってきたのはなにも偶然ではないはずだ。ジュビロが取り戻すべきはアイデンティティを体現出来るリーダーなのである。
考えてみろ。いざこざがあっても、勝てば全ての人がハッピーになれる。そうすれば、俺が言ったことなんてすぐに忘れられる。そうだろ? ドゥンガ
アメリカW杯でトロフィーを手にした翌年にジュビロ磐田へとやってきた世界一の闘将は、ことあるごとにチームメイトを叱責し、吠え散らし、そして時には鉄拳も見舞った。ドゥンガはなぜ怒り続けたのか?「ある日、ドゥンガが『俺だってこんなこと言いたくない』なんて言い始めてさ」と遠征時に同部屋だった藤田俊哉が、漏れ聞いた闘将の本音を明かす。「勝てば嬉しい。勝利給も手に入る。それのどこが悪いって言うんだ?」「負けたらどうなる? 喜ぶヤツは一人もいない。非難されるし、金にもならない。だったらどっちを選ぶ? 答えは一つしかない」──勝利である。プロにとっていかに勝つことが大事か。世界一のサッカー大国からやってきたドゥンガは、ようやくプロとして歩きはじめたばかりのJリーガーに、本当のプロであるための条件を叩き込んでくれたのであった。
https://number.bunshun.jp/articles/-/242588
◻️Let it roll!
最後のダービー。それもお互いが残留をかけて戦う生きるか死ぬかの一戦。
ジュビロは生き残るために戦い方を割り切れた。いや、割り切らざるを得なかった。まだエスパルスは自力残留がある。
やるか、やられるか。
ならやってやろう。準備は出来てるか?
【Play back the GAME】2016年J2リーグ第34節 セレッソ大阪vs清水エスパルス/帰ってきたファンタジスタ:奇跡の始まり
■帰ってきたファンタジスタ
2022年、新たな背番号“18”を背おう男、白崎凌兵。2018年を最後に鹿島アントラーズ、サガン鳥栖を経て4年ぶりに戻ってきた。様々な経験を手土産に、再びオレンジのユニフォームに腕を通す。
さて、その白崎と言えばで思い浮かべるのはこの試合ではないだろうか。2016年のJ2リーグ年間ベストゴールにも選出されたあのセレッソ大阪戦。奇跡の逆転自動昇格が始まったあの試合だ。
このゲームに関してはかつてはレビュー記事を書いたので、簡単なおさらいと、白崎個人を中心に追っていきたいと思う。
■王は中央にいてこそ輝く
このゲームのスタメンから。
今シーズンもエスパルスに残っている選手として、白崎他は竹内だけという、時代が過ぎていくのを感じると同時に、セレッソ監督だった大熊さんがGMとしてやって来るとはまだこの時は思いもしなかった。
白崎の立ち位置は
松原の動きやポジショニングに合わせて、というのが白崎のポジショニングではあるが、この試合ではほとんど元紀と2シャドー状態で、セレッソの山口蛍とほとんどマッチアップできる状態にする。改めてこの試合を観ると、セレッソはソウザがめっちゃ上がるってのもあるかもしれないが、山口が上がる場面はほとんど皆無。さすがに相手が元紀&白崎では分が悪すぎるか。
白崎のメインポジションは左ハーフスペース。高い位置でボールを受けるのもいいが、ポゼッションが安定したのは、竹内が落ちたところにヘルプで入った時。低い位置でも“前向き”にボールを持てたことが何よりの証拠か。この試合に関しては、右SBが三浦弦太でその前が石毛秀樹という関係上、弦太がオーバーラップするシーンはなく、竹内が落ちてきて4バックのビルドアップが行われたが、白崎が左ハーフスペースの深い位置に下りてきて、がポゼッションの肝だった。
■“ボランチ”白崎のメリット
まずは多彩なビルドアップ。これが最大の利点。低い位置からのパスワークの起点や自らがボールを運べることで相手のプレスを空転させる。
他のメリットとしては、器用なタイプでもあるので1人で何役でも与えられる。ビルドアップとしてのボランチの役目、そして少し高い位置でポジショニングすることで出口にもなれる。トップ下として出口になるのとボランチでありながら出口になれるのとでは、前線の数的関係や相手のブロックを破壊するのにギャップを生むことができ、大きな違いを生み出せる。この試合においては、白崎がビルドアップで何役もやれたことで石毛が右ウイングとしての役割を全うできた(前半は丸橋を消すことができた)ことと、長期離脱からの復帰後初スタメンとなった元紀のビルドアップの負担軽減に繋がる、などなど。どっちもどっちな展開が続いた前半においての白崎の役目は大きかった。
■4-1-4-1への変更。“トップ下”としての白崎
後半は、酒本をシャドーに入れ勝負を仕掛けてきたセレッソに流れが行く。こっちも後半早々に村田を入れてテコ入れを図るが、その酒本に先制点を奪われリードを許す。
状況的に、前節の松本戦を落として残り全勝でなければ逆転自動昇格は絶望的という中で、攻めに出ないといけない状況下、金子と北川を入れて4-1-4-1にシステム変更。また、松原が上がりっぱなしということもあり、白崎が中央に入っての実質3-1-5-1の形に。セレッソは杉本健勇を残して全員が下がって対応の防戦一方。最後は一方的な展開となる。
中3人(白崎、北川、金子)で数的優位を作ることができ、後方からボールを引き出せる。受け手がこれだけいれば楔は入れたい放題で、結果的にウチの2ゴールはこの3人で攻略して奪った。
さて、本題の白崎について、本業であるトップ下に置いては、まずは受け手としてや出口としてのレベルの高さは言うまでもなく。狭いエリアだろうとマークが付いていようとも関係なく納められるのは素晴らしい。
あとスペースの見つけ方。ここは元前線の選手だったこともあり嗅覚はすごいなと。サイドで起点作るよりもハーフスペースで起点作りすることの方が本人の良さも出るし相手も怖いだろうと。
ただ、白崎を2列目で使うとなると、楔を入れられるパサーが欲しい。あとSBの攻撃力。これは必須。左で出るのなら片山よりも山原の方が相性はいいかもしれない。左ウイングは新加入の神谷にカルリーニョスがいるので、可能性が高いのはボランチとしての起用でしょう。
■狼煙を上げろ
2016年の奇跡はここから始まった。白崎の一撃で始まった。
2022年は、これまでのうっぷんを全て晴らす。戦力は揃っている。あとは上積みだけ。
奇跡を起こして見せる
ロティーナ流ゾーンディフェンスとボールを持たせる意味/2人の司令塔@その名は片山瑛一、原輝綺
■ゾーンディフェンスとは
書くのめんどくさいので、過去記事のこれを読んで下さい。仕組みや原理原則は一緒です。
ここで書くゾーンディフェンスは、“ボールを持たせる”という守備。ポジショナルプレーはイコールポゼッションサッカーではないのと同じで、まず読み解く上であらゆる先入観を排除していく必要がある。ポジショナルプレーにも様々なカラーがあり、ボールポゼッションを軸にゲームビルディングしていくケースもあれば、ゴールから逆算して守備の立ち位置から配置を細かく修正していくことでトランジションに至るまでの流れをスムーズにしていくやり方もある。ミゲル・アンヘル・ロティーナは後者。ゾーンディフェンスにおける立ち位置もそうだが、なぜその選手をその配置にしているのか、なぜ奪いに行かずステイする必要があるのか、までロジックを読み解く必要がある。
■ボールを持たせる意味
今回のケーススタディはJ1第22節徳島ヴォルティス戦。割と衝撃的なスタッツが並んだゲームだが、この試合からロティーナ流のゾーンディフェンスを読み解いていく。
上記に、かつてのヤン・ヨンソンのゾーンディフェンスの記事を張ってはいるが、多少異なるところがある。簡単に言うと、ヨンソン式は設計図がゴールからの最短距離を優先した並びになっている。対してロティーナ流は、ゲームのイニシアティブを握ること、フィールド全体を支配することを第一に考えた仕組みになっている。データに数字として表れにくく、トランジションやボールポゼッションも無視しているわけではない。ボールポゼッションの指数が正義でもなく、ポゼッション率が高ければゲームを支配しているとは証明できないので、言語化するのは非常に難しいし、今回の例題に挙げるゲームはあまりにもデータとして特殊なのでじっくり見ていきたい。
とくに見ていきたいのは、あえてボールを持たせるという場面。誤解してほしくないのは、ピッチレベルの話では、どれだけボールポゼッションでリードしていたとしてもボールを奪うために、手段としてボールを持たせることはある、ということだ。ボールを持たせるということはポゼッションを放棄することではなく、ディフェンスの一環としてボールを奪うために今はステイしていた方がいい、ということ。奪いにアクションを起こすということは、スペースを生み出してしまうリスクもあり、デッドゾーンにボールを運ばれることが容易い状況に置かれる。そのデッドゾーンにボールを運ばせなければいい。そのデッドゾーンをどこに設定しているかが大切。
■ステイするタイミング、その理由
ステイの大切さ
日本のサッカーシーンで、たとえば、フォワードの選手が相手のディフェンスラインからボールを奪おうと一人で闇雲にプレッシングを敢行し、あっさりと相手に交わされて、ぽっかりとフォワードと中盤との間に広大なスペースを空けてしまう、このとき、果敢にプレッシングにいって相手に剥がされてしまったフォワードの選手に、“自分が埋めるべきスペースを空けてしまった”という感覚はあるだろうか。
サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 62項より引用
構えているディフェンスは一般的なゾーンではあるが、ハイプレスもゾーンディフェンスである。プレスに出た選手のカバーは誰が、という問題はハイプレスに対しての解決法だ。
その連動ができていなければ、プレスの代償として広大なスペースを作ることとなる。2015年の大榎エスパルスはその象徴。
持ち場を離れて飛び出すというリスクよりかは、ステイして構える、持ち場を守る守備は大切だ。かつて、バルサTV内でのインタビューでヨハン・クライフが「年老いた私がこの広い部屋を1人で守るのは不可能だ。だが、このソファーを守ることは今の私でもできる」と答えていた辺り、各々のエリア×10でフィールドに網を仕掛ける。これならばフィールドを支配することも可能だ。
では実際に見てみる。
徳島戦10:14
徳島が左SBでビルドアップ開始。
この場面でのデッドゾーンは中央。唯人とカルリーニョスが絞り、中央へのパスコースを消す。徳島はもう1度やり直す。エスパルスとしてはこれでいい。
展開は逆サイドへ。右SBの位置にトップ下の渡井が降りてくる。これに宮本がプレス。
徳島がトライアングルを作りハーフスペースに攻略しにかかる。宮本の後方のスペースには片山が絞り、そこから先への前進を許さない。
ハーフスペースにカギを閉め、ボールを大外へ。もう一度作り直す。ここは奪い処ではなく、片山は前進させないだけの役割を担う。ここでプレスに行けば、トライアングルを作られハーフスペースを攻略されるため。
宮本と唯人が絞る。片山はステイ。このデッドゾーンにボールを入れさせないことがチームとしての最大のミッション。
このまままた逆サイドへ展開。またやり直しにかかる。10:40
中盤4枚が距離感を保って絞る。ボールは徳島左ウイングへ。
原のターン。ここは1対1で粘る。その理由は、これ以上前進させないため。赤のデッドゾーンにボールを入れさせないために、まずはこの1対1の状況を続けさせる。1対1の状況を続けることに意味があり、とくに徳島はトライアングルを作ることに長けており、簡単に数的優位を作ることができる。なので原の役目は、1対1の状況をキープすることで最終ラインと中盤のラインの絞る時間を稼ぎ、もう1度徳島にビルドアップをやり直させること。片山と同じで獲りに行くことではなくて前進を許さないだけがミッション。
もう1度徳島は作り直す。ただ、原が時間を稼いだことでエスパルスは守備陣形が完成。唯人を頂点としたエスパルスの守備ブロックとなるトライアングルを作り、ここに絶対にボールを入れさせないことがチームミッション。この陣形は崩さない。
逆サイドへの展開を防ぐために、まずボールホルダーへはカルリーニョスと唯人が、逆サイドのケアは片山が中盤との距離感を考えてポジショニングを取ることで防ぐ。
10:56。楔を入れられる。局面は2対2
トライアングルを作ってはいたが、ここは流石というべきか徳島、僅かな隙間を縫って楔を入れてきた。
入れられたのはしょうがないので、次の対処として、楔を入れられてまずは前を向かせない。ポストでボランチに落としてきたが、
ここにはまず宮本がプレスに行く。ココは行くべき。誰か1人は行かなければ、そもそもポストを許して前を向かれているので、ステイする場面ではない。ボランチの宮本が行ったことで中盤のブロックに穴が埋めるここに対しては、片山が絞り対応。
逆サイドは捨ててでも、ここは片山は絞る必要があった。ナイス判断。逆サイは奥井が1対1で対応。ここでクロスを上げられるが、単純なアーリーなので簡単に跳ね返せた。
この1連のシーン、1分の長い展開ではあったが、お互いがスペースをカバーし合い、ブロックを強固にしたことで外で回させる。スペースのカバーやボールへのチャレンジが組織として判別できているからこそできる。
「これはバクスターが使っていた言葉ですが、”ボクシング・ムーブメント”、つまり、ボクシングでもパンチを打ったときに、打ちっぱなしだとガードの隙を突かれてパンチを撃ち込まれてしまうから、すぐにパンチした拳を自分の顔の前へ戻してガードを作る作業が必要になる。
サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論 著松田浩 鈴木康浩 発行KANZEN 64項より引用
■守備のスイッチを入れる”司令塔″
47:01より、
徳島ボランチにボールが入る。ここでやられてはいけないのは縦にパスを入れられること。原のポジショニングのこと。ここで原はプレスに飛び出そうとするが、留まる。ここでプレスに飛び出したら、対面の選手に裏に抜けだされるから。ならボールを保持させた方がいい。
宮本が絞り、中盤3枚の距離感が保たれる。徳島はもう一度やり直す。
47:14。ボールは逆サイドへ展開。全体が絞り切れているので人数もスペース管理も足りている。
立田が飛び出してプレスに行く。この場面は飛び出していい。なぜならばスライドが早く、後方のカバー体制はできている。ここはステイではなくゴー。取りに行ってもいい場面。
47:37。再び徳島右サイドから。中央をガッチリ固めているから、ハーフラインを超えられても動じることなく、プレスに行かなくても守れるだけの壁は出来ている。
ここまで来たら、徳島に縦パスを出せる体制にはない。ここでは、無理な浮き球を入れたが、楽々カット。マイボールにする。
ここまで2つのシーンを見てきたが、エスパルスがデッドゾーンに設定したのはペナルティエリアとその1つ前のエリア。あと、SBの後方。ここにボールは出させない。実際にこのゲーム、とくにSBの裏に出されたシーンはここまで1つもなく、90分通じてみても実は0。ココは徹底されていた。
ネガティブトランジション。このスイッチを入れていたのは右は原輝綺、ひだりは片山瑛一。ステイのタイミングを見誤ることなく縦を封鎖。奥にも行かせていないことから、徳島の攻撃、とくにラストプレーに関してはインスイングのアーリークロスが目立ち、これならば立田ヴァウドで跳ね返せる。竹内と宮本の2人は、アンカーがいないこのシステム上、無闇に前へチャレンジできないし、それをやって前回対戦ではボコられているからポジション厳守はしっかりできていた。しかし、となればこの2人が守備におけるスイッチを入れることは難しい。常にステイすることが求められるため、ステイとゴーのメリハリをつけられる役割ではないからだ。原と片山は、スペース管理とスペースの封鎖、そしてネガティブトランジションにおけるステイ&ゴーを自らが体現できることによってより強固なブロックを築くことができた。
このゲームで見られた見事なゾーンディフェンス。まるでフィールド上全体にトラップを仕掛けているかのような美しい守備組織は昨年までは見られなかった。あとの課題はボールポゼッションの質を上げる、ポジティブトランジション向上が上昇のカギだ
今後のブログ展開について
皆さん、お久しぶりです。
今回なんですが、今後のブログ展開や方向性についてのご連絡をしたいなと思っています。
Sportsnavi+ にて「猫に小判」を立ち上げて早7年になります。そんなに経つんですね。当時、そんなに多くはなかった戦術分析をメインとしたブログとしてスポナビ界に旋風を巻き起こしてきました。途中、個人技を主に紹介する当ブログ「豚に真珠」を開設し、選手個人にもフォーカスを当てて様々な視点からサッカー観戦をより豊かにしていこう、といった形で、サッカーに対する情熱が地域柄、日本で一番あるであろう静岡清水の皆さんに「こんな見方をしたら、より深く楽しく観れるよ」「せっかくサッカーに対しての熱があるのだから、ただ応援するよりもいろんな視点でサッカーを観たら面白いんじゃないかな」を当ブログのコンセプトとして、皆さんに愛され続け、なかなか炎上することもなく、平和にやってこれたのではないかなと思います。たまには炎上記事も書いてみたいものではありますが、読者の方々はすばらしい人格であり、有難い限りです。
そして昨年、まさかのfootballistaデビュー。驚きと同時に嬉しさと感謝でいっぱいであり、お陰様でシーズンレビューまで書かせて頂きました。編集さんのお蔭でカッチョイイ記事が完成して、スゴイなぁと感じつつ、今後もズブズブの関係を築いていけたらと思っておりますが、さらに新しい試みとして今年からオンラインサロンも開設しました。いやー、ファンの方々と直接交流出来るって楽しいですね。生実況など挑戦してますが、月500円は安すぎる!って思ってもらえるようなコンテンツでいけたらと、今後はさらに力を入れてこうと思っております。
さて、ということで今後の展開についてですが、ブログよりもオンラインサロンを中心に活動していこうと。やってみて単純に楽しいですし、あと自分の方向性も明確に出来るかなと。
ちなみに、僕は「戦術ブロガー」だとは思ってません。あくまでコンセプトは「少しでもサッカーの魅力を伝えたい」なので、その1つとして戦術分析があり、個人技紹介もあるんですね。戦術を紹介したいからブログを立ち上げたわけではないので、個人的には戦術見るより個人技見る方が好きでもあるので、ただコンセプトはブレてはいけないなと思ったのはホントです。
この7年間で戦術分析ブログもたくさん増え、それはそれでいいんですが、個人的に少し窮屈になってきたかなと。戦術の見方なんて人それぞれでいいんじゃないかと思ってるので、正解不正解とかそういう議論は好きではないんですね僕は。僕は個人技から戦術を読み解いているので、そこで戦術論争に巻き込まれてしまうと、そもそもの自分のコンセプトを見失ってしまうのではないかと思ったわけです。ここ最近は見失いつつありました。ブログ記事の構成も、初期とはだいぶ違ってきてるんじゃないかと。それはそれで書き方とか、表現力に成長もあるのかなと思いつつ、方向性がブレているとも感じてきている。そこに窮屈さを感じてきた所存です。要はただの戦術分析ブログになっているだけで、そこに見てくれている読者の皆さんが楽しんでもらえてるか、と考えるとそうではないですし、紹介しただけで満足してる自分がいるわけです。それではブログ記事を読んでも楽しめないと思いますし、無意味な論争が起きてしまうし、何より現場を一番にリスペクト出来てないんじゃないか、とも思えてるのです。やっぱり選手ってスゴイんですよね。だから記事でもツイートでも、選手の個人を批判することはしないようにしてるんです。下手だから出るなとか気持ち入ってないとか。個人技見ちゃうとその選手の強味と弱味の両方が見れる、それが個人的には楽しいので、そういうのをどんどん紹介していきたい。それが見れるだけでだいぶサッカーの見方が変わると思うんですよね。
そんな感じで、ブログに関しては不定期で更新はしていきますが、本格的にオンラインサロン中心にやっていこうと思います。ここで生実況やイベント、これまでの戦術分析やより深い個人技紹介などしていけたらと思います。なにより僕自身がやってみてノーストレスで楽しいので。
なので、入会される方はTwitterのヘッダーにURLあるのでそこから加入していただいていけたらと。そこに関しては良かったらで大丈夫です。
そして、もう堂々と言っちゃいますね。オンラインサロンの宣伝も兼ねて5月30日の横浜FM戦を、Twitterのスペース機能を使用して生実況を開催したいと思います。ご自由に参加出来ます。ただ、サロンメンバーはスピーカーとしての参加は可能ですが、その他の方々はリスナーのみの参加になります。生実況は雑談形式なので、まともな解説を聴きたい方にはDAZNの実況解説をお聞きになることをオススメしますが、楽しくやれたらなと思います。皆さんのご参加お待ちしてます。
↓オンラインサロン入会はこちらから
https://community.camp-fire.jp/projects/view/367584
ディサロ燦シルヴァーノ@ゴール集/その嗅覚、ホンモノ
今シーズン、新たに加入する新ストライカー、ディサロ燦シルヴァーノのゴールを2つ紹介。
ボールが左サイドへ。オレンジ丸がディサロ。
クロスが上がる。ディサロ、動き出す。狙いは白丸の相手DFの前。このDF、ディサロが視野に入っていない。首を振らぬ守備をしているので跳ね返すことしか考えていない。
ディサロ、白丸DFの前へ入る。DFはまだディサロに気づいていない。
DFの前に入ってヘディング。フリーパスでクロスに飛び込めた。
クロスからの飛び込みは、背後から飛び込んでDFの前に入る形が多い。この後のアウェー大宮戦でも同様の形でクロスに飛び込んでゴールを決めている。
続いて第7節レノファ山口戦
バイタルでパサーがボールを持つ。ディサロ、動き出す。
パスが出る。トップスピードに乗る。
ボールを受ける。白丸のDFがプレスに来る。このDFの動きを読めているディサロは
相手DFがニアサイドを警戒してスピードを上げると同時に、ディサロの重心は逆を行く。相手の体とスイッチする。
かわす。得意の左足で狙うは、フォアサイド。シュートコースは出来ている。
ゴール前での落ち着き。これが爆発できた最大の理由。
告知
今年は、何か新しいことを始めようかといろいろ考えましたところ、皆さんと作り手として共に新しいサッカーの見方を作っていきたいと思い、オンラインサロンを立ち上げました。ぜひ参加して、ともに作り上げていきましょう!!
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